初出動!巨大な海鳥がビーチ襲来!!
調査員としての生活が始まりしばらく経ったある日。
「あれ…?エレナさん、ちょっと質問が」
「ん?なぁに?」
「こちらの調査前許可願なんですけど、ここで記されてる鳥、怪鳥じゃなくて巨鳥じゃないでしょうか?」
怪鳥とは、鳥類の中で以下の3つの特徴をどれか一つでも持ち合わせている種類を指している。
・嘴に歯や牙が生えてる
・翼に指若しくは爪が生えている
・体長の半分以上の長さの尻尾がある
所謂、恐竜っぽい特徴を持ち合わせた子達だ。
それに対して巨鳥は体高(頭の先から足先までの高さ)が3メートル以上、つまりダチョウより大きい鳥を指す。
生物学的ではなく、イルカとクジラ、カンガルーとワラビーみたいな曖昧な分け方だ。
「どれどれ…?」
調査前許可願と紐付けされている依頼書には、高度な念写魔法で写し出された、魔物の写真が掲載されている。
「この鳥、確かに牙が生えてるように見えますが、よく見ると嘴がギザギザしてるだけです」
「あー、そういうのは怪鳥にしてるわ。」
「…え?」
「確かに巨鳥の可能性も高いよ。でも、提出先のギルドにはそこまでの細かい区別がつかないの。専門家じゃないし、そもそも現場に出ないからね。だからこの写真を見ても怪鳥だと思うのよ。」
「しかし、そういうのを修正するのが僕たちの仕事では」
「これはちょっとした処世術だけどね、調査後に『違う種類でした』は許されるの。ちゃんと調査してきたんだねってなるから。でもこれをもし巨鳥と提出すると、ギルドから『どう見ても口に牙があるじゃないか。自然管理課は怪鳥と他の鳥の区別もつかないのか』って誤解されるのよ。」
「…なかなか世知辛いですね」
「ねー…」
しばらくすると、受付から声が聞こえた。
「オーウェン様〜お荷物が届きました!」
「あら、意外と早かったわね」
なにやら大きな木箱が。
それになんだか、エレナさんも少し嬉しそう。
「アキラくーん、これアキラ君が受け取って」
「…はい?」
ん?僕?
エレナさんのものじゃなくて?
彼女は厳しいが、僕をしょうもない雑用に使ったことはない。つまりこの木箱の中には、僕のものになるものだ。
…ってことはなにかしらの支給品!?
木箱を自分の机におく。
「開けてみて。今すぐ」
「これは…おぉ!」
中に入ってたのは、エレナさんが着てる物とよく似た衣服と、小道具…つまりこれは!
「エレナさん…もしかしてこれって!」
「そう!貴方の調査服よ!!さぁさぁ早速着替えて!面接の時の部屋使っていいから!…あ、そうそう!着替える時は下着も全部脱ぐのよ!」
「…へ?」
部屋に入る。早速木箱から服を出す。
…なにこれ?
いきなり出てきたのは全身タイツのような…
この伸縮性のある触り心地は…水着みたいな生地だ。
でも、胸部や肩、関節にはパットのようなものがついてるし、股間部の布地は厚くなってる。
成程、だから下着ごと脱ぐんだ。
しかし、なかなか体型がくっきり見えるやつだ。
…もしかしなくてもエレナさんはあの中にこれを着てるの?
その上からズボンを履き、動きやすそうなシャツとフルハーネスのような何かをつけ、その上に魔導士のようなローブを羽織る。…しかしローブといえど布面積は普通の魔法使いより格段に短く、ポケットが多い。
フルハーネスには幾つものフックが取り付けられており、命綱以外にも多くの小さなナイフや、杖、鉤爪のような工具など、多くの小道具を引っ掛けることができる。
「着替えました」
「あら、いいわね」
嬉しそうに目を輝かせながら、慣れた手つきで僕のローブやハーネスの位置のずれを調整していく。
「よし、これでばっちり。どう?初めての調査員服は」
「まさか中がこんなにぴっちりしてたなんて…でも動きやすいです。」
「その一つ一つが、アキラ君の命を守ってくれるからね。上に着てるローブはアラクネ種の糸を模したも糸で編んでるの。持ち主の魔力を通して強力な装甲になるのよ。中のスーツは水中でも動きやすいようになってるのよ。寒冷地に行く時はその上に防寒着を着るけど、逆に砂漠や熱帯に行く時に薄着になることはないわ。多少暑くても我慢するのよ」
「はいっ!」
「よし、じゃあ早速行こっか。」
「早速って…模擬戦ですか?」
「違うわよ、貴方も調査に行くのよ!さっきの怪鳥の件よ!」
「!!…はいっ!」
やった、ついに僕も外に出れるんだ!
嬉しさによる興奮と冒険者も躊躇する場所へ行く緊張が同居し、変な汗も出るが…今はとにかくがんばろ!
