22
なんとかクリスティ学園中等部 体育祭は幕を下ろした。
自分のクラスに戻り、担任から体育祭の参加賞として文房具セットをもらい、挨拶を済ませて茉理は校門に向かう。
帝たち生徒会は体育祭の後始末や反省会があると聞いていたので、先に帰るつもりでいたのだが――。
「お姉様」
なんと校門の前で、るいとれいが彼女を待っていた。
二人ともまた可愛いうさぎのような白い衣装である。
「るいちゃん、れいちゃん」
茉理は笑顔で二人に手を振った。
二人ともすぐ彼女の側に駆け寄ってくる。
「今日は本当にお疲れ様でした、お姉様」
「色々ありがとうございました」
るいとれいにお礼を言われ、茉理は恐縮した。
「そんなことないよ。こっちこそありがとね。二人とも凄く助かったよ」
二人のおかげで、今日一日を乗り切れた気がする。
茉理は改めて二人にありがとうと伝えると、るいは彼女の手を握り、満面の笑みで言った。
「お姉様とお知り合いになれて、本当に良かったです。これからはずうっと仲良くしてくださいね」
「これからもよろしくお願いします」
れいも無表情だが何となく親しみを込めて挨拶された気がして、茉理は嬉しくなる。
「こちらこそよろしくね」
三人で楽しく会話をしていると――。
「茉理」
大切な彼の声で名前を呼ばれ、茉理は振り向く。
校門の横に立つ桜の大木。
その下に帝と英司と斎が立っていた。
茉理は三人に会えたことが嬉しくて、笑みを返す。
「帝先輩、生徒会のお仕事はもういいんですか」
「いや、まだ途中だが」
そこで帝は言葉を切り、横にいる二人をまじまじと見た。
英司と斎も、アイドルのように可愛い女の子たちに目を丸くしている。
あわてて茉理は彼女たちを紹介しようとしたのだが、それより早くるいが動いた。
「きゃあ、もしかして帝様? 英司様と斎様までいる」
「るい、落ち着いて」
冷静なれいの声も、るいのハイテンションを鎮めることは出来ない。
彼女はうっとりと瞳を輝かせ、帝たちの前に出るとぴょんっとポーズを決めて挨拶する。
「初めまして。わたくし、北原るいと申します。お会いできて光栄です」
女の子特有の可愛い仕草で、彼女は愛らしい笑顔を見せた。
れいも横に立って挨拶する。
「初めまして。北原れいと申します。先輩方、よろしくお願いします」
笑顔は見せなかったが、左右に垂らした黒髪をさりげなく指にからめ、彼女は彼女でなかなか女らしい。
帝たちは一瞬言葉を失った。
「……北原るい、北原れいだと? お前たちが」
「はい。雅人お兄様から皆様の事はよく聞いております」
るいはにこにこにと肯定した。
「今日は色々お疲れ様でした」
れいは大人びた口調で続ける。
「えーっ、嘘でしょ。この二人が」
『……』
英司と斎も驚きを隠せない。
茉理はちょっとだけむっとした。
(そうよね、もちろんこの二人はとっても可愛いわ。言葉を失うほどに)
三人とも心動かすのは当たり前である。
だがどうも男子三人の反応がおかしい。
首をかしげる茉理に、るいが微笑みながら説明した。
「実はお姉様には謝らないといけない事がありますの」
「何?」
「わたくしたち、雅人お兄様の提案で、本日帝様たちとある勝負をしていたんです」
「勝負?」
「来年の生徒会メンバーの座をかけてです。来年、雅人様と直樹様はご卒業されますよね。そうしたら生徒会役員の椅子が2つ空くことになります」
「もしかして二人とも生徒会に?」
茉理の問いに、るいはそうですっ、と元気に答えた。
「だってわたくしたち、とってもとっても帝様にあこがれているんですもの。ぜひ生徒会の皆様のお仲間に入れていただきたいですわ」
「え……そうだったの?」
英司が鳩が豆鉄砲をくらったような顔をする。
「雅人様にお願いしたら、体育祭で帝様たちに自分たちの実力を示さないといけないと言われまして、魔法勝負をお膳立てされました。お姉様をかけた勝負です」
「わたしを?」
驚く茉理に、れいはうなずく。
