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 2クラスがリタイアし、残り3組となった。

(どうしよう、どきどきする)

 茉理は胸の鼓動が収まらず、手を当てながら校庭の勝負を見下ろす。

 ついに大物選手同士がいるクラスの対決の時だ。

 C組の伊集院雅人、D組の森崎直樹、E組の藤昇。

 この中の誰が優勝してもおかしくない。

 三人の魔術師としての格は同等と言ってもよいほどである。

 校庭の熱気と緊張は、先程より増していった。

 来賓席でも魔族の代表達が、固唾を飲んで勝負の行方を見守っている。

 3クラスとも動かずに睨みあっていた。

 三つ巴の攻防だ。

(どうなるんだろう)

 茉理は膠着状態にある勝負を見て、考える。

 どちらかを選んで攻撃しないといけないが、そうするともう一方に攻められる。

 両方に攻撃をしかけても良いが、両方から攻められたら終わりだ。

 攻めるか、守るか。

 まさに究極の選択を、3つのクラスを主導する生徒たちは突きつけられていた。

 屋上から彼らを見下ろす茉理は、何故か3人の表情がよく見えた。

(雅人先輩と直樹先輩は全然あせってない。むしろ余裕すら感じるわ)

 二人ともまったく動じずに、この状況をむしろ楽しんでいるかのようだ。

 対するE組の藤先輩の顔は強張り、汗の量が半端ない。

 どうすべきか苦悩に整った顔立ちが歪んでいた。

 E組の生徒たちは皆、藤先輩の動きに集中し、合わせようとしているのだろう。

 誰も動こうとはしなかった。

 微妙な沈黙の時間が過ぎる。

 ふっと直樹の口元が上がった。

「行くか」

 そうつぶやくと、彼は下にいるクラスメイトたちに何事か指示を出す。

 心得たように償還役が魔獣を次々償還し始めた。

 E組も呼応するかのように、魔獣をそろえ始める。

 驚いたことにC組は動こうとしなかった。

 雅人はクラスメイトに待機を指示し、魔力温存をするつもりらしい。

 先に動いたのはD組だった。

 償還された魔獣たちは、一斉にE組の陣地になだれ込む。

 E組は魔獣を一旦待機させ、陣地に攻めてきたD組の魔獣達を迎え撃つつもりのようだ。

 魔獣たちが白ゆりの園に踏み入った時、突然もだえ苦しみ始める。

(なっ、何?)

