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XX線の走る学園最寄り駅の周囲は駅前広場と商店街がある。
3人が商店街に入ったとき、小さな人だかりが出来ていた。
「なになに? 撮影?」
好奇心旺盛の奈々は、すぐさま人混みの方に向かっていく。
茉理と祥子も後を追った。
そこには小さいが老練の和菓子屋があり、その前に二人の少女が立っている。
(うわっ、綺麗な子)
彼女たちを見た第一印象は、まずそれだった。
二人はいかにもアイドルらしく、魔女っ子のように可愛いフワフワした丈の短い衣装を身にまとい、髪にきらきら輝くヘヤーアクセを着けている。
一人は華やかな赤色の髪を左の頭部の高い位置に一つにまとめて結び、肩まで綺麗に流している。先端はくるくると巻き毛になっていて、彼女が身動きするたびに赤髪が尻尾のようにユラユラ揺れて可愛く見えた。
もう一人は漆黒の髪を左右ツインテールにして結い、やっぱり毛先は巻かれてカールしており、肩の上でさりげなく揺れている。
二人は白手袋をした指をパチンと鳴らし、お皿の上にこんもりと盛ったみたらし団子を出した。
周囲が二人の動作に拍手する。
「すごい、魔法みたい」
「手品でしょ。でも本当の魔法みたいよね」
茉理も感心して拍手した。
(仕掛けはどうなってるんだろう。あのお団子ってどこに隠してたのかな)
思わず少女たちを凝視する茉理の視線に気付いたらしい。
赤い髪の少女が一瞬彼女の方を見て、パチリと片目をつぶった。
(えっ、今のわたしにしたんじゃないよね)
どきっとしながら、茉理は二人が目の前のビデオカメラに向かってお団子を紹介したり、美味しそうに頬張ったりするのを見守った。
店の前での撮影が終わったのか、二人とカメラを構えたおじさんは、のれんをくぐって店内に入っていく。
流石にせまい店内まで押しかけていく人はおらず、見物人たちは三々五々とまた商店街通りを歩きだした。
「行こ、茉理」
奈々に促され、茉理はアイスクリーム専門店[21ジェラート]に向かう。
商店街中程にある店舗は、暑さのせいか店内は満席だった。
全国チェーン店のこのお店、基本21種類のアイスを取り揃え、他に季節限定アイスを出している。
レジ横に大きなポスターが貼られ、季節限定アイスの写真があった。
今年の夏はスイカ味とレモン味の二種類のジェラート、それとヘルシー志向のお豆腐アイスがバニラと抹茶の二種類出ている。
(どれにしよう)
少し悩んで、茉理は甘い小豆のトッピングがかかった抹茶のお豆腐アイスにした。
祥子はレモン味のジェラートを頼み、奈々はマーブルチョコバニラを選ぶ。
幸い店内のすみにあるカウンターが空いたので、その前で立ってアイスを食べた。
校則では制服の寄り道は禁止だったりするが、茉理達を含め制服組も店内にはけっこういたりする。
小豆の柔らかな甘さと抹茶の渋さがマッチして絶妙な美味しさのお豆腐アイスを楽しんでいると、横に立つ奈々がボソッと呟いた。
「あれって手品じゃなくて、魔法だよね」
「え?」
「ほらさっきの二人組。一般人には手品としか見えないけど、確かに魔力の波動を感じたもの。ね、祥子はどう思った?」
「わたしもそう感じたわ。少しだけど魔力を使ってた。あの人たち、間違いなく魔法使いよ」
「そうなんだ」
別にどっちでもいいが、何となく凄いと感心した気持ちが覚めていく。
複雑な顔の茉理をよそに、奈々と祥子は二人組の話題で盛り上がっていた。
「どこの人たちだろう。学園にあんな綺麗な女子いたかな」
「中等部ではないと思うわ。いたら噂にぐらいなるでしょう。高等部の先輩かも」
「にしては、ちょっと年下っぽくない? 高校生には見えなかったよ」
「女の子はメイクと髪でいくらでも変わるのよ。童顔で可愛い系のメイクだったし、年上の可能性は絶対あるって」
「うーん、それか公立の中学か高校か。あるいはクリスティじゃなくて、別な魔法学校か」
「学生じゃなくて、もう成人してたりしてね」
「えーっ、あの顔でそれはないでしょう。幼く見えたよ。大人じゃないって」
「そうとも言い切れないでしょ。メイク次第で何とでもなるわ」
「いや、流石にメイクだけじゃ限界があると思うんだけどな」
二人の会話はそこで途切れた。
茉理はさっき耳に入った会話の中で、気になった事を聞いてみる。
「あのね、魔法使いもクリスティ学園じゃなくて公立の学校に通ったりするの? あとうちの学園以外に魔法学校ってあるの?」
