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何故かカゲキな体育祭(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編5)  作者: 月森琴美


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19

 猿も木から落ちる。

 弘法も筆のあやまり。

 昔からうっかりミスを意味する言葉は存在するが、D対Eの戦いは自称『水と氷のスペシャリスト』がつい油断して自身の操る水から足を滑らせて落ちるという非常にあっけない結末を迎えた。

 それでも最後まで大きな魔獣を出して戦い抜いたD組の健闘を称えて、校庭から拍手が起こる。

「おーっほほほほーっ、あー、素晴らしい戦いでしたわっ。そうでしょう、皆様」

 高らかに校庭に響き渡る誇らしげな女性の声。

 藤ゆり子は横にいるくまちゃんに抱きつくと、もう嬉しくってたまりませんわっ、ね、くまちゃんと言いながらぎゅうぎゅうくまを抱きつぶす。

 グエッとくまの着ぐるみから嫌な音がしたのだが、それにも気付かず、ゆり子はご機嫌で扇でバサバサと自身を扇ぎながら高笑いが止まらなかった。

 ゆり子の声を聞いた茉理は、はっと気付く。

(ちょっと待って。今ここにれいちゃんがいるってことは)

 ゆり子の側にいないといけない接待役のくまの着ぐるみはどうなったのだろうか。

「れいちゃん、あのくまは」

 茉理が聞くと、ああ、とれいはうなずいた。

「大丈夫です。着ぐるみは香坂先生に押し付けました」

「ええっ、そうなの?」

「元々受け付け対応は、あの先生の役目です。受け持ちの校門であんなことになったのですから、責任取ってもらわないと」

「責任って、別に香坂先生のせいじゃないよ」

「でもお姉様のせいでもありませんよね。午前中わたしたちは、あの人の接待を完璧にこなし、がんばったんです。あとは教師に責任取ってもらうべきだと思います」

「そうそう、元々こういう事は大人のお仕事じゃありませんか」

 るいは元気よくそう言うと、ぽんっと両手を一回打ち合わせた。

 すると目の前にいきなり冷えた炭酸の缶ジュースが現れる。

「さ、お姉様。喉が渇いたでしょう? どうぞ」

「あ、ありがとう」

 茉理は受け取って一口飲む。

 冷えたジュースは喉に冷たく、興奮した体をいい感じに覚ましてくれた。

「次は変態ナルシストの出番か」

 れいは校庭を見ながら、険しい顔でつぶやく。

「あのさ、二人とも」

 茉理はおそるおそる聞いてみた。

「言いにくいことだったら別に答えなくてもいいけど、もしかして雅人先輩と森崎先輩のこと、あんまり好きじゃなかったりするの? 二人とも」

「当然です」

「もちろんですわ」

 二人同時に肯定され、茉理は次の言葉を失う。

「親戚でしたし、一族がらみで、あの二人には大変な目に合わされました」

「ぼ、わたしたちは幼い頃から魔力が高く優秀で、一族の中でも一目置かれていたんです」

「だから散々あの二人に虐められたのですわっ。お姉様、ひどいと思いませんか」

 るいはぐいぐいと茉理に迫り、うるうるした瞳をみせつける。

「そ、そうだったんだ。ひどいことって例えば?」

「わたくしたちに、こんなことも出来ないのかって次々無理難題を押し付けるんです。おかげで毎日最悪でしたわ」

「無理難題……」

「直樹様はいつも栄養満点だとか言って、変なジュースを飲ませるんです。時にはそれのせいで動物とかに変身したり、小人になっちゃったり」

「犬に変身させられて、盲導犬をやらされました。馬に変身して競馬場を疾走したこともあります」

「それから変態ナルちゃんの方は、いつもフリフリの悪趣味なドレスとかリボンとか持ってきて、わたくしたちでお人形遊びをするんですよ。もう最悪でした」

