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何故かカゲキな体育祭(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編5)  作者: 月森琴美


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 二学期が始まって三日が過ぎた。

 一学期とは違う変化が、茉理の周囲で起きている。

 まず登下校。

 以前は茉理が拒否しまくったせいで、朝は帝と別々に登校していた。

 だが9月からは毎朝、校門の桜の下で待ち合わせて校舎まで一緒に歩くということになった。

 そのかわり以前は帰りに家まで送ってくれていたが、放課後の生徒会活動が忙しくなってしまったため、茉理は一人で帰宅することにした。

 帝は家まで送ると息巻いていたが、家まで来てもらってから魔法で学校まで瞬間移動すると言われて、茉理はそれには及びませんと丁寧にお断りしておいた。

(何もそこまでしなくてもいいよ)

 本気でつき合ってるカップルなら四六時中一緒にいたいと思うのだろうが、今の中途半端な状態でそこまでしてもらう気にはなれない。

 それより帝の負担にだけはなりたくなかった。

 朝、待っていてくれるだけでも嬉しい。

 なんだかんだと言いながら校舎まで歩くのが、すごく今の自分には贅沢な時間に思えた。

 時々口げんかみたいにもなるが、お互い慣れたのかそこまで尾を引くことはない。

 だが――。

「帝先輩、最近何かありましたか」

 朝、何となく気になって、つい茉理は聞いてしまう。

「何かとは何だ」

 ぶっきらぼうに聞き返され、うーんと彼女は考える。

「その、最近、ちょっと変な気がして」

「変な気だと」

 帝の眉間にシワがよった。

「あ、別に何かあったとかそういうわけじゃないんですけど、こう何と言うか、やっぱり変なんです」

「なんだそれは」

「上手く説明出来ないんですけど、時々凄く嫌な感じがするというか不安になるというか」

 茉理の漠然とした発言に、帝は顔をしかめる。

 しばらくして、ぽつりと言った。

「……不安なのか」

「すみません、変なこと言ってますよね」

 忘れてください、と茉理は胸に下げた白い石をぎゅっと握りながら笑みを見せる。

 その様子を目に捕らえ、帝は指を伸ばして彼女の頬を優しくつねった。

「ったたたっ、何するんですか」

 茉理がふくれて抗議すると、彼はめずらしくにやりと笑う。

「そう迷子みたいな顔をするな。大丈夫だ」

「え?」

「体育祭が近いからな。特に中三の連中はぴりぴりしてる。お前が感じるのは、きっとそういう連中の気だ。深く考えなくていい」

(中三……そういえば)

 茉理は奈々の言葉を思い出した。

(雅人様が中三で、絶対華麗なお姿を見なきゃとか言ってたっけ)

「あの体育祭で中三の先輩たち、何かするんですか」

 茉理の質問に、帝は目を細めて答える。

「体育祭の最終種目で、旗取(はたと)り合戦を行う。体育祭には父兄だけじゃなく、近隣の有力な魔族たちを招待して、将来を担う若き魔法使いの実力を披露するんだ」

「旗取り合戦ですか」

「魔力のない者たちは体で騎馬を組んではちまきを奪い合うと聞いたが、うちのは魔法で行う合戦だ」

 迫力あるぞ、と言われて、茉理は逆にさあっと青ざめる。

「魔法で合戦って、まさか戦うんですか」

 以前魔獣との戦闘を間近で見たが、あれを人間同士でやるというのか。

(うそっ、絶対見たくないよ)

 プロレスや格闘技の番組はあまり好きじゃないし、正直何が面白いのかさっぱりだ。

「もう帝、ちゃんと説明しないと姫が怖がってるじゃないか」

 おはよう、といつの間にか横に書記の山下英司がいて、声をかけてくる。

 いつもの事なので、茉理は動揺せずに挨拶した。

「おはようございます、()()()()

