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ねぇちょっとこの死体どうするの?

エレナさんと交代し、目を閉じる。

束の間の休息、30分の間にしっかりと睡眠をとる。


幸いにも波音が心地いいため、意外とスッと寝付けた。しかしその安眠もすぐに崩れた。

僕を起こしたのは、エレナさんではなく…


キェェェェッッッ!!


魔物の悲鳴だった。


「な、なんだ!?」

「びっくりしたよね、大丈夫よアキラくん。」

「エレナさん…まさか、バレたのですか?」

「いえ、外覗いてみて」


外をみると、何か大型な魔物が地面に伏していた。

シーウルフではない、細長い体型だ。巨大な蛇か何かかな?


「シーサーペントの一種よ。巣を狙ってたわ」

「ぴくりとも動いてない…」

「えぇ、死んでるわ。よくみて、あそこ」


よく見るとシーサーペントの死骸には大きな穴が貫通しており、そこから煙が立ち上がっていた。


少し離れた砂浜も煙を上げている。多分、シーサーペントを貫通した攻撃がそのまま砂浜に着弾したのだろう。


「一体何が…煙ってことは…」

「オオミナモナギの口から発射されたのが、シーサーペントの身体を貫いた。それが致命傷よ」


鼻をつんと刺す臭い…

何故か少し吐きそうになる…

うわ、いやこれ本当にゲロみたいな臭いだ。

「この臭い…もしかして胃酸?」

「えぇ、吐瀉物の臭いがするでしょ。胃酸を高圧で発射したのよ」


胃酸…そういえば海鳥の仲間は半分消化した魚をヒナに与えると聞くが…それの応用かな


「迂闊にビーチで騒げませんね」

「えぇ、それにこの巨体の死体…これを狙いにまたシーウルフやウミトカゲが来るわ。急いでギルドに報告よ。最終的な判断は彼らに委ねられるとして、本格的な閉鎖になりかねないわ」


ギルドの夜間当直にこの件を報告した。

しかし、すぐには動けないため当直さんと一緒に書類を書くことになった。


「シーサーペントはどこから来た?付近の岩礁?それとも海中から?」

「海中からです。既に海岸周囲には卵を狙った捕食者が集まりつつあると思われます」

「ちなみに、爬虫類型?魚類型?」

「爬虫類型です」


シーサーペントは生物学的な分類ではなく、海に潜む蛇のような体型の魔物全体を指す言葉。

つまり、ウミヘビという言葉と全く同じだった。


ちなみに、魚類型でも周囲の海水を身に纏うことである程度の時間なら陸上での活動も可能だ。


「昼間にシーウルフ、夜はシーサーペント…しかも死んでるからそれを狙う魔物もある…」

「アキラくん、何か案はある?」

「えっと…」


故郷で見た、クジラの死体が打ち上げられたニュースを思い出す。何かヒントはあるのか?


