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ドキドキ!?初出勤!!

エレナさんとの初仕事


(でもすぐに調査には同行させないし、まだ一員にはしないよ。)


彼女の言葉を思い出す。

いきなり調査じゃないなら…なにをするのかな?


「あらためてようこそ!自然管理課の生態系調査員へ!!」

「よろしくお願いします!」

「では早速だけど…これをやってもらうわ」


目の前に広がるのは大量の紙の山だった

「そっちの覚悟は足りなかった…って顔してるでしょ、調査だけが私達の仕事じゃないからね」


大量の書類。

これを全て整理するのか?


「調査後に報告書を作ったり、他の支部の調査員の報告書を整理したり、ギルドから来た依頼書をリスト化したりその他諸々かくかくかくしかじか…」


「…もしかして、僕がくる前は」

「はい…」


エレナの目は、少し遠くの空を見つめていた。


「事務作業専門の人は…」

エレナは、さらに遠くの空を眺めていた。


よし、頑張るか。


エレナの指示に従い、書類を分別していく。


・6月度のギルド事故報告書

・作業前安全ミーティング報告書

・危険予知活動記録

・7月度調査予定地一覧表

・魔物討伐報告

・定例会議資料


その他様々な資料や書類を分別し、ギルドに提出できるようにまとめていく。


・6月度テチス内海における漁獲量

・家畜被害・行方不明報告

・ミランビア港における魔物被害報告

 

…所々気になる内容の文が見え隠れするが、ここは我慢するところだ。



・6月度新規遺品一覧

・6月度廃棄決定遺品一覧


「こう言うのも纏めるの?」

「どっちかというと、情報共有かな?そのついでに他の部署から半ば押し付けられたり…」

「えぇ…」

「押し付けたりもしてる」

「…」


これが、社会人というものなのか…?

行方不明者の資料に押印してると、エレナがふと顔を近づかせる。彼女の長髪がふと顔にかかりそあになり、一瞬ちょっとドキドキしたが…彼女の視線は行方不明者の名前を指していた。そして…

「あぁやっぱり…」


と小さく呟いた。


「…やっぱりというのは?」

「いやこの人、アキラ君がここにくるちょっと前に冒険者になったんだけど…その人、学生時代から模擬戦ですごい強いって有名だったの。ただ強いだけじゃなくて、まだ解明されてない部分と多い闇魔法の使い手でね。ついたあだ名は《闘技場の未亡人》」


「なかなかかっこいいですね」


「対戦相手が悉く倒され、自分が残ってるから未亡人らしいって。で、その人が冒険者登録した時、結構話題になってたのよ。珍しい魔法を扱える、凄く強い人が冒険者になったから、魔物討伐も一気に増えるかも…みたいな。最初こそすごかったわよ。でも…結果はこんな感じ。…確かに模擬戦は大事よ。いろんな魔法攻撃を相手することで、現場での冷静な判断力が養えるから。ちなみに午後からは私と模擬戦よ。訓練も仕事のうち」

「はいっ!…」


「で、話は戻るけど…アキラ君ならわかるよね?冒険者や討伐隊、そして私達が現場で相手してるのは魔物そのものだけじゃないって。魔物は、その地で生存競争を繰り返し、適応していった。つまり…」