「わたしたちが今日一日、帝様たちの目からお姉様を守る。帝様たちはわたしたちの守るお姉様を見つけ出して生徒会室に連れていく。そういう勝負だったんです。見事帝様たちからお姉様を守りきり、実力を認めてもらえたら、生徒会に入れてもらえるって言われたんです」
「だから一生懸命頑張って色々考えたんですよ。帝様たちは凄い魔力と能力をお持ちだし、正直勝てる気がしませんでしたけど」
「でもあこがれの生徒会に入りたかったし、何としても勝とうって思ったんです」
るいがそう言うと、れいの方は深いため息をついた。
「まさか最後の最後で、お姉様が自ら帝様のお側に行ってしまうなんて……勝負はわたしたちの負けですね。生徒会入りはあきらめます」
「えーっ、ちょっと待ってよ」
茉理は残念そうな顔の二人を見て、帝たちの方を向いた。
「ねえ、二人とも今日こんなに頑張ったんだし、認めてあげたら駄目かな」
帝は無言で二人を見る。
るいは彼の視線を受け止めて微笑み、れいは相変わらず無表情だ。
「ほら、帝先輩たちは自力ではわたしの事、見つけられなかったじゃない。だから勝負は引き分けってことでどうかな」
一生懸命お願いする。
(なんかわたしのせいで二人が生徒会に入りたいのに入れないって、寝覚めが悪いよ)
そう思っていた時――。
帝が突然拳を握り、身を震わせて怒りだした。
「……あいつら、もう我慢出来ん。いい加減にしろっ」
そう言うなり、瞬間移動して消えてしまう。
「あ、帝っ、ちょっと待ってくださいよ」
そして英司も彼の後を追って姿を消した。
斎だけが、その場に残る。
茉理はいきなり二人がいなくなったので、呆然とした。
(何なの。一体どういうこと?)
るいとれいの生徒会入りをお願いしていただけなのに、この反応は何なのだろう。
「あ、あの、遠野君」
戸惑いながら斎に声をかけると、彼はにこりと笑んで思念で答えた。
『帝先輩たちのことなら気にしないで。後野さんのせいじゃないし』
「それならいいけど……」
茉理はちらりと横の二人を見る。
さっきまで話していた帝たちが、突然消えたのだ。
二人ともさぞ驚いているだろうと思ったが、意外とそうでもなさそうである。
「あーあ、帝様、行ってしまいましたわ」
「残念、かな」
そう言うと、二人は茉理に向かってお辞儀をした。
「わたくしたちはこれで。今日は楽しかったですわ、お姉様」
「お疲れ様でした」
「また一緒に遊びましょうね」
るいは彼女の右手を両手で包むと、ぶんぶんと振った。
「うん。二人とも今日は本当にありがとう。生徒会の事、もう一度帝先輩にお願いしておくね」
「それはもういいです」
れいが負けは負けなので、とつぶやく。
「そうですわよ、お姉様。来年はお姉様とご一緒出来ますし。中学生になるのが待ち遠しいですわ」
もう一度ぎゅっと手を強く握ってから、るいは茉理から離れた。
斎は無言で二人を見つめる。
(遠野君? なんだかちょっと怖い気がする)
何故か彼の視線は険しかった。
だが双子はその視線を受けても動じずに、斎の前に来て頭を下げる。
「斎様、わたくしたちはこれで失礼します。今日はとても楽しかったですわ」
「……これ、どうぞ」
今日の記念に、とれいがポンっと指を弾いて出したのは、白い前掛けをしたたぬきのぬいぐるみだった。
(なんでたぬきのぬいぐるみ?)
茉理が知らないだけで、斎はぬいぐるみが好きなのだろうか。
二人は斎にたぬきを渡すと、そのまま姿を消す。
瞬間移動したようだ。
(やっと終わった)
茉理はほっと一息つく。
顔を斎に向けると、彼はまたにっこりと微笑んだ。
『後野さん、気をつけて帰ってね。僕も行かないと』
「うん。遠野君もお疲れ様」
もう一度笑みを見せると、斎も瞬間移動で姿を消す。
(あーっ、これで本当に終わったのよね)
なんだかどっと疲れが出た。
(今日は早く家に帰って、温かいお風呂につかろう)
茉理はそんな事を思いながら、鞄を持ち直して家路に向かっていった。




