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下積みなんてやってられない!いきなり最強の主人公になる。  作者: らいと


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7/12

また、見知らぬ天井を見つめて

シュナイダーは頭を抱え、苦しそうに叫んでいた。


「頭の中に入ってくるな! 早く出ていけー!」


「ぐっ……ぐあああああッ!」


再び絶叫が地下室に響き渡った。やがて叫び声が収まると、シュナイダーは頭を押さえていた両手をゆっくりと下ろし、不気味な笑い声を漏らした。


「……ふはははっ」


「――――――」


何かを話している。だが、聞き取れない。いや、言葉そのものが違うんだ。


そのとき、シュナイダーの頭上に表示されていた名前が書き換わった。


【デストモーデス】


シュナイダーから身体を奪い取った高位魔人。


名前が変わった? いや、シュナイダーが乗っ取られたのか。


「おほん。あああ……発音の練習はこれでいいか」


「よし、言語の習得完了っと」


デストモーデスは、キョロキョロと辺りを見渡している。


何だ、こいつの余裕のある態度は……。


ようやくこちらに目を向けると、今度は自分の身体を確かめ始めた。


「傷だらけなうえに、肩の傷は致命傷に近い。私の力の一部を与えた挙げ句、この体たらくとは……」


デストモーデスの身体からは、すでに赤いオーラが見えなくなっていた。


よく分からないが、奴は油断している。今が最後のチャンスだ。


勇者を演じるんじゃない。物語に流されるな。


これは俺が主人公の物語だ。


俺自身が勇者になる。ここで決着をつける!


俺は感覚の鈍った指先に剣の刃を押し当てた。


「ぐっ……!」


鋭い痛みが走る。その痛みに耐えながら、布で固定した剣の柄を握り締めた。


頭で考えるな。感じろ。自分を信じるんだ。


「いっけえええッ! 究極無双幻夢斬!」


【ステータスUP】


【スキル解放:究極無双幻夢斬】


次の瞬間、俺の身体が三つに分かれた。


残影が実体を持ち、手にした剣は赤、青、緑の光を放っている。三人の俺が、三方向からデストモーデスへ迫る。


デストモーデスは、迫る俺たちに目を向けた。そして、片手を高く掲げ、ゆっくりと手のひらを開く。


その瞬間、漆黒の闇が広がっていく。


三方向から迫った剣が、その闇の中へ吸い込まれていく。剣先が綺麗に消えていた。


まるで、そこだけ空間が違うかのようだった。


「お相手してあげたいが、時間がない。申し訳ないが、これで失礼する」


デストモーデスは軽く笑うと、その漆黒の闇の中へ姿を消した。


俺は、消えていくデストモーデスを見つめることしかできなかった。やがて膝をつき、漆黒の闇が消えていくのを見届ける。


「追い返せたのか、勝手に帰ってくれたのか……分からないが、奴はもうここにはいない」


安堵のため息が漏れた。そのまま仰向けに倒れ込み、俺は小さく笑った。


「もう一歩も動けない……主人公も楽じゃなかった」


「うぅぅ……私は一体……イタタタ!」


どうやら、兵士長は生きていたようだ。


そのとき、階段の方から複数の足音が聞こえてきた。


*


また、俺は見知らぬ天井を見つめて目を覚ました。


起き上がろうと、ベッドに手をついた。


「イテテェー!」


両手のひらには、包帯がぐるぐると巻かれていた。痛みはあるが、感覚は戻っているようだ。


身体中が軋んでいる。ゆっくりと上半身を起こし、あの後のことを思い返した。


砦の兵士たちが地下室になだれ込んできた。どうやら入口を探し出し、駆けつけてきたようだった。


兵士たちは、まず兵士長の手当てをしていた。一方、俺には槍が向けられていたが、もはや応戦する力は残っていなかった。


すると、兵士長が何かを指示した。観念したのか、自分より先に俺を助けるよう兵士たちに命じていた。


そこまでは覚えている。だが、安心した途端に意識が遠のき、その後のことは何も覚えていない。


コンコン。


ドアをノックする音が聞こえた。


「はい」


ガンッ!


勢いよくドアが開いた。


「アンタ、やっと目を覚ましたのね。良かった!」


甲高い声の主は、アーシェだった。そう言いながら、半身を起こしていた俺に抱きついてくる。


全身に激痛が走った。


「あぎゃ〜!」


「あら、ごめんなさい」


「アーシェ、ここはどこだ? それより、何でお前がここにいるんだ?」


「ここはシュナイダーの屋敷よ。何でここにいるかって、私じゃなくて、あなたの方でしょ?」


「そんなことは、どっちだっていい」


そのとき、見知らぬ男が部屋に入ってきた。


「カール君か。気がついたのだな、よかった。先にお礼を言いたいのだが、よいかな?」


五十歳くらいだろうか。体格の良い男だ。なかなか主役になれそうな見た目をしている。


「お礼ですか? 俺はあなたのこと、知りませんけど」


「ああ、まずは自己紹介からだな。アーシェの父、アルフォートだ。よろしく、カール君」


アーシェは目を赤くしながら言った。


「あなたがくれたライフエールで、お父様が助かったの」


俺はアーシェとアルフォートに笑顔を向けた。


「よかったな、アーシェ。それに、アルフォートさん」


アーシェは父親を見上げると、ゆっくりと立ち上がった。そして、アルフォートと並び、二人そろって俺に深々と頭を下げた。


「カール君、君のおかげだ。こうしてアーシェとグレンに、また会うことができた。本当にありがとう」


アルフォートは頭を上げ、再び口を開いた。


「カール君、君にはまだ礼を言わなければならないことがある。シュナイダーのことだ」

読んでいただき、ありがとうございます。


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