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何故かカゲキな体育祭(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編5)  作者: 月森琴美


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 クリスティ学園中等部の体育祭は、今最高の盛り上がりを見せていた。

 最終種目、中学三年生による旗取り合戦も残り2組となり、大詰めを迎えている。

 伊集院雅人率いるC組と藤昇率いるE組。

 2組の対決はそれぞれ旗を工夫して隠し合い、どちらの組も見つけられずに過酷な持久戦へともつれあった。

(どうなるんだろう)

 屋上から茉理は対峙する2組を見つめる。

 彼女の想いとしてはC組に勝って欲しかった。

 帝の心を守るためには、絶対に藤昇に勝利を渡してはならない。

(雅人先輩は、わざと負けたりしないよね)

 先程一緒に競技を観覧している双子が言ってた言葉が、まだ耳に残っていた。

 ――伊集院家の総帥、雷導は孫の帝を否定し、藤昇を財閥の跡取りにと望んでいる。

 そのためには昇の実力をこの体育祭で居並ぶ魔族の代表達に見せつける必要があった。

 だから分家代表の雅人と直樹に命じて、わざと負けて昇を勝たせるようにする。

 昇が見事分家の二人を打ち負かせば、彼の実力は分家代表よりも上ということになり、帝と互角かそれ以上かもしれないと魔族たちに認識させることが出来るのだ。

 すでに直樹はその命令を受け入れて敗北した。

 あと残ったのは雅人のみ――。

(雅人先輩は絶対に帝先輩を見捨てたりしないと思う。けど……)

 茉理の心に一抹の不安が忍び寄る。

 確かに藤昇のリーダーとしての才能は、帝より上かもしれない。

 人の上に立つ者として、昇の方が人格的にも優れている。

 総帥となれば、きっと高い統率力を発揮して一族を盛りたてていくことだろう。

 対する帝はまだ不安定な二重人格者。精神的にも未熟だし、どちらかというと人から人望を集められる性格でもなかった。

(おじいさんが藤先輩の方を押す気持ちはわからなくもない。むしろそれが一族のためを思えば正解なのかもしれない)

 でもこんな衝撃的な形で、帝の心を傷つけるようなやり方で彼を引き降ろして欲しくない。

(ちゃんと帝先輩と向き合って話をして欲しい。こんな風にじゃなくて)

 きっと雅人がわざと負ければ、帝は気付く。

 何故彼ら二人が、そんな事をしたのか。

 その時、彼は正気でいられるのか。自分を排斥した祖父を憎むのか、あるいは祖父に選ばれなかった自分自身を嫌悪するのか。

(どっちにもなって欲しくないよ)

 茉理は目を閉じ、今どこにいるかわからない帝に向かって強く願った。

(お願い、帝先輩。どんな結果になるとしても、自分を否定ないで)

 彼の本当の価値は肩書きじゃない。

 そんなものが無くても、彼自身が誰かにとって大切な存在になりえるのだと伝えたかった。

「お姉様」

 るいが茉理をつついて、校庭を指し示す。

「なんか変なのが出てきたんですけど」

「変なの?」

 茉理が校庭を見ると、雅人親衛隊のメンバー達が校庭内に入っていた。

 全員白いチュチュをつけて白いタイツとバレエシューズを履いている。

 そんなのがずらっと三十人ばかり、十人ずつ3列になってC組の観覧席から更に前、五角形の旗取り合戦のC組エリアの外側に整列していた。

「みんなっ、私達の愛と情熱を込めた応援で、雅人様に勝利のパワーを送るわよーっ」

 親衛隊長らしき人が一昔前のカセットデッキのような物を手に、大声で叫ぶ。

 その横には大太鼓が置かれており、大きな鉢は親衛隊長の右手にあった。

「いくわよ、雅人様の勝利を祈願する美しき白鳥の舞っ」

 隊長がカセットデッキを地面に置いて、ボタンを押す。

 すると音楽が校庭中に響いた。

 チャーチャリチャリチャーララーッ、チャラリーラーチャリチャリラーッ。

「これって白鳥の湖?」

「チャイコフスキー作曲の有名なバレエ音楽ですね。それをアレンジしたようです」

 れいが、全く表情を変えずに付け加える。

 かの有名なバレエ曲に合わせて大太鼓が響き、チュチュを着た三十人ばかりの女生徒たちは手足をあげたり伸ばしたり、くるくる回ったりしながら、一生懸命バレエもどきのダンスを始めた。

 もちろん全員素人らしく、バレエというより必死にまねて踊ってます、と言った感じのダンスで、プロのバレリーナから見たら失笑ものの踊りだが、恥も外聞もかなぐり捨てて雅人様を応援するわという意気込みは凄く伝わってくる。

 チャラーラーラーララリーララッ、ララリーララッ、ララリラリラーッ、ララリラリラーッ。

「恥ずかしくないんでしょうか、あれ」

「推しのためなら何でもするのが、ファンという生き物なのよ」

 れいの疑問に、るいが答えた。

「アレのために?」

「そう。アレのためによ」

『アレ』イコール変態ナルシストという単語が入る事を、二人の会話を聞きながら茉理は理解していた。

(まあ、ダンスはともかく頑張って応援してるのは良いことよね)

 と思っていたら、なんとこれだけでは済まなかった。

「何をしているの、穂積」

 いきなり朝礼台からダミ声が響く。

「あんな品性の欠片もない踊りより、ずっと芸術的で素晴らしい応援舞踊を皆様にお見せしなさい」

「はっ」

 執事の穂積がさっと呪を唱えると――。

 来賓席や本部のテントの正面、朝礼台を囲むようにして、またあの燕尾服の女性たちが大勢現れた。

 彼女たちの前にはE組陣地がある。

 丁度E組は本部&来賓席の前が陣地だったため、その間に歌劇団の団員たちがずらりと並んだ。

(あれじゃあ本部と来賓の人たち、全然勝負が見えないと思うんだけど)

