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No Game~世界で最後のプレイヤーだった俺は、2055年でゲームの始まりに戻された~  作者: nemuinemu-


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第二話

ふと、部屋の隅にある姿見に映る自分の顔が目に入った。


「……誰だ、これ」

鏡の中に立っていた少年も、信じられないものを見るような目つきでこちらを見返してくる。

おそるおそる自分の頬に触れてみる。鏡の中の少年も、まったく同じタイミングで自分の頬へと手を伸ばした。


間違いない……俺だ。


――二十年前の、まだ高校生だった頃の俺だ。


「嘘だろ……」


震える指で前髪をかき上げる。

肌には若々しい張りがあり、連日の徹夜プレイで刻まれていた深い目の下の隈もきれいに消えている。二十年間、薄暗い部屋でゲームだけを続けてきた男の顔ではなかった。


「まさか……タイムリープ、したのか……?」

混乱で破裂しそうな頭で、必死に記憶をたどる。


確か俺は――。


『No Game』のサービス終了直前、突如として現れた難易度SSSの緊急ミッションを受け入れた。


その直後、視界いっぱいに浮かび上がった『君に、幸があらんことを。』という意味不明なメッセージ。


そして、意識を失った。


そこから先は何も覚えていない。


「いや、待て……」

改めて部屋の中を見回す。


昨日まで足の踏み場もなかったカップ麺の容器も、エナジードリンクの空き缶も、ゴミ袋一つすら落ちていない。


新品同然の勉強机。

少し古い型のデスクトップPC。

見慣れているはずなのに、どこか遠い昔の記憶のような部屋。


そして、ここにあるはずの『一番重要なもの』がない。


「ヘッドギアが……ない?」


フルダイブ用ヘッドギア――二十年間、身体の一部のように毎日装着していた俺の相棒。

ベッドの下、押し入れの中、机の引き出し。どこを探しても見当たらない。


「そんな馬鹿な……」

覚えている。鮮明に覚えている。

2055年5月1日。この日、俺は『No Game』の発売日を、誰よりも楽しみに待っていた。

抽選販売で奇跡的に手に入れたヘッドギアを机の上に置き、何度も何度も動作確認をしていたはずだ。


なのに、この部屋にはその痕跡すら存在しない。


嫌な汗が背中を滑り落ちる。

震える手でスマートフォンを掴み、検索画面を開いた。


『No Game』

検索ボタンを押す。

数秒後、表示された画面を見て呼吸が止まった。


検索結果 0件


「……は?」


もう一度打ち直す。


No Game。

ラストダイブ社。

フルダイブMMORPG。

公式サイト。

攻略Wiki。

動画投稿サイト。

SNS。


何度検索しても結果は変わらない。

存在しない。


俺が人生の二十年間を捧げ、生きる理由そのものだったゲームは、この世界には最初から存在していなかった。


「ありえない……」


スマホが手から滑り落ちそうになる。

夢なのか。それとも俺の頭がおかしくなったのか。


底なしの虚無感に飲まれかけた、その時だった。


ピロン。


脳へ直接響くような聞き慣れた電子音が鳴る。

目の前の空間が波紋のように揺らぎ、鮮やかな半透明の青いウィンドウがゆっくりと浮かび上がった。


「……!」

見間違えるはずがない。


二十年間、何万回と見続けてきた『No Game』のシステムUIだった。


【チュートリアルミッション】


ゴブリン討伐

難易度:E

内容:制限時間内にゴブリンを討伐せよ

制限時間:30分

報酬:100G・サバイバルナイフ


「これは……!」


思わず息を呑む。

間違いない…‼︎『No Game』最初のチュートリアルミッションだ。


「やっぱり……『No Game』なんだ」

胸の奥に張り詰めていた冷たいものが、ほんの少しだけ緩んだ。

理由は分からない。だが、この画面だけは本物だ。二十年間見続けた俺が見間違えるはずがない。


「……いや、待て」

一度深呼吸をして頭を冷やす。


ここは本当にゲームの中なのか。それとも俺が見ている幻覚なのか。

試しに頬を強くつねる。

「っ……痛っ!」

鋭い痛みが脳を突き抜けた。

現実だ。


「……とりあえず、受けるしかないか」

俺は【受諾】を押した。

だが、何も起こらない。

転移の光も、目的地へのナビも表示されない。


「……あれ?」

代わりに新しいウィンドウが表示された。


ミッション開始まで

残り時間 04:59

数字が一秒ごとに減っていく。