 目の前にいる茶髪でくせ毛の明るい英司は本物ではなく、実は副会長の伊集院雅人が変身した姿なのだ。

 雅人は輝くような金髪と翠玉の瞳を持つ貴公子のような美しい容姿で、本人もそれをよくわかっているナルシストである。

 常に自分を意識して大仰な芝居がかった発言(それもやたら長い)をするため、うっとおしいと会計の森崎直樹が自分の開発した魔法薬を雅人にぶっかけて、女子からきゃーっと悲鳴や歓声をあげられたら即座に金の蛙に変化してしまう特異体質にしてしまった。

 それ以来彼は自身の姿を晒して人前を歩くことは極力避けて、別人に魔法で変化している。

「朝から可愛い姫君に会えて、僕は最高にラッキーだ。こんな日にはきっと素晴らしい出来事が起こるにちがいない。ああっ、今から今日という日が待ちどおしいよ。この華麗なる僕の身に一体どんな冒険が待ち受けていることか」

(相変わらずのテンションだなあ)

 彼の恒例となった長い台詞を聞きながら、全然違和感を感じてない自分に、茉理は気がつく。

(慣れって怖いかも)

 心の奥でそう思いながら、あー、そうですか、と軽く流した。

 すかさず雅人は薔薇の花を出すと、彼女に差し出す。

「さあ、姫。貴方に捧げるこの一輪。どうかお受け取りを」

「ありがとうございます」

 もう毎度のことなので特に気にせず、茉理は薔薇を受け取った。

 そっと香りを吸い込むと、モヤモヤした気分が落ち着いていく。

(ほんとこの薔薇の効果もすごいわよね)

 雅人がくれる薔薇の花には、香りに精神を静めてリラックスさせる魔法が付与されていた。

 ふざけた言動の裏側では、人の顔色や反応などを気にかけてくれている彼らしい気遣いなのである。

 気分が落ち着いたので、薔薇の花を大事に持ち直そうとしたら、さっと横から取り上げられた。

 帝が怒りの眼差しで、ぐしゃっと花を握り潰す。

「俺の女に花なんか贈るなっ。お前もお前だ。笑顔で受け取るな」

 明らかに不機嫌になった彼を見て、茉理はあわてて別な話題をふる。

「あの、さっき話してた旗取り合戦の事ですけど」

「そういえば説明がまだだったね。この僕が華麗にわかりやすく教えてあげよう。さあ、とくと聞きたまえ」

 大仰な前口上とは裏腹に、雅人はごく普通に説明した。

「旗取り合戦はね、別に学生同士で直接バトルするわけじゃないよ。魔獣を償還して戦わせるんだ」

「魔獣ですか」

 それはそれで凄いかもと、茉理は目を丸くする。

「闘牛ならぬ、闘獣かな。ま、全員が償還するわけじゃないけどね」

 雅人は長い指先で優雅に髪をかきあげると、微笑んだ。

「校庭を五等分して、A~E組まで一つずつ陣地を振り分ける。担当する陣地にクラスの全員が入って、それぞれ魔法を駆使して城や砦を出現させ、罠や結界、防御陣なんかを設置して、クラス旗をてっぺんに立てて守るんだ。攻撃役は魔獣を償還して、相手陣地に攻め入らせて旗を狙う。取られたら負けで、そのクラスは失格だね。最後に5つの旗をすべて集めたクラスが優勝というわけさ」

「あ、人じゃなくて魔獣の対決なんですね」

 人間同士がやるんじゃなくって良かった、と茉理は胸を撫で下ろす。

「体育祭にはたくさんお客様を呼ぶからね。その人たちの前で優勝するのはすごく名誉な事だし、中学最後の競技としては迫力満点で見ごたえもある。茉理姫も楽しみにしておくといいよ。最高に華麗な魔法合戦が見られることだろう」