 いつの間にか朝礼台に上がっているゆり子は別として、本部にいる理事長たちや来賓の有力魔族たちは視界を燕尾服に占拠され、見えるのは彼女たちの黒い背中だけである。

 こちらもこちらで美しいソプラノの歌が始まり、優雅なダンスが始まった。

 先程の『クリスティ学園賛歌』と同じメロディーで、歌詞だけが変わっている。

「あーっ、我らが誇れるえいゆうよーっ、ふじーっ、ふじーっ、ふじのぼるーっ」

 茉理たちは一瞬、言葉を失った。

「えーと……選挙?」

「確かに藤昇様が議員にでも出馬したら、選挙カーの上から流せそうな歌ですわね」

 るいが思いっきり笑いながら答える。

 しごく美声で歌われる『藤昇賛歌』。

 大太鼓のリズムに乗って流れる『白鳥の湖』。

 チャーチャリチャリチャーララーッ、チャラリーラーチャリチャリラーッ。

「どんなーときにもーあいとゆうきーっ、わすれぬ、そのゆ、う、しーっ」

 チャラーラーラーララリーララッ、ララリーララッ、ララリラリラーッ、ララリラリラーッ。

「たたえよーっ、ほこれよーっ、我らがえいゆうっ、ふじーっ、ふじーっ、ふじのーぼーるーっ」

 どちらの応援団も負けじとヒートアップして、歌い踊る。

混沌(カオス)ですわ」

 屋上からその様子を眺めて、るいが感想をもらす。

(もう何がなんだか)

 合戦場では白い箱が飛び回り、古城の旗が何本も消えては出現した。

 その中で魔獣たちが箱を捕まえようと動き回り、古城では小人の人形が走り回る。

 更にその後ろでは、それぞれに踊り狂うダンサーたちと、大音量で流される非常に個性的な曲たち。

 先程までの悲愴な願いはどこへやら、現実は何だかお笑い系の合戦場と化している。

 雅人の勝利を祈るどころか、この状況、一体どうやって収拾するの、と言いたくなるような場面になり果てていた。

「そろそろE組が限界のようですね」

 混沌の中、それでも冷静に2組の対戦を見ていたれいがつぶやく。

 茉理が見ると、E組の生徒達は顔色が悪い。

 もう魔力が限界に達しているのだろう。

 何人かは倒れていて、回復魔法を受けていた。

「もしナル先輩がわざと負けるおつもりなら、ここで何か手を打ってくるでしょう。E組が全員リタイアしたらC組の勝ちになってしまいます」

(雅人先輩)

 茉理は祈るような気持ちで、彼の動きを凝視する。

(お願い、このまま何もしないで)

 そのまま動かず現状維持で、十分にC組は勝てるのだ。

 ここで動くということは、雅人も帝を見限ることと同義である。

(あなただけは帝先輩を裏切らないで。あの人を一人にしないで)

 しかし茉理の願いもむなしく、雅人は動いた。

「やれやれ、つまらないから増援と行こうか」

 彼はそう言うと、自分の魔獣を償還する。

(あの魔獣は、Yパークの時のだわ)

 何十体いるのかわからないぐらい、おびただしい数の黒い狼の魔獣。

 今回は一体一体が、硬そうな背中の毛並みに黒い炎を宿していた。

 校庭からどよめきが起きる。

「凄い数だ。一体何体いるんだ」

「あんなに一度に償還出来るなんてさすがね」

「雷導様のお気に入りだけのことはありますな。しかし」

 ざわめきの声は当惑していた。

「何故あの魔獣を? 炎の魔獣はまずいのではないですか」

「まったくです。一体何を考えているのでしょう」

 皆、雅人の意図がよくわからず、困惑のまなざしを黒い狼に向ける。

 それは一人でC組攻略にかかっていた藤昇にも伝わった。

 彼は彼で、驚きで動きが止まってしまう。

 小人たちは一瞬で霧散した。

 それほど雅人の行動は、この場の誰もが何故と言いたくなるぐらい異常だったのだ。

「では派手に行こうか」

 雅人はそう言うと、手に持つ薔薇の花をテラスから天高く放り投げる。

 それを合図に、黒い狼たちは一斉にE組陣地目指して疾走した。

「来たぞ」

「箱をぶつけろ」

 E組の生徒たちは、なけなしの魔力を振り絞って箱を動かし、狼たちを翻弄しようとする。

 しかし残念な事に狼数が多かった。

 箱一つにつき3体一組の見事な連携プレーを狼たちは見せ、あっという間にすべての箱をつぶしてしまう。

「くそっ」

 箱の中から旗の生地がちらりと覗いた。

 狼たちはその旗を取る――と思いきや。

(うそでしょう)

 茉理は驚いて声も出なかった。

 彼らの背中から黒い火花が飛び散り、つぶしたすべての箱に引火する。

 ――当然旗が見えている箱も。

「全員隣のクラスエリアに非難しろ」

 昇の言葉で、E組の生徒達は隣のD組の陣地に逃げ込んだ。

 C組で魔獣償還をしていた生徒達も償還獣をすべて引き上げ、次元の狭間に戻した。

 E組のクラスエリアでは炎が盛大に燃え上がり、その場にいたすべてを燃やす。

 ゆり子人形も、役者人形も、白い箱も、そして――。

 勝利の為に掴むべき3つの旗も、黒い炎に包まれ灰と化したのだった。



 旗取り合戦 C組 敗北。

 優勝 E組。

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