恐怖の森!クソデカ〇〇〇!!
オオミナモナギの調査を終えた帰還後
そして休み明け
再び書類整理と訓練の日々に戻る
「うーん、ここの表現がちょっと曖昧かもね。もっと何が危険なのか、予測される危機をはっきりと書いて」
オオミナモナギやそれに群がっていた魔物の報告書の作成に追われていた。
特に危険なモンスターなので、ギルドの判断材料である書類は慎重に書かないと。
…エレナさんが文体や誤字脱字に厳しい理由が、やっとわかってきた。僕たちの書類が今後の判断と、冒険者達の生命を左右するのだ。
「…ん?エレナさん、ちょっと良いですか?」
「ん?なぁに?」
「ここ…エリア7の行方不明者が増えてるような」
エリア7は、最近冒険者の採集探索可能区域に指定された森林。事前調査の時は特に危険な魔物は確認されなかったが…
「エリア7は冒険者が立ち入るようになってからまだ日が浅いわ、出動者や危険行為も増えていくし、相対的にどんなエリアも最初はゆっくりと事故も増えるものよ。でも、そういうことに気づくのは大事だからね。しばらくマークしておきましょ」
数日後
「増え方が従来の比じゃない…」
「そういえば、噂にもなってましたよ。エリア7は夜に行くと神隠しに遭うって…」
「夜ね…アキラ君、まずは聞き込み調査よ」
こうして僕たちは、ギルドの集会所へ足を踏み入れた。目的はエリア7での噂話を掻き集め、共通点を洗い出すこと。
「エリア7?確かに夜は気味悪いよな…なんだかずっと見られてるような気がするぜ」
「言うよね神隠し、私こういうの苦手だから夜には入らないようにしてるよ」
「自分、ちょっと前に夜行ったことありますよ。でも特に大型魔物は居なかったかな…鳴き声とかも聞こえなかったよ」
「バンシーって捕まえたら賞金貰えるかな?」
「あそこね、巨人の幽霊いるよ。前そこで夜間探索してたら…ほっそーい人の腕が木陰から伸びてて…あ、人の手そのものじゃなくて影を見たんだ。でも振り返っても何も居なくて…いやふざけてないから。でも全然気づかなかったよ、あんなに大きいなら普通木の枝とか軋む音なるよね?そういうの全然なかった」
「あそこはね、人が消えるの。なんの持ち物も見つかってないらしいよ。」
「実はエリア7って中に大きな滝あるんだけどそこでかつてとある未亡人が…」
「そういえば、この間行った時大きな羽を拾ったよ。ふわふわだったから今度集めて新しいお布団にしようかなって」
話に尾鰭が付くほど、冒険者の間でも既にエリア7の夜は恐怖と関心の中心にあった。
「怪談話ばかりですね…まぁ僕もこういうオカルトや噂話するの好きですけど」
「えぇ、でも細長い腕や羽ってのはいいヒントかもね」
「消音に特化した魔物がいるってことになりますよね…」
「仮にそうだとして、夜に行方不明者が多いってことは、その子は夜行性ってことね」
「あと、被害者も悲鳴の一つや二つあげられないのが気になりますよね…」
翌日、僕たちはエリア7の夜間調査に出向いた。
エリア7の鬱蒼とした森は、まるで一つの「黒い塊」のような佇まいを成している。あかりをつけてもすぐ先に何があるのかわからない「圧倒的な黒」だ。
「アキラ君…絶対に離れないでね…」
「は…離れたくありませんよ…」
わずかな灯りを頼りに森を進む。
吹き付ける風、踏んだ枯れ枝のポキッとした音、小さな羽虫、一つ一つの些細な現象が僕の心臓を震えさせる。
安心させるのは灯りと、時々当たるエレナさんの肩や二の腕だけだ。隣に人がいることにここまで安心感を覚えたことはない。
「エレナさん…怖くないですか…?」
「めちゃくちゃ怖いよ」
「僕来る前みたくもう一人冒険者募集するのは?」
「アキラ君が来てからギルドがそういうの渋りだしたのよ、あれ予算かかるから」
「えぇ…」
即答だった。
「エレナさんって闇魔法使いですよね?その、確かにここは魔物も居るとはいえ暗闇とかは慣れてると思ってましたが」
「ホンモノには勝てないよ」
恐怖に耐えながら進み続ける。
「いるよね?」
「居るわよ」
「居るよね?」
「はい、居ます」
周囲を見渡しつつ、お互いの顔を見る。相手にとってこの行動は隙を見せるようなものだけど、
今はこうでもしないと歩くことすらできない。
気づけば少しの動作だけでもエレナさんの身体の何処かに触れるような感覚がする。
お互いそれを気にしないほど、エリア7の闇は恐怖そのものだった。
そしてそのうち…
「手繋ぐ?」
「手繋ご」
「ハーネスとかも繋げましょうか?」
「そうね、目を離した時に片方が引っ張られても対応できるようにしたい」
遂に僕たちは物理的な距離を限りなくゼロに近づけた。束縛強めのカップルみたいだななんて思う余裕はありません。
そのまま進んでいると木の裏から物音が聞こえた
「アキラ君…!」
エレナさんが身を寄せる。今まで以上に触れる体、もはや密着に近い。
ここに来て初めて鼓動が別の理由で早まる。
しかし、その状態でも彼女は杖を前に向け、いつでも撃てるようになっていた。
「…!」
すかさず僕も杖を構える。
「違う、アキラ君反対方向!」
そっか、僕はエレナさんの死角をガードしないと!