「大きな船で外洋まで運ぶか…地下深くに埋めるか…でもそんな時間はありませんよね…」

「良いですよ、候補としては置いておきますので。決めるのは明日の会議でですから」


「とにかく早く処理しないといけませんよね…魔物も彷徨きますし」


思い出した。クジラの死体といえば、メタンガスの爆発…故郷では血飛沫が飛ぶ程度だが、ここは魔法の世界、野生動物も火や電気を生み出す。


「…!あと、中のガスが溜まって爆発…なんてのも。…この辺りに、火属性か雷属性魔法を扱う魔物って居ますか?」

「確か…」


当直さんが資料を持ってきた。この辺りで確認された魔物一覧だ。それを四人で目を通していく。

するとエレナさんがある魔物を指差した。


「…あ、この子よ!この子は火を使うわ!」


エレナが指差した魔物は、アンブロプテルスと記されていた。


ワイバーンの骨格だが、翼膜は発達していない。

進化の過程で飛ぶのを殆ど辞めた種類だ。


「よりによってあいつかよ…」


アンブロプテルスは、ワイバーン種の中でも比較的知能が高く、故に人とのトラブルや討伐依頼も多い。


「あいつ賢いから、腐敗ガスの性質をすぐに理解する。絶対にやらかす…」


僕や当直さん達は深く頭を抱えた。


「…明日現地調査をします。お二人は今夜はお休みなさってください」


翌日、ギルドは早速討伐隊を多く召集しシーサーペントの元へ集まっていた。

オオミナモナギは、この様子を警戒しつつも、死体そのものには関心を示さなかった。

つがいは既にどこかへ飛び去っている。

他の捕食者と死体を奪い合うよりは、外洋で海洋生物を狩った方が良いと判断したのだろう。


僕達もギルド総出の現地調査に立ち会うことになっていた。

「ふあぁ…」

しかし、30分交代で寝てたとはいえ、こんな朝早くじゃ…

「ほーら、しっかりして!」

ふと、エレナさんが後ろから僕の肩を揉む

「…!!は、はいっ!すみません…」

「がんばって、この現調が終わったら一先ず上がれるから!ね?」


シーサーペントの死体には既にシーウルフやウミトカゲ、その他多くの魔物が集まっていた。

彼らは僕達に目もくれずシーサーペントの屍肉を貪りつつ、時々頭上をあげていた。

まるで、何かを気にしてるかのように


シーサーペントの上に何かいる。

小さい翼膜、しかし長い手足。

つぶらな瞳がまるでカメレオンのように別々に動き、周囲を見渡す。


「アンブロプテルス…!」


アンブロプテルスは周囲の死体に傷をつけていく。よく見ると、傷穴は全て沿岸の方向へ向いていた。


死体の周囲に漂う腐敗臭を嗅いだ時点で、それが引火性或いは可燃性だと理解していた。


そして、自分で食べる前にこう考えただろう。


《このガスと自分の火があれば、邪魔者(他の捕食者)を吹き飛ばせる。全部自分のものになる》


「アンブロプテルスがしたいから離れている…やはり!」

「口元が赤く光ってる!間違いない…みんな離れて!アキラくんは私と一緒に!」

結末はあっけなかった。


何故か爆風が来ない。

後ろを振り返ると…


「…あの子の方が上手だったね」


アンブロプテルスは、既に力を無くして倒れていた。

彼の顔は煙が立ち込めており、原型がわからない程ドロドロに溶けた。


結局、魔物たちが去るまで海岸は閉鎖することになった。帰還後に聞いた話によると、シーサーペントは三日三晩かけて骨へと変わっていったそうだ。


情報は充分得られた。情報の共有、引継ぎを済ませば今日の任務は完了、オオミナモナギの処遇はその後のギルドに委ねられる。


初出動の終盤は、本当にあっという間だった。

帰りの船にて…


「エレナさん、あの時オオミナモナギはいつ気づいたのでしょうか」


あの時顔をドロドロに溶かされたアンブロプテルス。間違いなくオオミナモナギに撃たれたのだろう。明らかにこの後の危機を察していたかのような行動だ。


「さぁ、魔物の考えはわからないわ。ただ…私の予想は…単純に《不審な行動に不安を感じた》、それだけかもね」

「不審な行動?」

「そう、他の魔物は死体に夢中になってるでしょ?それなのに1匹だけわざわざ食べず、しかし傷はつけて少し距離を置く…」

「確かに、何も知らなくても《何してるんだ?》ってなりますね」

「そう、特にあの子たちは営巣中。子供を守るために気が立ってるなら…ほんの少しの不審も取り除きたかったのでしょう。」 


元々、この任務はレイック海岸で営巣するオオミナモナギを横に、ビーチとして人が立ち入れるかどうかの判断材料の入手。


ビーチで人が遊び、騒ぎ立てる。

オオミナモナギにとっては、アンブロプテルスと同じくらい《不審な行為》かもしれない。


「…エレナさん、それじゃあ…」

「えぇ、巣の移動が困難の場合は、駆除も視野に入ってくるわね」


ほんの一瞬、オオミナモナギの子供が可哀想に思えたが…。

それよりも、あの強酸攻撃が、一般人にに向けられたら方が、考えただけでも恐ろしい。


「駆除ね…」


…《駆除もまぁ、仕方ない》

この世界に転移する前から、こういう野生動物とのトラブルに関する話を聞くたびにそう思ってた。

でも、初めて本物に、現場に立ち会った。


命のやり取りをするのは、魔物だけではない


「エレナさん…もし、駆除する流れになったとしたら、今度はあの現場にいた誰かが危険な目に遭いますよね」


今日の現地調査に立ち会った、ギルドに属する討伐隊の誰かが、自分が提供した判断材料をもとに駆り出されるかもしれない。


場合によっては、オオミナモナギの戦闘における脅威度を図るための人柱として、冒険者相手にに討伐が募集され、自分より若い子が死地へ行くかもしれない。


「心配になるとキリがないでしょ。だから私達が居るのよ。今回は仕方ないとはいえ、ギルドも私達も、出来るだけ争わない方法を探すの」


暫く沈黙が続く。

これが、観察者の責任か…


「ねぇ、アキラくん」

「はい…」

「初現場お疲れ様〜、ねぇ、どうだった?」

「そうですね…トラブルや、深夜までの監視もあって大変でしたが…でもやっぱり楽しいです」

「よかった…確かに大変な二日間だったけど、辛いだけじゃやっていけないわ。ねぇ、帰ったら何する?」


「そうですね…ふぁ…」

思わずあくびが出てしまった。


「すみません、緊張が抜けたからかでしょうか」

「ふふ、疲れるのも無理ないわ。…正直私もそろそろキツくなってきたわ。…ふふ、取り敢えず帰ったら身体を洗って2、3時間はぐっすり寝たいわね」

「…ですね!」

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