湿原の水竜
「ケビン…!!」
思わず、ヒスイリュウに攻撃魔法を当ててしまった。
自分でもわかってるはず、この行動はヒスイリュウに対して自分を狙えと言ってるようなもの。
ヒスイリュウは僕を狙い、まるで水中を泳ぐかのように空中へ飛び出した。
「今は…逃げるしかないっ…!…飛行滑走魔法!!」
飛行魔法を使用、しかしこれは空中戦に持ち込む自殺行為ではない。飛行魔法は魔力を消費する代わりに地面との摩擦抵抗から解放されることで、全力ダッシュより速く移動できる。
これを応用した飛行滑走魔法はとある転移者が編み出した移動方法。
地面や水面ギリギリを飛行することで、身体を上昇させる魔力を最低限にし、余った魔力を横移動への出力へ回す。さらに、地面ギリギリを飛行することで、地面効果を生み出す。これにより揚力は通常の飛行魔法より少なく済むのだ。
「しばらくは逃れる…素早くケビンを回収しないと…」
しかし、何故バレた…臭いも消した、背景にも溶け込んだ…なぜだ…はっ!
よく見ると、ヒスイリュウは鼻先を左右へ揺らしていた。まるで何かを嗅ぐように。
だからこその違和感
「嗅覚?いや…それ以外で…鼻先で探すってことは…まさか…!いやいやそんなはず、サメに似てるとはいえ、彼奴は爬虫類…収斂進化による他人の空似…しかし…アレじゃないと説明つかない…!!」
しかし、エレナの怪鳥の話や、アクロカントスの件を思い出すと、その仮説が強固なものになる。
怪鳥やアクロカントスは雷魔法を武器として使用していた。
なら、それを感知する進化をしてもおかしくない
「生体電流…!ヒスイリュウがサメのような頭部に進化したのは水中を素早く移動するだけでなく、生体電流を探知する為のものだった…のか?」
素早く電撃魔法を準備する、しかし鼻先に当てるには限界まで近づく必要がある。そんな技術はない…
いや、違う!当てる必要はないっ!
ポケットから非常食の燻製肉を取り出す。
それに電気を流して空へ放り投げる。
電気に反応するなら、そして反応の先が肉なら…奴は疑う必要がない!
「頼むっ…!君なら応えてくれるはず!」
ヒスイリュウはそれに反応して視線を逸らす。
「よし…反応した!後は…」
地面で疼くケビンへ向かう。
「頼む…間に合え…!!」
ケビンの右手を掴み、そのまま逃げるように去った。
キャンプ地へ戻る。
ケビンの左腕は傷と腐食、そして泥によって赤黒く染まっていた。よく見ると白い何かが蠢いている。
「うっ…おぇぇっ…」
任務失敗 ケビンは病院へと運ばれた。
彼の顔は痛みと恐怖で歪んでいた。
翌日、僕はケビンへのお見舞いへ行った。
「アキラ…すまない…やっぱり俺がバカだった…」
「…そんなことない。かなり惜しかった。」
そう、惜しかったんだ。限界まで近づけたんだ。
…そんなわけない。
ヒスイリュウは早い段階で気づいてたかもしれない。
正直に図鑑通りに雷魔法を使った方がいいかもしれない。複数人で同時に雷魔法を使えば、電流探知を撹乱できたかもしれない。
後から考えたら幾らでも出てくる。でも、それを口には出せない。
翌日、僕は図書館へ足を運んだ。
魔物図鑑を読み漁る。…普段から好きで読んでるが、しっかり読むのは初めてだ。
読む手が止まらない。どんどん知りたい。
でも…まだ情報が足りない気がする。故郷で読んだことのある図鑑より、何か足りない。
その翌日、博物館へ行った。
様々な魔物の剥製や、骨格が展示されてる。
「ワイバーンの骨格…翼竜というよりかは、ラプトル系だな…」
「これがドラゴン…?トビトカゲと同じ肋骨で翼を作ってたんだ…」
「あれが海竜…大きい…この頭骨…スピノサウルスそっくり…この世界は、恐竜が絶滅してないのか…!」
…自分のことが不思議で仕方なかった。
あんな目にあったのに、何であんなに楽しめるんだ。
あぁそうか…僕は…僕が思う以上に…
生き物が好きなんだ。
《調査員は人手が足りないの》
エレナの言葉が出てきた。
彼女達が生き物を調査するからこそ、冒険者達が任務をこなせる。しかし、人手が足りないならケビンみたいな目に遭う人も沢山いる。
…もう迷いはない。
前にエレナから貰った連絡先を頼りに、彼女の元へ尋ねた。
「あら、久しぶり!…聞いたわ。大変な目にあったのね」
「エレナさん…僕を…僕を調査員にして欲しいです!」