「言うことを聞かないと、お仕置きだって防御檻に閉じ込めたり、電撃を浴びせたり、火の輪を何度もくぐらされたり」

「も、もういいよ。よくわかった」

 茉理は先輩2人の悪行をあれこれ聞いて、るいとれいに同情した。

「帝様だってあのナルちゃんに散々な目に合わされたんですよ、ご存知でしたか」

「えっ、帝先輩もなの?」

「ナル先輩は小さい頃ずっと伊集院本邸で暮らしていたんです。帝様は幼い頃一人だったので、教育係の他に遊び相手としてナル先輩が本邸お引取りになったんですよ」

「そうだったんだ」

「だから一緒に暮らして、散々帝様で遊んでたみたいです」

「遊ぶって……」

「聞いた話だと、毎日帝様に魔術の勝負を持ちかけ、帝様を負かしては罰ゲームだとかで女の子の可愛い服を着せては楽しんでたそうですわ」

「……」

「あのナルちゃんは、可愛いものが好きなんです。帝様は小さい頃わたくしたちみたいに可愛かったので、あの男は帝様を気に入って、いつもフリルたっぷりのお姫様ドレスを着せて、王子様ごっこをしてたんですよ」

「お、王子様ごっこ」

「普通女の子がお姫様ごっことかやりますよね。でもその逆で、あの男は王子様にあこがれて、王子様ごっこをしてたんです。当然お姫様役がいるということで、帝様が魔術で負かされて、その犠牲に」

「もしかして幼稚園も女の子の格好で通ってた、とか」

「お姉様、ご存知だったんですか。その通りですわ」

(ああ、前意識の中で見た幼い帝先輩がスカート履いてたのってそういうわけか)

「さすがに散々な目にあったので、帝様は魔術の修行を猛烈にがんばってナル先輩を負かし、ついにまともな男の子の格好をする権利を手に入れたんです」

「あ……そうなんだ」

 茉理は心の中で帝に激しく同情した。

(スパルタ家庭教師に、おもちゃとして玩ぶ遊び相手。性格が二重人格になったのもうなずけるわ)

 そんな雑談を交わしている間に、校庭は残り二組の対決で盛り上がっていた。

 ドンドンと大太鼓が響き、茉理たちは我に返って校庭に注目する。

「フレーフレー、ま、さ、と」

「がんばれ、がんばれ、ま、さ、と」

 雅人様親衛隊の応援がひときわ激しくなった。

 C組のすぐ後ろの観覧席を陣取り、彼女たちは必死に声を枯らして自分達のプリンスの名を叫ぶ。

 そんな彼女たちに、C組陣地の象徴たる古城のテラスから出てきた雅人は、笑顔で投げキッスを送り、大量の薔薇の花を出すと飛ばした。

「キャーッ、雅人様―っ」

 親衛隊たちは歓喜の声をあげ、我先にと飛んできた薔薇の花を掴もうと手を伸ばす。

(あれ、山下先輩よね。大変だなあ)

 雅人のふりをするのも一苦労だと、茉理は心の中で英司を慰労した。

「またあんな事してるわ、あのナルちゃん」

 恥ずかしくないのかしら、とるいはあきれて声を上げる。

「男ならちょっと出来ないですよね。よっぽど自分に酔いしれてないと」

 れいもぴしゃりと言い放つ。

「女子も女子ですわ。あんなのどこがいいんでしょうね」

「同感」

 茉理はぼそっと同意した。

 その声が聞こえたるいは、わが意を得たりとにっこり笑う。

「良かったですわ。お姉様の好みがああいうのじゃなくって」

「男を見る目はあるようですね。安心しました」

(小学生に気になる男子のタイプを心配されるってどうなんだろう)

 果たして自分は年上に思われているのだろうか。

 茉理は絶対違う気がする、とがっくりした。

 対するE組はさっきのD組との対決で、生徒たちが相当疲労していた。

 魔獣償還出来る魔力がもうそんなに残っていないし、昇にしてもさっき魔力を全力で出したので顔色が悪い。

 C組はお城に篭って体力温存していたため、生徒達はそこまで疲労もせず、意気揚々としていた。

(うわっ、この差は大きいな)

