また、見知らぬ天井を見つめて
シュナイダーは頭を抱え、苦しそうに叫んでいた。
「頭の中に入ってくるな! 早く出ていけー!」
「ぐっ……ぐあああああッ!」
再び絶叫が地下室に響き渡った。やがて叫び声が収まると、シュナイダーは頭を押さえていた両手をゆっくりと下ろし、不気味な笑い声を漏らした。
「……ふはははっ」
「――――――」
何かを話している。だが、聞き取れない。いや、言葉そのものが違うんだ。
そのとき、シュナイダーの頭上に表示されていた名前が書き換わった。
【デストモーデス】
シュナイダーから身体を奪い取った高位魔人。
名前が変わった? いや、シュナイダーが乗っ取られたのか。
「おほん。あああ……発音の練習はこれでいいか」
「よし、言語の習得完了っと」
デストモーデスは、キョロキョロと辺りを見渡している。
何だ、こいつの余裕のある態度は……。
ようやくこちらに目を向けると、今度は自分の身体を確かめ始めた。
「傷だらけなうえに、肩の傷は致命傷に近い。私の力の一部を与えた挙げ句、この体たらくとは……」
デストモーデスの身体からは、すでに赤いオーラが見えなくなっていた。
よく分からないが、奴は油断している。今が最後のチャンスだ。
勇者を演じるんじゃない。物語に流されるな。
これは俺が主人公の物語だ。
俺自身が勇者になる。ここで決着をつける!
俺は感覚の鈍った指先に剣の刃を押し当てた。
「ぐっ……!」
鋭い痛みが走る。その痛みに耐えながら、布で固定した剣の柄を握り締めた。
頭で考えるな。感じろ。自分を信じるんだ。
「いっけえええッ! 究極無双幻夢斬!」
【ステータスUP】
【スキル解放:究極無双幻夢斬】
次の瞬間、俺の身体が三つに分かれた。
残影が実体を持ち、手にした剣は赤、青、緑の光を放っている。三人の俺が、三方向からデストモーデスへ迫る。
デストモーデスは、迫る俺たちに目を向けた。そして、片手を高く掲げ、ゆっくりと手のひらを開く。
その瞬間、漆黒の闇が広がっていく。
三方向から迫った剣が、その闇の中へ吸い込まれていく。剣先が綺麗に消えていた。
まるで、そこだけ空間が違うかのようだった。
「お相手してあげたいが、時間がない。申し訳ないが、これで失礼する」
デストモーデスは軽く笑うと、その漆黒の闇の中へ姿を消した。
俺は、消えていくデストモーデスを見つめることしかできなかった。やがて膝をつき、漆黒の闇が消えていくのを見届ける。
「追い返せたのか、勝手に帰ってくれたのか……分からないが、奴はもうここにはいない」
安堵のため息が漏れた。そのまま仰向けに倒れ込み、俺は小さく笑った。
「もう一歩も動けない……主人公も楽じゃなかった」
「うぅぅ……私は一体……イタタタ!」
どうやら、兵士長は生きていたようだ。
そのとき、階段の方から複数の足音が聞こえてきた。
*
また、俺は見知らぬ天井を見つめて目を覚ました。
起き上がろうと、ベッドに手をついた。
「イテテェー!」
両手のひらには、包帯がぐるぐると巻かれていた。痛みはあるが、感覚は戻っているようだ。
身体中が軋んでいる。ゆっくりと上半身を起こし、あの後のことを思い返した。
砦の兵士たちが地下室になだれ込んできた。どうやら入口を探し出し、駆けつけてきたようだった。
兵士たちは、まず兵士長の手当てをしていた。一方、俺には槍が向けられていたが、もはや応戦する力は残っていなかった。
すると、兵士長が何かを指示した。観念したのか、自分より先に俺を助けるよう兵士たちに命じていた。
そこまでは覚えている。だが、安心した途端に意識が遠のき、その後のことは何も覚えていない。
コンコン。
ドアをノックする音が聞こえた。
「はい」
ガンッ!
勢いよくドアが開いた。
「アンタ、やっと目を覚ましたのね。良かった!」
甲高い声の主は、アーシェだった。そう言いながら、半身を起こしていた俺に抱きついてくる。
全身に激痛が走った。
「あぎゃ〜!」
「あら、ごめんなさい」
「アーシェ、ここはどこだ? それより、何でお前がここにいるんだ?」
「ここはシュナイダーの屋敷よ。何でここにいるかって、私じゃなくて、あなたの方でしょ?」
「そんなことは、どっちだっていい」
そのとき、見知らぬ男が部屋に入ってきた。
「カール君か。気がついたのだな、よかった。先にお礼を言いたいのだが、よいかな?」
五十歳くらいだろうか。体格の良い男だ。なかなか主役になれそうな見た目をしている。
「お礼ですか? 俺はあなたのこと、知りませんけど」
「ああ、まずは自己紹介からだな。アーシェの父、アルフォートだ。よろしく、カール君」
アーシェは目を赤くしながら言った。
「あなたがくれたライフエールで、お父様が助かったの」
俺はアーシェとアルフォートに笑顔を向けた。
「よかったな、アーシェ。それに、アルフォートさん」
アーシェは父親を見上げると、ゆっくりと立ち上がった。そして、アルフォートと並び、二人そろって俺に深々と頭を下げた。
「カール君、君のおかげだ。こうしてアーシェとグレンに、また会うことができた。本当にありがとう」
アルフォートは頭を上げ、再び口を開いた。
「カール君、君にはまだ礼を言わなければならないことがある。シュナイダーのことだ」
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