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どうして立ち入り禁止の看板読まないの?

釣り竿を持った人が海岸に姿を現した。

今はオオミナモナギが営巣してる、ギルドの支部が立ち入り禁止にしてるはずだけど…


オオミナモナギは釣り人に一瞬目を向ける。

「彼にとって普段は営巣しない場所、あの人を見定めているわ…餌か敵か…」


しかしそんなことを釣り人が理解できるわけもなく、呑気に竿を振り翳している。

釣れた魚の鰓穴から血が垂れている。


「アキラくん、この状況で一番大事なのは?」

「えっと…オオミナモナギの警戒を逸らしつつ…」


「"一番優先すべきこと"…わかってるはずよ」

「…あの釣り人の安全。わかりました、行ってきま」

「待って」


「単独行動は危険よ。私も行くわ」


僕達は釣り人の方へ近づく。

「よく見てて、相手がどう言う人かによって対応が変わってくるわ…すみません、自然管理課のものです。魔物が営巣しているため今は立ち入り禁止になっております」


「おぉすまんのぉ、気づかなかったわい。」

釣り人はすぐに反応する。十中八、九嘘に違いない言い訳だが、逃げたり抵抗する意思はなさそう。


「魔物ぉ?あのでっかい海鳥か?あいつ人食うの?」

「そうはさせません、しかしまだ安全は確保されてません」

「しかしねぇお嬢ちゃん、そんな隠れてコソコソしてたら一生この浜で何にも出来んぞ?あの海鳥にはちょっかいかけないから釣りくらい」

その時だった


ガタガタガタガタガタと何かを打ち付ける音が響く。

オオミナモナギの方向だ。ハシビロコウみたいに嘴を震わせてるのだ。


「…!?いつのまに!??」


それだけじゃない。

気付けば、僕達は数匹の肉食動物に囲まれていた。

体型は狼のようだが、その流線型な顔には耳はついていない。前脚よりも後ろ脚の方が大きく、水掻きがついている。尻尾も長く、ほんの少しだが先端がオールのように広がっている。


「シーウルフ…でしたっけ?」

「えぇ、巨鳥の卵も狙うのよ。オオミナモナギが警戒していたのは、この子達だったのね」

「でも、明らかに僕達の方へ鼻をヒクヒクさせてます」

「そりゃオオミナモナギより私達の方が狙いやすいでしょ。それに…」


エレナの視線が斜め下を向く。

その先には血が垂れていた魚が


「これわしのせいか…すまない。わしは普段からここを釣り場にしてるけど、あいつらはもっと離れた場所におる…なんでや…」

「説明は後よ。釣り人さん、大漁だったみたいだけど…今回は諦めて」


釣り人に魚の放棄を促す。

流石の彼も、自分の命は惜しいので、カゴに入れていた魚を砂浜にそっ…とばら撒く。


「その…お嬢…じゃなくてお姉さん…走って逃げちゃ…」

「だめ」

「はいすみません…」


鋭い剣幕で釣り人を制したエレナと共に、ゆっくりと下がる。

シーウルフ達は釣り人が釣った魚に夢中になっている。


「しかし困ったわね…卵を狙ってあの子達みたいなのが寄って来るとなると…ん?」


エレナさんはまた何かに気づいた。

「…エレナさん?」

「アキラくん…あれ見て…波が…」


少し大きな波が近づいている。

「あれ、照らせる?」

「射程範囲ギリギリですが…やってみます」


波の上に光魔法を当てる。

すると、波の下に何か黒い影がいるのがわかった。

「エレナさん…何か近づいてます。大きさは分かりませんが…」

「わかった。2人とも私につかまって。321で、飛行魔法よ。いい?3…2…1…」


バシャァァァァンンッッッ!!


突然巨大な波が、シーウルフ達を飲み込む。

彼らも海洋生物なので、波の中でなんとか姿勢を戻し、そのまま脱出を試みるが…

一頭だけ、中にある巨影につかまってしまった。


僕達はなんとか、飛行魔法でこの波から逃れた。

波が引くと同時にその巨影が姿を現す。


「つがいが帰ってきた…」


もう一体のオオミナモナギだ。

巣にいた個体より一回り大きい。


「確か、大きい方が女の子でしたよね?」

「えぇ、それにあの子の方が気が立ってるわ。」


シーウルフを一飲みしたオオミナモナギの雌は、そのまま僕たちを睨みつける。

巣にいた雄よりも明らかに僕達を敵として認識している。


「アキラ君、今は釣り人さんを安全な場所へ移動させるわよ!」

「はいっ!」

「お、おい!あんちゃん!姉ちゃん!あの鳥追っ払うこと出来ないのか!?冒険者じゃないの!?」

「私達はギルド所属の生態調査員です。魔物を倒すのではなく、安全性の確認のために来たのです」

「んじゃあ、あの鳥は危険じゃねぇか!あいつワシらを食おうとしてるぞ!」

「いえ、あの子は私達を『卵を狙う敵』と認識してます。でも、このまますると『自分より弱い餌候補』にされるかもしれない…」

「どのみちダメじゃねぇか!」」

「兎に角!今は安全の確保!アキラ君、合図したら私の後ろで光魔法で私を照らして!出来るだけ派手にして!」


すかさずエレナさんの後ろに回り込む。


「いつでもいけます!」

「出し惜しみはなしよ!…今!」


後ろから眩く、そして出来るだけ色合いの激しい光でエレナさんを照らす。それと同時に、エレナさんの背中から黒い蝶の羽のようなものが生えた。

模擬戦の鎖魔法と同様、闇魔法で形作ったものだ。

後ろから極彩色な光で照らすから、よりその大きな闇の翼が際立つ。しかも、その翼にはいくつか光を通す隙間が空いており、その隙間に差し込む僕の光魔法により、翼に巨大な目玉模様が描かれる。