 茉理は互いの陣地を見比べて、E組の方が不利なのを感じずにはいられない。

 C組のテラスから、雅人は薔薇を片手に不敵な笑みを浮かべた。

「E組の諸君、随分疲弊しているようだけど、大丈夫かな。そんな状態で、この美しさと賢さを兼ね備えた愛の王子たる僕に勝てるだろうか。ああっ、何てことだ。弱者をいたぶるなんて、僕の美学に反する行為をこれから行わないといけない。今日の戦いは勝利者になったとしても、決して喜びを得ることは出来ないだろう。むしろ僕は敗者になりたい。この場の誰もがその姿を永遠に記憶するだけの価値ある姿。最後まであきらめずに希望を胸に戦い続けた先、あと一歩届かなくて儚く散り行く薔薇のようにあでやかな姿を持つ敗者に」

 いつもの長口上、ポーズを決める芝居ががった仕草。

(すごい。山下先輩、どれだけ練習したんだろう)

 最早ここまでくると雅人本人としか思えない。

「きゃーっ、雅人様、素敵―っ」

「絶対に勝利してください」

「敗者なんて雅人様には似合いませんわ」

 テラスで薔薇の花片手に憂い顔を見せる彼に、親衛隊は思いっきり応援のテンションを上げた。

「ありがとう、いつも応援してくれる愛すべきレディたち。君たちの為に僕は最善を尽くすよ。どうか最後まで見守っていてくれたまえ。この僕の勇姿を」

「きゃーっ、もう素敵過ぎます、雅人様」

「まぶしくて見てられないわ」

「何て輝かしいお姿なのっ」

(いや、横で傍観してるこっちの方が見てられないんですけど)

 もう勝手にやってくれ。

 そんな心境になりながら、茉理は盛り上がる一団についていけないとため息をついた。

 完全にC組の優勝は決まったようなものだと思っていた茉理の耳に、意外な言葉が聞こえてくる。

「でも作戦次第では、E組が勝つかもしれませんね」

 ぽつりとれいがつぶやいた。

「そうなの?」

「はい。確かにC組は魔力を温存していた分、攻撃力は上です。でも所持している旗は黄色と白の2つ。対するE組は魔力こそ枯渇していますが、赤、青、緑の3つの旗を持っています。1つ奪わないといけない旗が多いということは、有利に働くかもしれません」

「そうですわね。奪う対象物が2つか3つかの差は大きいです」

 るいも同意する。

「そっか。二人とも凄いね」

 茉理は素直に褒める。

「わたしは戦略とかよくわからないし、1つ多いことが有利なのかもわからない。でもそういうことを見ただけで気付くなんて、やっぱり二人は優秀なのね」

「もう、お姉様ったら。そんな可愛い事言わないでくださいな。ますます好きになってしまいますわ」

「えっ、可愛いことなんて言ってないよ。思ったことをそのまま言っただけで」

「褒めていただいて恐縮ですが、ぼ、わたしたちはまだまだです。もっと勉強して強くならないと」

 れいは謙遜してそんな事を言ったが、耳はかなり赤く染まっていた。

 E組では昇を中心に作戦会議でもしているのか、テラスで自分に酔いまくってる雅人を無視して全員陣地に固まってなにやら相談している。

 やがて作戦が決まったらしい。数人が残った魔力を練り始めた。

 雅人は余裕の顔で見守っている。

 どうやらE組に先制攻撃を譲るつもりらしい。

 C組の生徒達も魔獣を償還しているが、まだ攻撃態勢は取っていなかった。

 E組の生徒達は土系の魔法を使う生徒たちが協力して、何やら白い箱をたくさん出現させる。

(何をするつもりなんだろう)

