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下積みなんてやってられない!いきなり最強の主人公になる。  作者: らいと


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8/13

シュナイダーの過去

魔人が住む、薄暗い世界。


一人の魔人が転移して戻ってきた。


そこは、デストモーデスの邸宅だった。


「また、この世界に帰ってくるとはな。せっかくの計画が……」


デストモーデスは足元に目を落とした。


邸宅の床には、大きな穴が開いていた。


しばらくその穴を見つめ、ぽつりと呟いた。


「……あの坊やに修繕費を払わせるか」


*


「シュナイダーの真相は、まだ解明されていない」


アルフォートはそう切り出すと、シュナイダーについて話し始めた。


「シュナイダーの自室から、昔の日記が見つかった。そこには、祖父がカーツ家の復興に取り憑かれたような人物だったと書かれていた。シュナイダーを領主にするために厳しい教育を施し、残り少ない財産を使って他の貴族との人脈を築いていたらしい。両親、特に父親は、そんな祖父に黙って従っていたとも記されていた」


アルフォートはアーシェに目を向けた。


「アーシェ、お前は部屋を出なさい。ここからは大人の話だ。まだ、お前が聞くには早い」


アーシェはレッドアニマを握りしめ、父親に言い返した。


「私はもう大人なの。それに、私も知りたい。シュナイダー……叔父さんのこと」


こいつは最初から頑固だったが、俺に対してだけじゃなく、父親にもそうなのか。


アルフォートはため息をつくと、再び話し始めた。


「カーツ家は、数百年前にこの国の半分を治めていた一族だ。だが、圧政によって弱体化したところを、隣国の王家に滅ぼされた。その王家が、現在この国を治めている。ただし、カーツ家は貴族として存続することを許されたらしい」


「つまり、今の王家がカーツ家の国を侵略したってことか」


「ああ。弱っていた国を落とす。それ自体に問題はない。国民は圧政から解放され、喜んだようだ」


アルフォートは一息つくと、話を続けた。


「やがて祖父は病に伏せた。ところが、ある日突然元気を取り戻し、それまで以上に狂気に駆られていったという」


俺は、シュナイダーの祖父に化けていたマルクを思い出した。


あいつは祖父の皮を脱ぎ捨て、悪魔の姿を現した。


「病に伏せてから、急に元気を取り戻したのか……」


「ああ。そして、シュナイダーが二十歳になったある日、祖父はどこからか手に入れた書物を持ってきて、それを読むように命じた。そこには、魔人との契約方法が記されていたそうだ」


アルフォートは一度言葉を切った。


「……日記は、そこで終わっている」


魔人との契約方法か。


やはり、祖父に化けていたマルクが関係しているのだろうか。


「ただ、シュナイダーが二十歳のときに母親が亡くなったものの、葬儀は行われなかったらしい。それに、父親は何かに怯えるようになり、翌年には失踪している。これは、当時からカーツ家に仕えていた人物の証言だ」


アルフォートはさらに続けた。


「その人物によると、母親が亡くなってから、シュナイダーは人が変わったようになったという」


「それは、どんなふうに変わったんですか?」


「まず、食べ物の好みが変わった。可愛がっていた犬が亡くなったときも、何とも思っていないような様子で、ただ『埋めてこい』と言ったそうだ。そして、それまで乗り気ではなかった領主の座を、本気で目指すようになった」


俺は、シュナイダーが魔人を逆に利用していたと話していたことを思い出した。


祖父に強制されていたはずのシュナイダーが、自ら領主の座を目指すようになった。


何があったんだ?


アルフォートは少し間を置いて続けた。


「その人物は幼少期からシュナイダーを見ていて、可哀想に思い、よく相談に乗っていたそうだ。シュナイダーは祖父の執拗な教育や、それを見て見ぬふりをする両親、特に父親への不満をよく口にしていたという」


アルフォートはアーシェをちらりと見た。


「ただ、母親は祖父がいないときにはシュナイダーを甘やかし、よく部屋で本を読んであげていたらしい」


「昔は、普通の子供だったってことか」


「ああ。よその子と遊びたがっていたし、犬も可愛がっていた。母親には甘えていた。ただ、ずば抜けて賢かったとも言っていた」


あのシュナイダーにも、そんな時代があったのか。


俺が知っているのは、魔人の力を利用し、人を生贄に捧げていた男だ。


そんな男にも、母親に甘えていた過去がある。


アルフォートはアーシェに目を向け、再び部屋を出るよう合図を送った。


しかし、アーシェは首を横に振った。


アルフォートは仕方なさそうに話を続けた。


「シュナイダーの母親は、私の母の妹なんだ。つまり、私とシュナイダーには血縁関係がある。もちろん、アーシェともだ。だから、シュナイダーが訪ねてきたときも、不思議ではなかった」


アーシェは何も言わず、手の中のレッドアニマに目を落とした。


アルフォートは少し間を置いた。


「ここからは憶測だが、アーシェの持つレッドアニマを力ずくで奪わなかったのは、母親の面影を見たからなのかもしれない」


母親の面影か……。


だが、それだけでシュナイダーのしたことが許されるわけじゃない。


それでも、あいつが何を考えていたのか、少しだけ気になった。


アルフォートはそこまで話すと、今度は俺がここへ運ばれた経緯を説明してくれた。


俺も、シュナイダーとの戦いから、祖父に化けていたマルク、そしてデストモーデスのことまで話した。


嘘みたいな話だが、アルフォートはすんなりと信じてくれた。


話が終わると、身体に障るからと、アーシェを連れて部屋を出ていった。


そのとき、アーシェに付いていた名前が、スッと消えていった。


(……消えた?)


