↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
下積みなんてやってられない!いきなり最強の主人公になる。  作者: らいと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/13

神さまの贈り物

「私の勇者は死なないよ……」


セルフィは、その先に続く言葉が怖くて口にできなかった。


カールとセルフィ、二人の間に長い沈黙が流れた。


どれほどの時間が過ぎただろう。


二人には、一瞬の時間だった。


セルフィはゆっくりと顔を上げ、カールにそっと別れの口づけをした。


そして唇を離すと、カールにゆっくりと背を向けた。


「……私の勇者が、私を困らせたりしないもんね。まだ悲しみの方が強いけど……私は前を向いて歩くから」


「あなたは、やっぱり私の勇者だった。どんな高価な物より、最高のプレゼントをありがとう。……指輪じゃないよ?」


セルフィは夕焼けの中にカールの笑顔を思い浮かべ、そっと微笑んだ。


「カールがくれたこの気持ちが、最高の贈り物だから」


カールは、セルフィの背中をそっと抱きしめた。


二人の間に、もう言葉は必要なかった。


カールは最後にセルフィの頬へ軽く口づけをすると、耳元で囁いた。そして、ゆっくりとその手を離した。


セルフィは、遠ざかっていく足音をいつまでも聞いていた。


*


翔太は、あの後、カールの自宅に帰っていた。


カールが言うには、残された時間はもうあまりないらしい。


「時間いっぱい、セルフィといなくてよかったのか、カール」


「ああ、会えるはずのなかったセルフィに会えた。……それに、この手で抱きしめることができた」


「翔太、お別れの時間が来たみたいだ。『魂の導き』は、神様からのプレゼントだったんだよ」


「翔太に身体と記憶を渡した見返り……みたいなことを言っていたよ」


「そうか……。でも、またどっかの世界に生まれ変われるさ。カール、お前ならな」


「ありがとう、翔太。最後になるけれど、僕がいなくなれば、君の中から僕の記憶、セルフィとの記憶も消える」


「そうか、お前との記憶も消えるのは寂しいな。けど、カールの記憶には助けられたけど、苦しめられたりもしたな。……また会える日が来るまで、さよならは言わない。またな」


「うん。翔太も頑張って、僕の代わりに主人公になってくれ。……またな」


*


――翔太は、なぜ自分が天井をじっと見つめていたのか、分からなかった。


頬が濡れている理由も。


彼は身体を起こすと、テーブルの上に置かれた山盛りのパンを、どうやって食べ切ろうかと真剣に考え始めた。


*


シュナイダーとの戦いで負った傷が、だいぶ癒えてきた。


手のひらに少し傷痕が残ったが、物を持っても痛みや違和感は出ていない。


食事は、ずっとパンを水で流し込んでいた。なぜか食べ切らないといけない気がして、ようやく食べ終わった。


そのとき、ノックもなしに扉が開いた。


「怪我の具合はどうなの?」


アーシェだった。


「お前な、ここは俺の家だぞ。ノックぐらいしろ」


「カールには、見られたら困るものなんかないでしょ」


カール……転生前の体の持ち主の名前だったな。神様がそう言っていたような気がするけど。


翔太にどう戻すかだな。


「俺にも見られたくないものだってある。アーシェ、実はな、俺の名前を翔太って呼んでくれないか。お前の頼みを聞いたよな。だったら何も聞かずに翔太って呼んでくれ」


「はあぁ? いきなりカールをやめて翔太って呼べだって? なんか意味あるの?」


「そこはあまり気にするな。アーシェだから頼んでるんだ」


アーシェはよく分からないという表情をしてから、少し嬉しそうな顔をした。


「私にはどっちでもいいわ。それより、王都から調査隊が来たの。砦に行くから、かっ、翔太にも同行してほしいって言ってるの」


「それを先に言えよ」


砦か……魔人の件もまだ解決していない。行って確かめてみるか。


「よし、俺も同行するから連れて行ってくれ」


*


翔太とアーシェは、調査隊の中継地点となっているシュナイダーの元屋敷へ向かって歩いていた。


その途中、パン屋の前に停まった馬車が目に入った。


馬車からパン屋の入り口まで、赤いカーペットが敷かれている。


「アーシェ、あれはなんだ?」


「あんた、何にも知らないのね。あれは貴族が花嫁を迎えに来てるところよ」


そのとき、パン屋の入り口から、綺麗なドレスを着た一人の女性が出てきた。


周りの人々は祝福するように、花びらを撒いている。


アーシェは女性に見惚れていた。


「綺麗な人ね。こっちを見てない?」


翔太はアーシェに言われて、その女性に目を向けた。


そのとき、女性と目が合った。


「そうか、俺は知らないな。けど、清楚で綺麗な人だな」


女性がこちらに向かって何か呟いたように見えたが、翔太は気にせずアーシェを見た。


「アーシェ、行くぞ。調査隊が待ってるだろ」


「そうね、行きましょう。おめでとう、綺麗な花嫁さん」


女性は男性の手を取り、馬車に乗り込んだ。


その女性の胸元では、ネックレスに通された指輪が静かに揺れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。