 見ていると、彼らはまったく同じ色、同じ形の箱の中から3つを選んで、一つずつ旗を入れた。

 それを沢山出した白い箱たちの中に混ぜる。

「上手いですね」

 れいが、感心して声をあげた。

「時間稼ぎにはもってこいです。ああされたら、一体どの箱が当たりなのか探さないといけません」

「箱の出現自体はそんなに魔力を使いませんし、なかなか良い作戦ですね」

 更に彼らは浮遊魔法で箱達を宙に浮かせ、ふわふわと動かす。

(そっか。もうどの箱に旗が入ってるのかさっぱりわからないから、一つ一つ探していかないといけないんだ)

 同じ箱たちが前後左右、縦横無尽に動くため、一対どの箱が先程右にあった箱なのか、位置がまったくつかめない。

「へえ、随分面白い事を考え付いたね」

 テラスの上の雅人は不適に笑った。

「この僕に幻惑の作戦で挑戦するとはね。実に愉快だ」

 楽しそうに彼はパチンと指を鳴らす。

「幻惑には幻惑でお返ししようかな」

 次の瞬間。

 お城中あちこちに黄色と白の旗が何十本も出現したのだ。

「わっ、何あれ」

 茉理は城からひるがえる一体何本あるのかわからない旗たちに目をまわす。

「ナル先輩もやりますね」

「あの人はただ単に相手をいたぶって遊ぶのが趣味なだけですわ」

 ため息をつきながら、るいは言った。

(お互いどれが本物なのか、探さないといけないわけか)

 茉理は頭が痛くなりそうな事態だと思い、二つの組がどうするのか状況を見守る。

「では攻撃役の諸君、あっちの旗はまかせたよ」

 雅人の言葉で一斉にC組の陣地から待機していた魔獣が飛び出した。

 一目散にE組の陣地に入ると、浮いている箱に飛びかかる。

 だが箱も飛んで逃げたり、別方向に向きを変えてしまったり、なかなか思うようにつかまらなかった。

 また捕まえて壊しても大抵の箱はからっぽで、全然旗は出てこない。

 更に箱は少ない魔力で再生出来るため、E組の陣地では何度壊しても無限に箱が出現し、実に面倒な事態になっていた。

 だが面倒はC組も同じである。

 昇は小さな小人の人形を沢山出すと、C組の陣地に突入させた。

 目指すはすべての旗。

 小人人形は城の中を駆け回り、見えている旗が本物か幻覚か確認して回る。

 しかしどの旗も偽物で、本物を見つけることは出来なかった。




 どちらの陣営も事態は硬直状態である。

「これはかなりC組が有利ですね」

 れいの状況判断に、茉理はえっと思う。

「でもE組だってがんばってるよ。まだC組の魔獣は旗を見つけられないし」

「そうですが、こうなってしまっては、もはや持久戦。そして持久戦の場合、早く魔力切れした方が負けです」

「あ、そっか」

 茉理もようやくわかった。

 いくら魔力を節約して箱や小人など小さな規模の物を出現させているとはいえ、E組は魔力の余力がそうないのだ。

 対するC組は戦闘をしなかったため、まだ魔力は沢山ある。そのためE組より魔獣を償還したり、幻惑魔法を持続させる時間も長いだろう。

「まだるっこしいですわね」

 るいがイライラしながら言う。

「これはもしかしてもしかするかもですわ」

「ごめん、何を言ってるかよくわからない」

 困惑する茉理に、るいは綺麗な顔を歪めて嫌そうに続ける。

「この戦闘も随分ナルちゃんらしくないって思います。もっとこう……あの人ならさっさと片をつけられるでしょうに」

「確かに」

 れいも無表情ながら険しい声を出す。

「さっきも意味深な宣言してたし、これは嫌な流れです」

「意味深な発言って」

「敗者になりたい」

「あっ」

 茉理はさっき雅人が言っていた長口上を思い出した。

「でもさ、あれは別に深い意味は」

「あの人、意外とそういう何気ないところに含みをもたせたりするの好きですからね。さっきの性悪黒眼鏡同様、頭の中で考えているかもしれません。勝つ算段より、いかに華麗に負けるかを」