まだ魔人の件は未解決だが……。


シュナイダーの物語は、幕が下りたってわけか。


さて、俺は丸三日眠っていたらしい。


三日か……。


セルフィが心配しているはずだ。マッケンとの約束もある。すぐに帰らないとな。


次は、カールとセルフィの物語があるはずだ。


その前に、ステータスの確認だ。


まずはカールから。


【カール】【種族 ーー】

【レベル 10】

【職業 死者】

【スキル 魂の導き】


レベルが少し上がっている。


ん? 何か前に見たときと違っていないか?


職業は冒険者だったはずだが……。


亡くなってすぐだったからか、それとも何か別の理由があるのかもしれない。


『死者』という文字を見て、カールが亡くなっていることを改めて実感した。


(カール……身体と、この世界の記憶を使わせてもらっている。その恩は必ず返す。だから、セルフィのことは俺に任せろ)


しかし、スキルもなかったはずだ。


魂の導き……。


カールが死者であることと、何か関係があるのか?


今は考えても仕方ない。


次は俺、翔太だ。


【翔太】【種族 異世界人】

【レベル 10】【職業 転生者】

【スキル 主演 12%】


ずいぶんレベルが上がっているな。


シュナイダーとの戦闘を思い返す。


結局、デストモーデスは倒せなかった。どこかへ消えてしまっただけだ。


アーシェの名前とスポットライトが消えたから、結果オーライとするしかないか。


主演12%……うーむ。


結局、レベルが上がったからなのか、物語が進んだからなのかは、分からずじまいだな。


*


王都から調査隊がこちらへ向かっているらしい。


新たな領主が決まるまでは、シュナイダーと血縁関係にあるアルフォートとアーシェ、グレンが屋敷に住めるようだ。


俺は馬車に揺られ、カールの家まで帰ってきた。


セルフィが待っていたら……。


そう考えると、カールの記憶を通してなのか、胸が重くなった。


よし、思い切って家のドアを開けよう。


だが、そこには誰もいなかった。


テーブルの上には、数日分のパンが置かれていた。


ベッドに腰掛け、そのパンを見つめる。


俺が帰ってくるまで、こうして届けてくれていたのか。


なぜだろう。胸が締め付けられる。


ふと、マッケンの話を思い出した。


セルフィに縁談の話が来ている。


だが、その話はカールの記憶にはなかった。


カールはどう思っていたのだろう。


セルフィに聞くわけにもいかないな。


とにかく、セルフィの家のパン屋へ行って、無事を知らせるか。


パン屋の近くまで来ると、店は繁盛しているようだった。


焼きたてのパンの香ばしい匂いが、辺りに漂っている。


店の様子を少し離れた場所から眺めていると、背後から声をかけられた。


「カール坊じゃないか。こんなところに突っ立って。セルフィなら中だよ」


振り返ると、恰幅のいい元気そうな女性が立っていた。


セルフィの母親だ。


「早く行ってあげな。あんたが帰ってこないって、心配で寝てないんだよ。行かないなら、もう娘には会わないでほしいね」


「それって、どういう意味ですか?」


パァン!


突然、肩を叩かれた。


「何言ってんだい。分かってるだろ。私はあの子が幸せなら、どっちだっていいんだけどね。あんたのことは昔から知ってるから、景気付けさ!」


そう言うと、母親は店の方へ歩いていった。


俺は肩に走る激痛を必死に抑えながら、その背中を見つめた。


……痛い。


あの母親、見た目以上に力があるな。


店が落ち着いてから行くか。


そう自分に言い訳しながら、近くで時間を潰していると、セルフィが店から飛び出してきた。


こちらを見つけるなり、走ってくる。


その瞬間、セルフィの頭上に名前が現れ、スポットライトが彼女を照らした。


【セルフィ】

自宅のパン屋で働く女性。カールの返事を待つが、不安を抱えている。


「カール! 無事だったの? 無理しないって約束したじゃない! どこに行ってたの!」


セルフィにまくし立てられ、少しムッとした。


だが、その目に浮かぶ涙を見ると、胸が痛んだ。


「すまない。急な用件があって、連絡さえできなかった」


「パン、届けてくれたんだね。ありがとう」


セルフィは少し俯いた。


「……それだけなの? ほかに何かないの?」


どうすればいい?


ここは抱きしめて、「俺のところに来い」とでも言えばいいのだろうか。


いや、違う。


カールを演じることはできても、気持ちまでカールになれるわけじゃない。


「いや、元気な姿を見せに来ただけだから」


セルフィは俺の目をじっと見つめた。


何かを言いかけたが、そのまま口を閉じる。


しばらく沈黙が続いた。


やがて、セルフィは決意したように顔を上げた。


その瞳は、まっすぐ俺を見据えていた。


「……あなた、誰なの? 本当のカールはどこに行ったの?」

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