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退場しそうでしなかった人の話

ちょっと前に腕を喰われたケビンの話です。

俺の名前はケビン・バックランド


同期の冒険者、親友アキラと共に少し前まで冒険者として駆け出していたぜ!

彼は転移者ってやつで、あんまりこの辺の常識を知らない。

その癖、魔物の事にはまるですでに何かを知ってるかのように熱く語る変わり者。

しかし女の好みは良い、愉快なやつだった。

すぐに打ち解けた。


だが、ある日初めてのワイバーン種の討伐に行ったが…そこでヘマをしちゃった。


寝ているやつの首元を狙っていたが…気付かれてしまった。一瞬だった、何もかも分からなかった。

身体が宙に浮いたと思ったら…左側からゆっくりと…いや、そのあと急に痛み出した。

なんてことないと思ったら…何故かどれだけ弄っても…痛みの箇所がわからなかった。

…いや、左手のどこがじゃなくて…左手がなくなっていた。そう気づいた瞬間、更なる痛みがきて…気を失った。


目が覚めたら、病棟にいた。


全てを失った。

片手だけだと、もう魚釣りもままならない。

このまま俺は何も出来ずに死ぬのを待たないといけないのか?


と、思っていた。

病棟で看護師が

「バックランドさん、実は…」


希望だった。冒険者を続ける事を条件に、魔導義手、つまり『魔法で動かせる義手』なんてものをつけるのをギルドが負担してくれるらしい。

俺に迷いはなかった。


アキラから手紙が来た。

冒険者を辞めたらしい。だがアイツは次の道へと進んだ。調査員になるらしい。

聞くところによると、まだ冒険者ですら踏み入れてない未踏の地でそこの生態系を調査するそうだ。

なんだよ…負けてられないな。


「…こうして、機腕の冒険者としてのケビン・バックランドの再出発が幕を開ける!」

「バックランドさん、院内は静かに!」

「あぁはい…すみません…」


義手取付初日。


リハビリ室に向かって歩くが、右半身が重く感じる。

肩から下を撫でる風が、この不安定さが、現実を突きつけてくる。


リハビリ室に着いた。

用意されているのは、一見普通の義手。

促されるまま、それをとりつけた。


初めての義手。

取り付けてみたが、まだ腕って感じはしない。


「じゃあまずは魔力を通す前に、慣らしていきましょう」


看護師のお姉さんが義手と右手の、それぞれ同じ位置を優しく撫でる。


「どうですか?」

「ちょっと気持ちいい」

「あ、そうだけど、そうじゃなくて…。大事なのはこの義手が自分の左手だと言うイメージを持つことです。そうですね…じゃあ次は、この杖を義手に持たせます」


お姉さんは義手に細い棒を持たせた。

当然感覚はないが…


「では、この杖の先に魔法を通してみてください」

なるほど!こう言うイメージで慣らしていくのか!

早速杖に魔力を流してみる。


身体の中心から魔力を練り、それを杖に移す。

普段利き手ならなんてことない動作を意識して移す。


感じるぜ、初めて魔法を練り始めた時の感覚。

さぁ、左肩を通して、新たな腕に


《グシャッッッ!!》


「うわぁぁぁぁぁ!!ァァアァアアァァ!」

「バックランドさん!バックランドさん!!」


魔力が義手に差し掛かった瞬間…あの痛みが襲いかかってきた。気づけば、俺の義手は関節あたりから火が漏れていた。



「バックランドさんって…得意魔法は」

「あぁ、火属性だ。…思わず暴発しちゃった。…すまない、義手を無駄にしちゃって」

「いえ、魔法義手はまだ新しい技術ですが、初めてつけた人は皆通る道です。」

「…もう一回だ!もう一回やらせてくれ!」

「えぇ、私たちもサポートしますので」


次の義手が来た。

…もうなんか、これをみるだけで思い出してしまいそうだ。


「バックランドさん、あなたのような目にあった人はたくさんみました。ですが、みんな乗り越えたからあなたも行ける…なんて言葉は使いません」

「どういうことだ?俺には無理だと?」


看護師のお姉さんは続ける。

「いえ。…そうですね、語弊のないように聞いて欲しいのですが…バックランドさんが経験したそれは、数ある大なり小なりの絶望の一つです。順番待ちをして楽しみにしていたケーキが目の前で売り切れたり、去年着ていたスカートが入らなかったり、好きな女の子には好きな男の子がいて、同じ女性の私のことを恋人してみてくれる機会がないと知った時みたいに…」

「俺の腕をその程度だと…!?いやでも、最後のはなかなか…」


「兎に角、そういう過去に乗り越えた絶望と、敢えて同じように向き合う事が再出発のコツかと思います」


…要するに、これまであった嫌なことと同じように乗り越えないといけないのか。

…嫌なことがあった時、俺は大抵やけ食いしてた…。


待てよ、このままじゃ…

やけ食いすらままならないのか!?


「男なら…ヤケクソじゃぁぁぁぁ!!」


また脳裏に焼きつく痛み

痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い怖い痛い痛い痛い痛い


でも…たかが痛みだ!俺の炎で押し返してやる!!

「うわっ!」


突然、俺の義手が勝手に動いた。


「あっているのか…?」

「えぇ!その調子です!最初の難関を乗り越えました!!あとはこれを自分の意思で動かせるようにするだけです!!」


その日リハビリはもう少し続いた。

なんとなく肘の部分を曲げる程度しか出来ないが、追々行ける気がする。ゆくゆくはこの左手を完全に動かせるようになれば…!また冒険者として返り咲ける!!



数日後


そういえばアキラは今「エレナ」っていう調査員下で働いてるらしいな。

アキラ本人からは身長の高い綺麗な人って聞いたが…ちょっと見てみるか


外出届を出し、彼女らの元へ向かうことにした。


(綺麗なお姉さんにマンツーマン指導、ねぇ…)


(アキラのやつ、意外とやることやってんじゃねぇの?)


(「ちょっとエレナさん…当たって…!」とか言ってたりしてな)


(そして夜は二人きりのオフィスで…)


なんとなく迷うフリをしながら、自然管理課の事務室を通り過ぎてみる。お、あの人がエレナか。

アキラ本人が居れば軽く挨拶を…おや?


「アキラ君何回言ったらわかるのよ!調査完了報告書は少しの誤字も許されないのよ!やり直し!」

「すいません…」

「あのね、そんなに書類ミスが多いなら、提出前にチェックリストでも作ったら良いのよ。そういう工夫もちゃんとして!」

「はい…」


…また今度にしよ。

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