「ええっ、どうしてそんな」

「藤昇様を勝者にするために」

「わけがわからないよ」

 茉理は叫ぶ。

「どうして森崎先輩も雅人先輩もわざと藤先輩を勝たせようとしてるわけ? 何の意味もないじゃない」

「意味ならありますわ」

 るいはため息と共に答えた。

「もしここで藤昇様を勝たせた場合、藤家の権力は大幅に魔族界で上昇するでしょう。帝様が伊集院財閥を継ぐ予定が揺らぎます」

「それがわかっているなら何故……」

「あのお二人に帝様を支えたいというお気持ちがあるのは存じています。でもそれを上回るほどの力を持つ者がいたとしたら」

 るいはそれ以上言いたくないとばかりに、言葉を切った。

「総帥、伊集院雷導様」

 ぽつりとれいがこぼす。

「総帥が、もしあの二人に体育祭でわざと負けて藤昇を勝利させよという命令を出したとしたら、あの二人は従わざるを得ません。今の状況でそれが出来るのは総帥である雷導様だけです」

「そんな。それってまさか」

 茉理は息をのむ。そんな命令をもし本当に雷導という人物が出したとしたら、それはつまり――。

「総帥は帝様ではなく、藤昇様を伊集院本家の跡継ぎに。そういうお気持ちだということになります」

「嘘でしょう」

 茉理はずるずるとその場に座り込んでしまった。

(帝先輩が拒否されたということなの)

 こんなことがあっていいのだろうか。

 茉理の胸が痛みで締め付けられる。

 帝は――あの優しいB君は大丈夫なのか。

 こんな風に身内に拒絶されて、あの繊細で温かい彼は自分のせいだと過剰に自身を責めないだろうか。

 好きだと言ってくれたあの笑顔が消えてしまうような気がして、どうしようもない。

 体を抱きしめ、震える茉理をそっと後ろからるいが抱きしめてくれた。

「大丈夫ですよ、お姉様」

「るいちゃん」

「帝様は絶対に一人にはなりませんから」

「そう、かな」

「ええ。ちゃんとここにいるじゃないですか」

 るいはにっこりと笑みを向ける。

「帝様の事、大事に思ってる人が」

 るいの言葉の意味を理解するのに、数秒かかった。

 ――ここにいる帝先輩の事を大事に思ってる人って……。

(わたし?)

 るいは茉理の想いに気付いて言ってくれたのだ。

 帝を一人にしたくないと思ってる事を。

(そっか。そうだよね)

 茉理は立ち上がった。

 伊集院家の家の事とか、魔族の事情とか、そういうのは自分にはどうしようもない。

 でも少なくとも帝本人と向き合って、ちゃんと彼自身を見て、話したり側にいたりする事は自分にも出来るはず。

 ふっと以前雅人から言われた約束の事を思い出した。

 帝を見捨てないで欲しい、そう言われたのだ。

 あの時はよくわからなかったし、正直今でもきちんと意味を理解しているのかと問われたら、首をかしげてしまうのだけれど。

(今は座り込んでなんていないで、最後まできちんと勝負を見よう)

 茉理は前を向いた。

(もし雅人先輩が負けて、帝先輩の立場が無くなってしまったとしても)

 先程意識の先で見た、若かりし雷導の叫びが胸の奥でこだまする。

 ――お前は俺がただの男だったら本気になれんのか。

(大丈夫。わたしは帝先輩が財閥の跡取りでなくっても、魔族の頂点に立つクリスティ一族の長でなくてもかまわない)

 彼の心の奥にある本当の帝自身、その姿を惰弱だと否定して生きるために強がってみせる表の帝。

(両方とも大好きだもの、わたしは)

 旗取り合戦 C対E。

 勝負の行方はどんな未来を開くのか、まだ誰もそれを知らない。

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