初出動
目的はレイック海岸に現れた怪鳥の調査。
レイック海岸は釣りや海水浴場として毎年多くの人が集まる貴重な観光資源のため、怪鳥のせいで収入が減るわけにはいかない。
しかしギルドも自然管理課もなんとか穏便に済ませたい。なので怪鳥が海岸に現れた目的、危険性、その他諸々を調査して欲しいとのことだ。
今回の怪鳥は新種ではなく、少し離れた海域に住む『オオミナモナギ』という海鳥型の生物だ。
レイック海岸までは船で向かう。
エレナさんへ連れられ甲板の上へ立つ。
「じゃあまずは調査前の安全確認会議と、危険予知活動よ。お互いに身だしなみを指差し確認して」
向かい合ってお互いの装備や服装に指を差す。
「完全装備確認よし」
「完全装備確認よし」
「次に、現場で気をつけることを挙げていくのよ。今回の調査場所は海岸。気をつけるべきことは?」
「えっと…潮の満ち引きとかでしょうか?」
「そうね、他にはどんな危険がある?思いつくだけ言ってみて」
「魔物の精神状態…熱中症…クラゲやオコゼのような有毒生物でしょうか?」
「上出来ね。あとは岩礁などで無理な姿勢を取らないことね。では…私がいう言葉に続いてね。潮の満ち引き注意よし」
「潮の満ち引き注意よし」
「熱中症、脱水症状注意よし」
「熱中症、脱水症状注意よし」
「有毒生物注意よし」
「有毒生物注意よし」
「無理な姿勢を取らない、よし」
「無理な姿勢を取らない、よし」
「今日も一日ご安全に!」
「今日も一日ご安全に!」
現場に到着すると、既にオオミナモナギが営巣していた。
近くの岩礁に身を隠し、彼…もしくは彼女の様子を観察する。
絶滅したペラゴルニスという鳥に似ているが、そこに複数の海鳥の特徴を掛け合わせたような姿をしている。
背中は黒く、腹部は真っ白。
ペンギンみたいな色合いだ。
翼はエトピリカやミズナギドリのような根元は幅広く、先端は鋭い形をしている。
「アキラくん、あの白黒の配色は上空からだと海の暗さ、下からだと太陽の光に擬態しているのよ。一部のサメやウミトカゲにも見られる色合いね。どういうことかわかる?」
「水の中を泳げる…ってことですか?」
「そう、生き物としては正解。でも安全性としてはまだ足りないわ。泳ぐためにはまず何をする?」
「…海の中に入る?」
「そうね。つまり飛び込む。あの巨体が海水浴場で。…ボウガンより速いよ」
そして嘴はやはり歯はなく、縁がギザギザしてきるだけだ。
ギザギザは返しのように口内へ向かうよう並んでおり、獲物を咀嚼するのではなく、取り押さえて飲み込むのに適した形だ。
あの鋭い銛のような嘴を持った奴が、ボウガン超えの速度で海中へ飛び込む。
これは近くに人がいたら…
「3日前、結構雨激しかったでしょ?一昨日の報告書覚えてる?」
「…すみません、失念してました」
「帰ったら確認することね。で、結論から言うとこの辺を大きな台風が通ったのよ」
「すると、この子はその風に巻き込まれてここに辿り着いた…とかでしょうか?」
「えぇ、それで仕方なくここで過ごすことにした…って感じね。そしてあの大きさからして、獲物は大型の魚類やイルカ、ウミトカゲを狙うわ。でも、もしそれがいなかったら…」
「何を狙うかわからない…って事ですね」
「いいえ…何を狙うか"選ばない"のよ」
外からはよく見えないが、オオミナモナギはそのまま巣の上に腰掛けていた。卵を抱いているのか?だったらつがいが何処かにいる?
「つがいがいないってことは…どこか遠くの海で狩りをしているのでしょうか?」
「えぇ、だったら沿岸で泳ぐ分には問題ないかもね」
「じゃあ巣にいる個体は抱卵に集中してるから刺激させなければ安全…ってことでしょうか」
「しかし…海水浴場ならみんな騒ぐと思うわ。」
「…静かに過ごせなんて、言えませんよね…」
照りつける太陽がジワジワと身体に応えてきた。暑い…しかし脱ぐわけにはいかない。
ピッチリとしたスーツが汗を吸着している。
水着みたいな素材だから、濡れたり蒸れても不快感が少ないのか。
ふと、エレナさんの方に目を移す。
すごい、この状態でも涼しい顔をしている。これがベテランの余裕だ…。
しばらくすると、釣り竿を持った人が海岸に姿を現した。
「エレナさん、あれ…」
「立ち入り禁止にしてるはずなのに…」
故郷にも居た。ため池とかで柵を通り越してバスを釣るやつ。この世界にもああいうのいるのかよ




