調査隊の疑惑
俺とアーシェは、旧領主シュナイダーの屋敷に戻ってきた。
ここへ向かう途中、アーシェに聞いたところ、調査隊のメンバーは三名で、隊長はアルクという男らしい。
父親と弟は自宅に帰ったそうだ。なぜ一緒に帰らなかったのか尋ねると、「私の勝手でしょ」とそっぽを向かれてしまった。
屋敷に入ると、調査隊の隊長であるアルクが出迎えてくれた。
「翔太です。砦の調査に同行させてもらいます」
「カールと聞いていたが、翔太が正しいのか?」
「ええ、翔太です。どこかで間違って伝わったようですね」
アーシェがじっとこちらに視線を向けているのが、見なくても分かる。
「まあいい。アルクだ。あなたの活躍は聞いている。ウォール街を救ってくれてありがとう」
差し出された手を握り返すと、アルクが一瞬、怪訝な表情を浮かべた。だが、すぐに元の表情に戻った。
そのとき、アルクにスポットライトが当たり、目の前に名前が表示された。
【サイフィス】
調査隊の隊長。
剣と魔法を使いこなす凄腕。
(……ん? 名前が違う?)
確かにアルクと名乗ったはずだが、表示されているのはサイフィスという名前だ。
今まで、こんなことはなかったはずだ。シュナイダーのときは、赤字で見えない箇所もあった。
(この違和感……)
いきなり「サイフィスではないですか?」と聞くわけにもいかないな。
それとなく探りを入れてみるか。
「それで、屋敷の方はどうですか? 何か見つかりました?」
「いや、昨日から屋敷の中を調べているが、今のところ手がかりになるような物は見つかっていない」
「逆に、君は何か思い当たることはないか?」
「いや、俺は戦っただけです。兵士長は何か話したんですか?」
「兵士長は砦で隔離されていたはずだった。だが、亡くなったという報告が来ている。それも含めて砦に向かう予定だ」
「亡くなった?」
「国家転覆は重罪だ。兵士長なら、そのことは知っていたはずだ。それを苦にしたのかもしれない」
「……」
最後は善意からなのか、保身のためなのか分からないが、兵士長は俺を助けてくれた。
……割り切るしかない。
今はアルクと名乗った男の方が気になる。
(とりあえず、しばらく様子を見ておくか)
さて、午後から砦に向かうまで、どうするか。
そういえば、新たな領主がこの屋敷に派遣されると、アーシェが言っていたな。
ベッドの上で聞いた日記の内容を思い出した。
悪魔に取り入られた、シュナイダーの祖父マルクス。
この屋敷が領主に与えられるものなら、シュナイダーが育った家は別にあるはずだ。
俺は何気ない様子を装い、アーシェに話しかけた。
「アーシェ、まだお前の部屋は残っているのか?」
「次の領主様が来るまでは使っていいみたいだから、使わせてもらっているの」
「よし、午後までそこで待つとするか。いいだろ、アーシェ」
*
部屋に入り、扉を閉めた。
「アーシェ、シュナイダーの祖父、マルクスはここに住んでいたか?」
「お祖父さんと思われるような人は、見たこともなかったはずよ」
そうなると、やっぱり別に住処があったと考えられるな。
アルクに伝えるべきか。調査隊なら、すでに目星をつけている可能性も高いはずだ。
だが、名前の違いがはっきりするまでは、こちらの情報をあまり出さない方がよさそうだ。
万が一のことも考えておくか。
俺はアーシェを見つめた。
「アーシェ、大事な話がある。ちゃんと聞いてくれ」
なぜか、アーシェは俺を見て頬を赤らめた。
「アーシェ、お前はここに残ってくれ。そして、万一俺だけが戻らなかったら、アルフォートに連絡してくれ」
アーシェは少し残念そうな顔をした。
「なんで、あんただけ戻らないことなんかあるの?」
俺はアーシェの両肩に手を置いた。
「勘だよ、勘。アルフォートには、調査隊のアルクに何かあると伝えてくれ。これは、アーシェ、お前にしか頼めないことだ」
アーシェは目を背けた。
「仕方ないわね。この私がちゃんと待ってるから、翔太は必ず帰るの。分かったわね」
「ああ、分かった。必ず帰ってくるさ」




