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下積みなんてやってられない!いきなり最強の主人公になる。  作者: らいと


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6/12

魔人の力

シュナイダーの頭の両側から伸びた二本の角が、完全にその姿を現した。


「ウオオオオオッ!」


天井に向かって放たれた雄叫びとともに、膨れ上がっていた赤いオーラが一気に解き放たれた。


地下室が激しく揺れる。


押し寄せる圧力に身体が浮きかけ、俺は足を踏ん張って剣を構え直した。


やがて、荒れ狂っていた赤いオーラが静まっていく。


その中心に、シュナイダーが立っていた。


姿はさほど変わっていない。だが、そこにいるのは、もはや先ほどまでの男ではなかった。


額を汗が伝う。


剣を握る手に、自然と力が入った。


「シュナイダー、悪魔に魂を売り渡してまで、何を欲しがる?」


*


シュナイダー自身も、己の変化に驚いていた。


(これが……魔人になるということか)


身体の奥から、際限なく力が湧き上がってくる。


それでいて、心は不思議なほど静かだった。高揚するどころか、以前よりも冷静に物事を考えられる。


目の前の冒険者を見据え、シュナイダーは口を開いた。


「この国の主人(あるじ)になるつもりでいたが……小さなことだったな」


手にしていた剣を投げ捨て、悠然と腕を組む。


「貴様には悪いが、ここまでだ。もはや誰にも、この私を止めることはできん」


その言葉が終わると同時に、シュナイダーの姿が消えた。


*


――ズヒュンッ!


何が起きたのか分からなかった。


気づいたときには、俺の身体が天井に叩きつけられていた。


石片が飛び散り、舞い上がった粉塵が視界を塞ぐ。


「ぐはっ……!」


意識が飛びかけた。強化された身体でなければ、今ので終わっていただろう。


速すぎる。目で追うことすらできなかった。


「くそっ……攻めるしかない!」


俺は天井を蹴り、落下しながら両手をシュナイダーに向けた。


「フルバーストライトニング!」


両手から放たれた無数の稲妻が、巨大な渦を巻いてシュナイダーへ殺到する。


だが、シュナイダーは避けようともしなかった。


両手を前に突き出す。


途端に空気が震え、その手から身体をはるかに上回る巨大なエネルギーの塊が放たれた。


床の石材を捲り上げながら、稲妻へと突き進む。


激突した瞬間、俺の魔法が押し返された。


いや、違う。


稲妻が、次々と飲み込まれている。


「うそだろ!?」


巨大なエネルギーは勢いを失うことなく、俺に向かって迫ってきた。


空中では逃げ場がない。


俺は咄嗟に剣を地面へ向けて振り抜いた。


「スラッシュ!」


斬撃を放った反動で身体の軌道を変える。


直後、すぐ脇を巨大なエネルギーが通過した。


背後で轟音が響き、砕けた石が降り注ぐ。


着地して振り返ると、床が大きく抉れていた。


まともに受けていたら、ひとたまりもない。


「魔法が駄目なら、こいつだ!」


地面を蹴った。


「神道流無双斬り!」


剣が赤く燃え上がり、俺の身体が残像を引いて加速する。


虎が獲物へ飛びかかるような斬撃を、シュナイダーめがけて振り下ろした。


だが――。


ガシッ!


刃が止まった。


シュナイダーが、剣を素手で掴んでいた。


「なっ!?」


振りほどく間もなく、身体が宙に浮く。


シュナイダーは剣を掴んだまま俺を振り回し、壁に向かって放り投げた。


剣が手から離れ、背中に凄まじい衝撃が走る。


「がはっ!」


壁に叩きつけられた俺の目の前で、シュナイダーが奪った剣を持ち上げた。


ミシッ……。


刃が歪み、細かなひびが広がっていく。


バキンッ!


次の瞬間、剣は粉々に砕け散った。


「所詮、勇者といえど、魔人の力の前ではこんなものか。そろそろ終いにするとしよう」


砕けた刃が床に散らばる。


こんな奴が街に出たら、全滅だ。


俺は立ち上がり、両手を大きく広げた。


「フルバーストライトニング・ダブル!」


左右の手から、それぞれ凄まじい稲妻が迸った。


青白い閃光が地下室を埋め尽くす。


「ぐあっ!」


両手のひらに焼けつくような痛みが走った。


皮膚が焼け爛れ、肉の焦げる臭いが鼻を刺す。


それでも両手を下ろさなかった。


二つの稲妻が空中で合流し、巨大な雷となってシュナイダーへ突き進む。


「チッ、まだ抗うのか」


シュナイダーは再び両手を突き出した。


先ほどと同じ巨大なエネルギーが放たれる。


雷とエネルギーが正面からぶつかった。


またしても、稲妻が飲み込まれていく。


だが、今度は違った。


後から押し寄せる雷がエネルギーの中心へ食い込み、互いの力を削り始めた。


バチバチッ!