二方向、180度、最大の警戒の元近づくと…突然エレナさんが足を止めた。
「エレナさん…!…エレナさん?」
繋いだ手を通して、エレナさんの汗と体温の上昇が伝わる。
一体何を見たのか…!急いで振り返る。
エレナさんの視線の先、そこには微かながら、光があった。
魔物の生物発光じゃない…アレは…
「ソフィア…ダメだよこんな…」
「大丈夫よっ…ここなら誰も見てないから…だから…しよ?」
灯りだ…灯りを木に映る通して二人の冒険者の影が身体を重ねようとしている。
夜の森って本当にこう言うことあるんだ…いやいやそんなこと思ってる場合じゃない!
「えええエエレナさん、は早く二人を止めないと」
「そそそそうね、こんなところで…じゃなくて!止めるわよ!」
明らかにエレナさんも動揺してる…。
いや僕も人のこと言えないか。
普段は冷静なのに、こんな所は僕と同じくらい…ウブだなんて…
いやそりゃすぐに止めないといけないけど、こんな予想外の気まずさは初めてだ。
「…!アキラ君!あれ!」
瞬間、気まずさはすぐに冷めた。
一人の冒険者に近づく大きな手
「やばい…!閃光!!」
考えるよりも先に体が動いた。
閃光が周囲を照らす。
「きゃっ…」
「ソフィア!」
ソフィアと呼ばれた冒険者を掴んだ手…いや、全身がフクロウのような羽に覆われていた。
しかしその形は猿に近い。
「なんだアレは…」
しかし手足は異様に長く、顔も大きい。そしてその顔の大部分を占める巨大な二つの眼球がソフィアを見つめている。
よく見ると、魔物は後ろ足だけで木の枝に捕まっているのに…
"身体は地面と平行になっていた"
「あっ…ああっ…」
魔物の腕に捕まった瞬間、ソフィアは全身を細かく震わせ、呼吸も浅くなっていった
「アキラ君、メガロリスの一種よ!」
すかさずエレナさんはメガロリスと呼ばれた魔物の手の甲に鎖魔法を撃ち込む。
「えぃっ!」
そして鎖魔法に直接強力な攻撃魔法を通す。ほんの一瞬メガロリスの指をピクリと動き、ソフィアが滑り落ちた。
「ソフィア…!ソフィア!!」
ソフィアは麻痺してるなか、身体をビクンビクンと震わせている。
「そこの冒険者!救急キットはあるよね?早く!彼女麻痺か痙攣してるのよ!」
しかし、ソフィアの相方の冒険者は、焦りのあまりに手が震えている。
「アキラ君、私は女の子の冒険者を手当する!メガロリスをなんとかして!」
「なんとか!?…わかった、やってみます!」
捕まった瞬間、あの娘は痺れた…
そういえば、ロリスの仲間は毒を持つ。本来この毒は天敵から身を守るための筈だが…
《アルラウネのような大型の魔物を捕食する食虫植物は、獲物が暴れる前に毒針で刺し殺すわ》
エレナさんの教えを思い出す。
そうだ、メガロリスは捕まえた相手が抵抗できないように手に強力な毒を生み出してるんだ…
「捕まったらアウト…でも動きは素早くはない…」
なんとか相手を牽制しようと動きたいが、今僕はエレナさんとハーネスで繋がってる…派手な動きは禁物…閃光も二度目が通じるかどうか…
……
メガロリスは僕達を値踏みするかのように見渡す。腕をゆっくりと、指差すように動かす。
そしてすぐに興味を失ったかのような表情を見せ、まるで幽霊のように身体を宙に浮かせながら森の奥へ飛び去っていった。
「飛行魔法か…」
しかしまたどこかから奇襲を仕掛けてくる可能性も考えて周囲を警戒する
夜風が周囲の木々を揺らす。
軋む枝音だけが響いていた。
「メガロリスは基本的にじっとしてる獲物を狙うそうよ。明らかな戦意を向けた相手に、態々戦いを挑むようなことはないわ」
「エレナさん…その子は…」
「応急処置はなんとか…でも時間がない。戻るわよ」
しかし周囲は暗闇、方向感覚は当てにならない。
「ソフィア…ごめん…僕が不甲斐ないせいで…」
…
「エレナさん、いっそのことですが飛行魔法で森の上空から一直線に戻りませんか?」
こんな世界だ、フクロウみたいな巨鳥や、闇夜に紛れるワイバーンみたいなのも居るかもしれない…しかし…
「メガロリスが頂点捕食者とは限らないけど…やむを得ないわ。冒険者くん、君、空中戦できるよね?」
「…得意ってほどではありませんが…やります!ソフィアが助かるなら」
「わかった、行くよ!…あと、念のために言っておくわ」
ソフィアを背負い、彼女をハーネスで繋げたエレナさんは、冒険者に釘を刺すように告げた。
「君も帰るのよ」
「…はい!」
危険な選択肢だけど、言い出したのは僕だ。だから…
「冒険者くん、君名前は?」
「リヒトです」
この発言には責任が伴う
「リヒト君…怖いよね」
「怖いです…」
だから少しでも、彼を安心させないと
「僕も怖いよ。でもリヒト君、このお姉さんは何がなんでも全員生きて帰らせる。一人じゃない。…僕の名前はアキラ、一緒に帰るよ」
…この言葉を裏切りたくないために
「エレナさん!」
「要救助者固定よし!」
「杖出力、飛行魔法安定確認よし!」
「上下空間注意よし!」
「上下空間注意よし!」
「飛行性捕食者注意よし!」
「飛行性捕食者注意よし!」
「「帰宅までご安全に!」」




