ドキドキ!?初出勤!その2
目が覚めると、背中に硬い感触が。
起き上がると、どうやらベンチらしき椅子に横たわっていたことに気づく。
「気絶していた…?」
「大丈夫?指何本に見える?」
エレナが指を目の前に持っていく。
「2本」
「うん、問題ないね」
「えっと…どれだけ気絶してました?」
「いや全然、倒れた後すぐにここに運んだけど、そこから1分も経ってないわ」
「そう…ですか」
「じゃあ、さっきの模擬戦について話すね。大丈夫?頭とかクラクラしてない?」
「はい、大丈夫です。…お願いします」
「まず、鎖攻撃に対して逃げようとしなかったのは良かったわ。もがけばもがくほどキツく縛られるってことに気づいたね」
「はい」
「で、そのあとは接近して…閃光魔法で目眩しするつもりだったでしょ?」
「!?…どうしてわかったのですか?」
「なんでだと思う?」
「まさか、僕に埋め込んだ鎖を通して魔力の動きを」
「あはは、流石にそこまで器用なことは出来ないよ。…単にアキラくんなら、こう言う時に攻撃しないと思ったから。先に目眩しか何かで動きを封じようとする。…まぁ、視力の良い魔物相手ならそれが正解だよ。じゃあ何が駄目だったのかと言うと…今回の場合は、接近することかな?」
「…?」
「例え話だけど、アキラくんは食虫植物って知ってるかな?」
「ハエトリグサとか、そういうのですよね?」
「そう、虫を食べるような小さい種類は押さえつける力と消化液で獲物を溶かし殺せるけど、アルラウネのようなワイバーンも獲物にする種類はそうはいかないの」
「大型の魔物は力も強く魔力も高い。大事な葉っぱを傷つけられるわけにはいかない。でも、消化液を強くすることはできない。そんなことしたらアルラウネ自身が溶けちゃうからね?じゃあ彼らはどうする?」
「前に見た図鑑には、獲物が暴れる前に毒針で刺したり瘴気を充満させると書いてました」
「正解!…私の言いたいこと、わかるかな?」
「捕まった時、相手は獲物をすぐに仕留めにかかる」
あの時は確実に目眩しさせたかった。でも、もし同じ状況になったらそんな猶予はない。だから…
「…だから、多少不確実になっても、あの時は接近せずにその場で閃光を打ち込んだ方が」
「さっすが!じゃあ…2回戦、やる?」
「はいっ!」
再び闘技場に立つ。
今度は素早く切り抜ける!
「…なにこれ!?」
瞬間、エレナの杖の先から《闇》が迫ってきた
なんだかよくわからないがとにかく逃げるが…
間に合わない!すぐに視界が暗転した
闇魔法ってなんでもありかよ…!
いや光学迷彩とか念写が出来る光魔法も大概か
深海生物みたいに光で目眩しさせる。先と違う攻撃をするエレナさんにそんな考えが通じるとは思えないが、そう思った頃には既に体が動いてた。
しかし案の定、闇が晴れるはなかった。
とにかく今は逃げるしかないっ!
走りながら考える。
何も見えないのは僕だけなのか?
それともエレナさんも見えないのか?
電波か超音波でエレナさんの位置を確認したいが、そこまでの技術はまだない。帰ったら練習し
ガシャーーンッッ!
次の瞬間、首に衝撃が走る。
この衝撃は覚えがある。さっきと同じだ!
あの鎖だ!エレナさんは僕の位置を把握しない!
鎖で繋がれるなら、これを強く引くと、鎖がピンと張るはず…なんて考えてる場合じゃない!
左から来た!後ろに引っ張られてる!
左斜め後ろを撃てば!!
「…大雑把、だけどそのイメージよ」
暗闇が晴れた。
エレナの手の甲にかすり傷が付いていた。
「やった!」
「まだ終わってないよ」
「…!!」
首に衝撃が走る…しかし、今度はすぐに気絶しなかった。
「…耐えた?」
念の為に気張って首筋に魔力を集中させていたが…そもそも首に力を入れるイメージがあまりなかった。
衝撃でつい足を崩してしまった。
「…!!大丈夫?」
鎖をつけたまま、エレナさんはまた僕に駆け寄った。
…結局、その日の模擬戦はこれで終了だった。
「お疲れさん、最初にしては上出来だよ。特に2回戦、判断が速いだけじゃない。…なぜあの時弾幕を貼らなかったの?暗闇なら全方位に攻撃魔法を放てば必ず当たったはず…ま、答えるまでもないよね」
「エレナさん、念の為に聞きます…もし周りに調査員も要救助者も、とにかく周りに人が居なくて今まさに死にそうだとしたら…それは使って良いですか?」
「アキラくん…」
…
「いいよ、使っても。」
「…!?」
「確かにそれで環境は滅茶苦茶になるかもしれないし、関係のない魔物も刺激する。でも、調査員に一番あってはならないことはね…」
固唾を飲む。調査員の大罪…ゴミの不始末か、無意味な殺生か…それとも…
「魔物に、人の味を覚えさせることよ。その意味はわかるよね」
「…はい。人の味を知った魔物は…」
人の敵になる。
それから定時までは残りの事務作業を進めた。
「あとは私がやるわ。アキラくんは退出の準備が必要でしょ?」
そうだった、これから冒険者から調査員へシフトチェンジしていくため、僕はギルドの冒険者用居住宿から退出しないといけない。
…少し狭いが、一人暮らしする分には充分な広さ。
そういえば、ケビンとは隣同士だったな…
部屋に着くと、紙封筒が一つ。
「ケビンからだ!」
《アキラへ
そうか、お前はその道へ行くのか。
聞いたよ、調査員は冒険者すら踏み入れてない未踏の地も行くことがあるって》
「文体が全然丁寧じゃないな」
《昨日、夢にあいつが出てきた。夢の中ではまだ左手がくっついて動いている。それがあまりにも怖かった》
「すまない…エレナさんには『左手で済んだ』と言ってもらったとはいえ、やっぱり辛いよ」
《最近の義手は、魔力を通せば腕みたいに動かせるらしい。今はリハビリとしてそいつの練習をしている。動かせるようになったら、また冒険者に戻るぜ。お前がやりたい事に、前に進んでるってのに、俺が置いていかれるのはかっこ悪いからな》
「ケビン…!」
《じゃあ、お互いがんばろうぜ!また生きて会えたら、何処か美味しいものでも食べに行こうな!その時には…エレナさんを連れてもいいぜ。君の恋路が、良い結末になることを祈ってる》
「違う!…」
おまけ
退出と仕事の準備を整え、ベッドで寝ていると…
「…」
今日の出来事を思い出す。
(このまま何も出来ないと、食べられるわよ)
…
(食べられるわよ)
…
(食べられるわよ)
いやいやいや、アレは真面目な警告だから。変な意味として捉えちゃダメ!
気絶したのを忘れたのか!?
…
首に鎖をつけられた時も同時に出てきた。確かに重い一撃だった。
思わずバランスを崩した。
そしてそのあと彼女が駆け寄ってきた。
首に鎖を繋いだまま。
…その状態で見上げた、歳上の綺麗なお姉さん。
状況だけ思い出すと…
いやいやいや、僕にそんな趣味はない。
翌日
「そういえば、エレナさんって鎖魔法を他の人に当てたことありますよね?」
「まぁ、冒険者時代、クエスト仲間と模擬戦する時に一回だけやったわ」
「…一回だけ?」
「変になりそうだからやめてって言われた」
良かった、多分普通の反応なんだ