「そうなんですね。期待してます」

 茉理の顔に笑顔が戻ったのを見て、雅人は帝に先に行くよ、と言って、足を速めて校舎に向かっていった。

「俺達も行くぞ」

 帝も急ぎ足になり、茉理はあわてて後をついて校舎に入った。




 5時間目のホームルームでは10月1日に行われる体育祭の選抜選手と委員決めをすることになった。

 学級委員の小阪正一(こさかしょういち)が前に立ち、種目と委員会を黒板に書く。

 魔法使いの学校だったので、どんな種目が出るのか茉理は不安だったが、思ったより普通だった。

 全員参加の徒競走と綱引き、選抜選手によるクラス対抗リレー。

 1年は女子全員で体育の教師が創作したダンスを踊り、男子は組体操をするそうだ。

 3年から1年までA~E組縦割りで点数を競い、優勝チームを決めるらしい。

(帝先輩と同じチームなんだ)

 茉理はぼーっとそんな事を思った。

 彼は2年A組だ。

(きっと今頃絶対負けない、優勝してやるって思ってるんだろうな)

 彼の負けん気を思い出し、ふふっと口元に笑みが浮かぶ。

 ふと目線を横に流すと、窓辺から見える木々が、赤や黄色の葉を揺らしている。

(綺麗……)

 何となく秋の物悲しさを感じていると、教室の中からわっと声が上がった。

 教室の扉を開けて、上級生が姿を見せたのだ。

「失礼します」

 端の教師用椅子に座っている担任に軽く一礼すると、上級生はちょっといいかな、と教壇の前に立った。

「ホームルーム中失礼します。僕は今年体育祭実行委員長を務めます3年E組藤昇(ふじのぼる)と言います。1年A組の皆さんにご挨拶に来ました。せいいっぱい頑張りますので、どうぞよろしくお願いします」

 真面目そうな顔をした彼は、深々と頭を下げる。

「特に委員を引き受けてくれる皆さんには、本当に感謝します。お互いがんばって良い体育祭にしましょう」

 爽やかな笑顔に、女子の数人が高感度アップのまなざしを投げる。

 こちらこそよろしくお願いします、学級委員が代表で挨拶をし、みんなで激励の拍手を送って、新しい実行委員長を見送った。



 ホームルームも終わり、鞄を持って帰ろうとした茉理をめずらしく奈々が呼び止めた。

「茉理、良かったら帰りにちょっと寄っていかない?」

 奈々の横には別なクラスの友達祥子(しょうこ)の姿がある。

「祥子とアイス食べようと思ってるんだけど、もし帝様からお誘いがないのなら一緒にどう?」

「いいよ」

 茉理は二人の方に寄った。

「本当? やったね」

 奈々ははしゃいで早く行こう、と教室を出た。

 女の子3人でどこか行くなんて本当に久しぶりだ。

 茉理はそう思いながら、二人について歩く。

 校舎から校門の前まで続く木々の葉は秋色に染まり、コンクリートの道を彩っていた。

 落ち葉を踏みながら門まで行くと、すっかり葉の落ちた桜の大木が冬を待つようにたたずんでいる。

(きっとまた来年咲くよね)

 茉理は桜の木の下を通りながら、思いをはせた。

(来年も咲く。綺麗な白い花が)

 そう、初めてこの木を見上げたのは入学式だった。

 そして帝と出会ったのも、この木の下だったのだ。

 茉理はその時の事を思い出して、少し寂しくなる。

 ほんの数ヶ月前の事なのに、まるで何年も昔の出来事のようだ。

 帝は毎朝校門の前で茉理を待っていて、二人は校舎まで一緒に歩いていく。

 放課後は生徒会活動で忙しいらしく最近一人で帰宅しているが、それを少し寂しいと思うようになってしまった自分に気づき、茉理はため息をこぼした。

「茉理、早く早く」

 いつの間にか二人と距離が出来てしまっていたようだ。

 気を取り直して、茉理は小走りに二人の方に駆けていった。

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