青白い閃光が弾け、衝突地点の床に亀裂が走る。


「いっけえええッ!」


次の瞬間、地下室を揺るがす轟音が響いた。


二つの力が弾け、跡形もなく消滅する。


俺は荒い息を吐いた。


相殺できた。


だが、両手のひらは真っ赤に焼け爛れている。指を曲げるだけで激痛が走った。


それでも、わずかに希望が見えた。


「まだだ! まだ終わらせない!」


床に落ちている二本の剣が目に入った。


兵士長の剣と、シュナイダーが投げ捨てた剣だ。


まずは兵士長の剣を拾い上げる。


「バーストアタック!」


一歩踏み込み、蒼い斬撃を放った。


「バーストアタック!」


さらに踏み込み、間髪入れずに二撃目を繰り出す。


シュナイダーは両腕を振るい、斬撃を次々と払い除けた。


蒼い光が砕け、その腕に火傷のような痕が残る。


シュナイダーの身体に赤いオーラがまとわりつき、足元の床に細かな亀裂が走った。


俺はその隙に、もう一本の剣を拾い上げた。


両手に一本ずつ。


二刀流の構えを取る。


焼け爛れた手のひらが柄に触れ、思わず顔が歪んだ。


指先が震える。握り続けるだけでも限界が近い。


「こんちくしょー! 神道流無双斬り!」


歯を食いしばって地面を蹴った。


二本の剣が左右に閃き、無数の残像を描く。


まるで二頭の虎が咆哮を上げるように、斬撃が左右からシュナイダーへ襲いかかった。


シュナイダーは後方へ跳び退いた。


だが、斬撃は逃さない。


咄嗟に両腕を交差させ、迫る刃を受け止めた。


ザシュッ!


両腕に新たな傷が刻まれる。


先ほどの火傷と重なり、赤い血が腕を伝った。


シュナイダーの表情から、わずかに余裕が消えた。


「訂正しよう、勇者よ。少しはやれるようだな」


赤いオーラが再び膨れ上がる。


シュナイダーは距離を取ると、両手を広げた。


まずい。またあれが来る!


巨大なエネルギーが放たれる。


両手じゃ間に合わない。


俺は咄嗟に片手を突き出した。


「フルバーストライトニング!」


焼け爛れた手のひらに激痛が走る。


放たれた稲妻が渦を巻き、迫り来るエネルギーに正面からぶつかった。


激しい閃光。


だが、今度は押し負けなかった。


稲妻とエネルギーは互いを削り合い、そのまま消滅した。


片手だった。


それなのに、相殺できた。


奴が疲れてきたのか。それとも、勇者の力が上がっているのか。


どちらにせよ、今なら――。


シュナイダーの姿が消えた。


「しまっ――!」


気づいたときには、すでに目の前にいた。


迫る拳を、かろうじて剣の柄で受け止める。


ガキンッ!


衝撃で身体が弾き飛ばされた。


だが、シュナイダーはすぐさま間合いを詰めてくる。


「終わりだ!」


鋭い蹴りが迫った。


俺は咄嗟に片方の剣を突き出した。


ザシュッ!


刃がシュナイダーの左足に深く突き刺さる。


「ぐっ……!」


シュナイダーの動きが止まった。


奴は自分の足に刺さった剣を見下ろし、困惑したように眉をひそめた。


そして、刃を一気に引き抜いた。


ブンッ!


剣を振ると、付着していた血が床に飛び散った。


シュナイダーは何事もなかったかのように剣を握り直す。


痛くないのか? それとも、平然を装っているだけなのか。


だが、あれだけ傷つけたんだ。動きには必ず影響があるはずだ。


俺は腰の布袋を引き裂き、残った剣の柄と手をきつく縛りつけた。


演じるだけでは、駄目なのか?本物の勇者じゃないと......。


いや、そんなことを考えている場合じゃない。


今は俺が勇者だ。最後までやり遂げる。


もう握力は当てにならない。次が最後かもしれない。だから。


全身のオーラを限界まで高め、空いた手を突き出す。


「喰らえー! フェニックスアロー!」


無数の炎の矢が放たれ、シュナイダーへ殺到した。


シュナイダーは剣を振るい、次々と炎の矢を薙ぎ払う。


火の粉が舞い、赤いオーラがその身体を包み込んだ。


今だ!


俺は地面を蹴った。


「神道流無双斬り!」


一頭の虎が咆哮を上げるような斬撃が、シュナイダーの左側から襲いかかる。


シュナイダーは即座に反応し、剣を合わせようとした。


だが、その瞬間――。


ガクンッ!


左膝が崩れ、床についた。


「なっ!?」


足の傷だ。


崩れた体勢を立て直そうとするが、剣の軌道がわずかに逸れる。


その隙を逃さず、俺は剣を振り抜いた。


ザシュッ!


刃がシュナイダーの肩を斬り裂く。


「ぐあっ!」


シュナイダーは肩を押さえ、よろめきながら距離を取った。


先ほどまでの余裕は消え、その顔には焦りが浮かんでいる。


よし、もう一息だ。


奴は確実に弱っている。


だが、俺の手にも限界が来ていた。


もはや剣を握る力は残っていない。布に縛りつけられた剣が、手の先で重く垂れ下がっている。


それでも、あと一撃。


そう思ったときだった。


シュナイダーが突然、両手で頭を押さえた。


「ぐっ……ぐあああああッ!」


身体を折り曲げ、苦しげに叫ぶ。


その声が、地下室に響き渡った。

読んでいただき、ありがとうございます。


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今後ともよろしくお願いします。

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