「僕たちは、常に魔物側が有利な戦いを強いられている…」

エレナと出会った時、『ワニに水中戦を挑む人がいるか?』という例えを彼女から聞いた。

でも実際は少し違った。


任務として現場に出た瞬間、『既に水中戦を挑んでいた』ことになっていた。


大量の書類がある程度まとまった頃には既にお昼を大幅に過ぎていた。


「お疲れさん、食堂行こっか」


お昼時を過ぎても、食堂は案外賑わっていた。

どこの部署も、似たような、もしくはそれぞれの苦労と闘ってるみたいだ。


「午後から模擬戦だから、しっかり食べるのよ」

今日のメニューはガルストリスのハーブソテー定食だ。ちなみに、ガルストリスはコカトリスの小型種を家畜化したものらしい。


…あんな危険な生き物、よく飼い慣らせたなと思っでも、よくよく考えたらイノシシも危険生物だった。


定食を口に運ぶ。午前中の疲れが一気に吹き飛びそうだ。パリッとした皮の脂身のエグ味や獣臭さをハーブが中和してくれる。口に広がるのは肉の美味しさと清涼感。


「美味しい…!」

「でしょ、結構評判なのよ」


「エレナさんは、どうして調査員を目指したのですか?」

「そうね…実は私も最初は冒険者だったの。本業は博物館勤務だけどね。展示の参考にするためにね。いい感じの小遣い稼ぎにもなるし。クエスト仲間なんてのも出来たわ。休日や午前勤の帰りに任務をこなし、その報酬で食べ歩く。楽しかったよ。それに、それなりに強くもなった。でも…いつのまにか、討伐する時、みんな《いかに早く討伐するか》を重視するようになって来た。勿論それは正しいことよ。少ない手数で倒せることに越したことはない」


「…」


「いわゆる方向性の違いって感じで、彼らとは少し疎遠になった。一人で任務に出向き、寄り道感覚で関係のない魔物をじっくりと眺める。それをレポートにまとめて、博物館に提案してたら…いつのまにかそっちの方が向いてた。別に辛い過去とは無いわ」


「その後、クエスト仲間とは今も仲良くしてますか?」


「そうね…そうしょっちゅうじゃないけど、私が調査員になって以降会う機会は増えたわ。ちなみに、調査員になるって言った時『あー、やっぱりその道行ったのね』って言われたわ」


「あはは…」



束の間の休息が過ぎ、今度は闘技場に連れられた。

行ったことはないが、イタリアのコロッセオみたいな雰囲気だ。


「ここが模擬戦で使う闘技場よ。」

「結構広いですね」

「模擬戦以外にも、討伐隊の訓練や近隣の教育施設の体育祭にも使われてるわ。」

「へー…」

「今朝話した通り、模擬戦は体力と判断力の鍛錬に役立つけど、そこでいくら強くても現場では通用しないのを忘れないでね。用意は良い?」

「はい、いつでも行けます!」


しまった、エレナの得意魔法聞いてなかった!

どこからどんな攻撃が来るかわからない…!

でも…どんな技でも対応してや…


ガシャッーーーンッッ!!


「なにっ…!なんだこれは…!?」


何か冷たいものに縛られた感覚、心臓を掴まれたような…違う、縛られた感覚!

ふと下を見ると、自分の体から何かが生えている…

これは…鎖!?真っ黒だけど光ってる…物とかじゃない、魔力だ!


「あ、言い忘れてたわ。…私も闇魔法使えるのよ」


なんとか振り解こうとする、巻き付かれてるわけじゃないのに、なんだか身体が鈍い!

たまにドライなこと言うけど、優しいエレナさんとは違う…まるで巨大な蛇に睨まれてるような…!!


「このまま何も出来ないと、食べられるわよ」


身動きが取れない僕に、エレナさんは容赦なく漆黒に輝く攻撃魔法を撃ち込む。

これらが全部闇魔法か!必死に防御するが、手数や瞬発力で負ける…間に合わない…!

冒険者時代は、こうやって魔物を拘束して攻撃してたのか!?


この時点で彼女の勝ちなのか…!?


考えろ…考えろ…逃げようと振り解くと余計に…

心臓をキリキリと冷たく縛られるような…そうだ!


「…!?」


逆にエレナに向かって走った。

不思議なことに、縛られる感覚が少し和らいだ。

エクラノプランで急接近、そのまま光魔法の目眩しで隙を作れば!


「よく気付いた。でも、らしくないわね!」


瞬間、再び腹部に衝撃が走った。

視界が…消え…


「この鎖だって魔力ってのは、気付いてたはずよね?」


消えゆく景色の中、最後に見たのはエレナの得意げな表情だった。

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