「開始まで五分……?」

こんな仕様は知らない…ゲームではチュートリアルに待機時間など存在しなかった。

妙な違和感を覚えながらも気持ちを切り替える。


「……そうだ」

ゲームなら、まず確認することは一つしかない。


「ステータス」


声に出した瞬間、青白いウィンドウが開いた。


【北川 良介】

Lv:1

職業:プレイヤー

HP:10/10

MP:10/10

【装備】

・くたびれた制服

・年季の入った腕時計

【スキル】

なし

【称号】

《最後のプレイヤー》

《歴戦の記憶》


「……レベル一?」

「弱っ!!」

思わず声が裏返る


二十年間かけて育て上げた俺のステータスは跡形もなく消え去っていた。

「完全初期化かよ……厳しすぎるだろ……」


頭を抱えかけたその時、見慣れない称号が目に留まる。

《最後のプレイヤー》

《歴戦の記憶》


「こんな称号……ゲームには存在しなかった」


俺は《最後のプレイヤー》へ触れた。


《最後のプレイヤー》★★★★★★★

※『No Game』最後のプレイヤーのみ取得可能。


【効果】

・全ミッション報酬2倍

・???

・???

・???


「効果が隠されてる……?」


続いて《歴戦の記憶》を開く。

《歴戦の記憶》★★★★★★☆

※『No Game』を二十年間攻略した者のみ取得可能。


【効果】

・全武器適性

・《攻略本》機能解放

・獲得経験値+50%

・???


「……なんだ、このぶっ壊れ性能」

全武器適性。

攻略本。

経験値五〇%増加。


どれ一つ取ってもゲーム内なら最上級クラスの能力だ。


「攻略本……?」

気になってタップしようとした、その瞬間。


ピピピピピピッ!!

部屋中に激しい警告音が鳴り響いた。


残り時間 01:00


「え!?」

嫌な予感がして窓の外を見る。

街道には車が走り、買い物帰りの主婦や登校中の学生が歩いている。

どこにでもある平和な日常だった。


残り三十秒…

ズン……

足元から不気味な揺れが伝わってくる。

「……地震?」

次の瞬間。

ドゴォォォォォン!!

世界がひっくり返るような激震が街を襲った。

緊急地震速報のアラートが一斉に鳴り響く。


窓の外へ目を向けた俺は、その光景に言葉を失った。


アスファルトを突き破り、ビルを押し潰しながら、巨大な石造りの建造物が姿を現していく。

黒い霧を吐き出す禍々しい門。


「これは……」


忘れるはずがない。

『No Game』のオープニングで何度も見た、世界の始まり。


「『No Game』の始まりだ……!」


全身から血の気が引いていく。

街中では悲鳴が上がり始めていた。

「なんだあれ!?」

「ビルが潰れたぞ!」

「逃げろ!!」

誰一人として、この光景の意味を知らない。

だが――世界でただ一人、俺だけは知っている。


「まずい……!」

ウィンドを見る。


残り時間 00:20


この街は地獄へ変わる。

ゲームではチュートリアルだった。

だが、ここは現実だ。


最初のゴブリンが街へ現れる。

そして、十分後には数百体へ増殖する。

一時間後、自衛隊が出動するが、想定外の魔物を前に戦線は崩壊する。


この日、初日だけで命を落とした人間は三百二十七人。


「逃げなきゃ……」

反射的にそう思って駆け出しかける。


だが、一歩踏み出したところで足が止まった。


……待て

今の俺には、二十年間このゲームを攻略し続けた記憶がある。


発生するミッション。

隠しアイテムの場所。

ボスの弱点。

最短攻略ルート。

そして、この世界が迎える結末まで。

俺はすべて知っている。


「……そうか」

恐怖が消え、自然と口元が歪む。


「何を怯えていたんだ…。


俺だけが……この理不尽な世界の攻略法を知っているんだ」


その瞬間、視界に血のように赤い文字が浮かび上がる。


【緊急通知】

世界初のダンジョンが確認されました。

チュートリアルミッションを開始します。


制限時間まで

00:10


気がつけば、その門の前まで辿り着いてた。


遠くからガラスの割れる音と人々の悲鳴が聞こえる。


地の底から、重く醜悪な足音が響き始める。


3……2……1……0。

【MISSION START】


ゴォォォォォッ!!


黒い霧を噴き上げる巨大な門が重々しい音を立てて開き、その暗闇の中から緑色の醜悪な腕がゆっくりと姿を現した。


その姿を見た俺は、小さく笑う。


「よう。」

「……二十年ぶりだな。」

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