生き物を驚かせるには充分だ。


オオミナモナギは突然現れた異形に驚き、姿勢を崩す。しかし、我が子を守ろうとする強い本能がそれを立て直す。


「良いわアキラ君!一先ず、私たちが餌ではないという印象は与えれたよ」


オオミナモナギの雌はは僕達が離れていくのを確認すると、巣の方へ戻り雄と交代した。巣を開けた雄はそのまま狩りのために水平線の彼方へととびさっていった。


釣り人をギルドの支部に送り、今回の出来事を報告する。


「オオミナモナギは、雄と雌が交代する形で巣を守っています。特に雌の方が警戒心が強く、私たちに対する敵対行動も大きいです。」

「また、オオミナモナギの営巣により、周囲には卵あるいは雛を狙っているのか、本来は離れた地点にいる筈のシーウルフが確認されました。恐らく今後ともこのような魔物が現れる可能性があります。引き続き観察、調査を続けます」


その夜、海岸から離れつつ巣が見える地点にテントを張ることになった。

星空と月が輝いており、幻想的な雰囲気を醸し出している」

「アキラくん、昼間とは違い夜は寝ないといけないから交代して対象を監視するの。気を引き締めて」

「はいっ…」

「これは、少しの光でも周囲の様子を見れる魔道具よ。でもつけっぱなしにすると突然の強い光で目が焼き切れるから周囲に気をつけて」

「はい…」


魔道具はサングラスのような形をしている。

これをつけてみると、周りの景色が少し明るく見えた。ものの形はわかるけど、でも昼間のように明るく鮮やかに見えるわけではない。


「そしてこれは今日の夜食のモモフク麺よ。何味がいい?」


どう見てもインスタント麺だ。

安◯百福の名を冠してるってことは…過去に相当リスペクトに満ちたマニアが来たみたいだ。


「じゃあ…ショウユ味で」

「はーい」


ショウユ味のモモフク麺…もといインスタント麺を口に入れる。

知ってる香り、知ってる味だ!

ショウユを形作ろうとしてるのではなく、ちゃんと醤油味だ!


しかも、醤油だけじゃない、醤油だけでは出せない旨みもある!


「おおおいしい…!知ってる味ですよこれ!もしかして、転移者がもたらしたものですか?」

「よく知ってるね…えぇ、そうらしいよ。もしかして同じ世界から来たのかしら?」

「多分…しかし、転移者がもたらすものってこういう食文化もあるんですね」

「技術以外だと食べ物に関するものが多いって聞くわ。…まぁそもそも私達が他のヒト種を淘汰したのも、そういう食への拘りが他より強いからっていう説もあるし」

「他のヒト種?ネアンデルタール人みたいな?」

「アキラ君の故郷にはそういうのがいたのかしら?昔、ここにはエルフやサキュバスといった、私達とは種類が違うヒトがいたの」


そういえば、こんな魔法の世界に来ておきながら今日までそういう言葉を聞いたことがなかった。

街ゆく人も、みんな僕みたいな人間だった。


「他のヒト種より、私達は《食への拘りや執着》が強かったかもしれない…らしいのよ」


そっか…この世界でも、そういう歴史があるんだ…


「…でも僕は食に拘ったり、伝えるのって良いと思います。…故郷の味は忘れたくないですし」

「あら、良いこと言うじゃない。」


モモフク麺を食べ終えると、それぞれ交互に巣を観察する。


「そういえば、僕が来る前はどうしてたんですか?」

「ん?あぁ、当時は任務というテイで手の空いてる冒険者に頼んで、報酬は経費としてギルドが払って貰ったわ。でも魔物相手にに焦って飛び出して喧嘩売っちゃう人もちらほら居たわ。…だから、アキラ君には、ちょっとだけ安心感があるよ。」

「…そう…なんですね…」

「じゃ、30分ごとに交代よ。でも、何かあったら迷わず起こしてね」


薄暗いテントの中、エレナの寝顔を横に巣やその周囲を見渡す。


夜の海風がテントの骨組みを軋ませ、小窓から吹き付ける。静かな波音がなかなかに心地いい。


巣ではオオミナモナギが身を寄り添い合っていた。片方が寝ており、片方が起きて周囲を警戒している。


ほんの少しだけ親近感を感じるが…こちとら君たちが夜も大人しくしてくれるか不安なのよね。


そして約束の30分がきた。


「さて、そろそろ起こす頃かな…ん?」


「ふー…すぅー…」


エレナさん…こんな風に寝るんだ…なんていうか、とても無防備…


「…んっ…んんっ……」


寝息から漏れる声…普段よりも高くて可愛い…

だめだめ、変なこと考えちゃ…

でも、他の冒険者に触られたりしなかったのかな…


「エレナさーん…」

そっと、声をかけながらエレナさんの肩に触れる。

「あら、もうそんな時間ね。何か異常はあった?」


すごい寝起きの良さ…

それに、既に杖を持ってる。


「いえ、今はオオミナモナギも大人しいし、シーウルフも見かけません」

「お疲れさん。短いかもしれないけど、しっかり休んで」

「はい、ありがとうございます。では…」


多分余計な心配だったかも


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