茉理の疑問に、アイスのスプーンを口から出した奈々が答えてくれる。
「そりゃ公立にも行くわよ。学園に入るのは別に魔族の義務でも規則でもないし。むしろ公立通ってる子の方が多いんじゃないかな」
「そうだと思うわ。やっぱりうちの学園って私立だから、公立よりお金がかかるし。公立は中学まで無料なんでしょう?」
「言われてみればそうね」
茉理はうなずいて、またアイスを口に入れた。
「あとクリスティ学園以外にも、魔族の学校は日本全国あちこちにあるわ。一番規模が大きい学校はクリスティだけど」
「そうなんだ」
「近場は……あ、隣のN県に一つあるわよ。山奥にあって、かなり小さいみたい」
「小さいの?」
「初等部と中等部しかないのよ。再来年高等部も出来る予定だって聞いたわ」
「小さいって、そういう意味ね。今は小学校と中学校しかない。再来年に高校が出来るってことか」
「あそこかなり変わった学校なんでしょ。わたしも聞いたことあるわ」
祥子も話題にのってくる。
「確か天の川学園だったよね」
「グッ」
茉理は思わず口に入れてた木のスプーンを、思いっきり噛んでしまった。
「ちょっと大丈夫? 茉理」
「ゆっくり食べないと……って、ゆっくりしてたら溶けるか、アイスが」
自分の言葉に自身でつっこみを入れながら、奈々が笑う。
(天の川学園。名前からして嫌な予感しかしないんですけど)
茉理は夏休みの出来事を思いだし、身震いした。
彼女の反応に気付くことなく、横の二人は話を弾ませる。
「なんか山奥の廃校になった木造校舎を、天の川建設が買い取ってリフォームしたんだってね」
「そうそう。あそこ学校の制服がマニアック過ぎて、地元でも有名なんだって」
「マニアック?」
茉理の問いに、祥子が答える。
「制服がね、忍び装束にそっくりなの。いわゆる忍者服。色だって凄いのよ。学年ごとに違うのだけど赤青黄色と三色で、信号機みたいなんだって」
「地元じゃ忍者学園ってあだ名で有名みたい。そりゃそうよね、忍者の格好したのが、毎日わらわら道を通って山奥に通ってるんだもん。噂にもなるわよ」
うちの学校の制服は、まだ普通ので良かったわ、と奈々はつぶやいた。
(ただのコスプレみたいなものかと思ってたけど、あれって制服だったんだ)
茉理は夏休みに出会った真っ赤な忍者姿の少年を思いだす。
実にはた迷惑な彼だったが、妙に憎めない人だった。
(もう会うこともないと思うけど)
茉理はそう考えて、少年の事は心のどうでも良い片隅に追いやり、友達二人と過ごす楽しい放課後を満喫した。
「じゃあね」
「また明日」
お決まりの挨拶をして、二人と別れる。
奈々と祥子は徒歩通学だが、茉理は電車だ。
駅の改札を通ってホームに行くと、偶然にも遠野斎と出会った。
『後野さん』
嬉しそうに思念が送られてきて、茉理も笑顔を見せる。
「何か久しぶりって感じ。ずっと忙しいんでしょ」
そう声をかけると、斎は笑みを浮かべてうなずいた。
『大きな行事が控えてるからね。今日、帝先輩は招待状の準備をしてるんだ』
「招待状?」
『体育祭の時、ご父兄の他に学園理事や有力な名門魔族の人たちを招待するんだって。あと高等部の先生達も来るそうだよ』
「けっこうお客さん多いんだね」
茉理は目を丸くする。
『普通の中学は違うんだろうけど、僕達魔族は15歳で成人だからね。中学三年生は皆大人扱いで、今から将来のために実力を示しておく場でもあるんだ、体育祭は』
「そうなんだ。将来って就職とか?」
『まあ、そうだね。有力な魔法使いは今から目星をつけられて、高校になったら声をかけられることが多いよ。だから中三の種目だけわざと魔法を使ったダンスや競技が入ってる』
「中学の時から就職活動って考えられないな」
魔族の世界って色々大変なんだね、と茉理はつぶやいた。
『まあ、そうはいっても実際に優秀な生徒以外声なんて滅多にかからないよ。結局ほとんどの学生は大学卒業してから一般企業に就職が普通だね』
「そっか。そこは魔力がない人とあまり変わらないんだね」
茉理は少し安心する。
正直心の中で自分は中三までこの学校についていけるのか、ちょっと自信を無くしかけていたのだ。
「あ、電車来たから行くね。また明日」
茉理は手を振って、ホームに入ってきた電車に乗り込む。
見送ってくれる斎の表情が複雑そうなのが気になったが、わざと笑顔を見せてドアが閉まる前にもう一度手を振った。