 茉理は何が起こったのか理解出来なかった。

 屈強な魔獣達が、次々と泡を吹いて倒れていく。

「毒ですわ」

 いつの間に戻ってきたのか、るいが側にいた。

「毒?」

「あの藤昇様の白ゆりは神経を麻痺させて殺す毒の香りを放っていますの。香りを吸えば、たちまち体の自由が利かなくなり、数分後には死にいたります」

「そんな怖い効果があったんだ」

「別にE組に限ったことではありませんわ。C組はお城に近づいたら即座にあの炎で燃やされるでしょうし、D組はドラゴンによる冷気のブレスがお待ちかねです」

「どこも凄まじいね」

「当然ですわ。これは真剣勝負の戦いですもの」

 るいにきっぱりとそう言われ、茉理は競技じゃなかったのかとぼそっとつぶやく。

「でも何の策もなく直樹様がクラスメイトに魔獣を突撃させるとは思いません。ほら、始まりましたよ」

「え?」

 茉理は目を凝らしてよくE組を見た。

 するとなんと倒された魔獣達の中から、強烈な悪臭が沸いてきたのだ。

「何これ」

「く、くさいっ」

 E組の生徒達は皆鼻をつまんで悪臭に耐える。

「どうやら魔獣の中に、匂いを武器にする魔獣が混ざっていたようですね」

「匂いを武器にって……あっ」

 じっと見ていた茉理は、思わず声を上げた。

 なんと悪臭は美しい白ゆりを蝕み、黒く変貌させて枯らしていく。

「スカンク系の魔獣――匂いで敵を殺せるものを償還して、大型魔獣に隠して突入させていたようですわ。流石悪知恵の働く直樹様です」

「悪知恵って……一応作戦だよね、これ」

「そうともいいますけど、あの黒眼鏡には悪知恵で十分ですわ」

 なんだか個人的な感情でもあるのか、るいは辛らつに言い放った。

 美しかったゆりの花園は、薄黒く変色した枯れ花の野と化す。

 どこからか風が吹いてきて、花の残骸と残った悪臭を吹き飛ばした。

 直樹の氷の竜は長い首をE組の陣地に向ける。

 茉理は上から見下ろして、体中に戦慄が走った。

(嘘っ、まさか直樹先輩は)

「ではE組の諸君、頑張って耐えてくれたまえ」

 そう言うなり、直樹の竜は白い吐息を思いっきり吐いた。

 あっという間にE組の野外舞台と周囲にいた魔獣たちは、氷の彫像となる。

 バリバリに凍りついたそれらは、次の瞬間パリンと音を立ててあえなく割れた。

「うわっ」

「ぐっ」

 魔獣の償還者たちが次々と倒れる。

 あわてて回復役が駆け回って、意識を失った生徒たちに癒しの魔法をかけて回った。

 あまりの攻撃力に、校庭は静まり返る。

 混乱しているE組の生徒達の間を縫って、D組の猿魔獣たちが陣地の奥めがけて突撃してきた。

 舞台は氷の欠片となって砕け散り、その上に立っていた人形たちはみな地面に散らばっている。

「行け、目指すはあの人形だ」

「走れーっ」

 D組の陣地から歓声が上がった。

 皆、猿魔獣を償還した術者を応援している。

「抜かせるなっ」

「防御結界で絡め取れっ」

 なんとか防御役の生徒たちが声をかけあって結界を出現させるが、猿魔獣の数が多く、何匹かを奥へ進ませてしまった。

 ついに赤いドレスの人形に、猿魔獣たちの手がかかる。

「キキーッ」

 猿魔獣たちはうつぶせに倒れている赤い人形を引っつかむと、背中の羽飾りを毟り取り、地面に投げ捨てた。

 そして人形を起こして手に持つ旗を奪おうとした時――。

 ゴンっと派手な衝撃音がして、猿魔獣の一体が真っ赤な血を額から流して倒れる。

 そのまましゅっと次元の狭間へ消えていった。

 どうやらかなりの致命傷を負ったようだ。

(うわっ、凄い……)

 赤いドレスのゆり子人形がまるで生きているかのように動いて、猿魔獣に頭突きをかましたのだ。

 更に周囲に倒れていた様々な人形たちが起き上がり、次々猿魔獣を殴り倒していく。

 校庭からどよめきが上がった。

「おおっ、凄いぞ」

「何だ、この反撃は」

「これが藤家のお家芸、人形操りか」

 先程まで舞台に何もせず立っていたため、ただの置物か飾りのようだった役者人形たちが次々と動き出して敵をのしていく様に、校庭から拍手すら起こる。

「あれは藤家に代々伝わる魔術ですわ」

 驚いて声も出ない茉理のために、るいが解説を始めた。

「藤家は人形――マリオネット使いと言われています。元々は劇場で人形劇をするための魔術だったんですが、世界大戦時代にそれを応用して戦闘力にし、数々の戦場で武勲を立てたとか」

「そうなんだ」

「基本的にどんな人形でも操れるそうですわ。そして更に極めた術者は、物や人すら人形のように操ってしまうと言います」

「それは怖いね」

 ぶるっと茉理は身震いして、激しい戦闘に目を見張る。

 藤昇は険しい顔をして人形達を次々と魔法で生成し、あっという間に兵隊人形の軍団が出来上がった。

「行けっ」

 彼の合図で、兵隊人形たちは一斉にD組の陣地に攻撃をしかける。

「来るぞ」

「防御しろ」

 D組の償還役は魔獣を呼び出して応戦するが、人形の攻撃力は思ったより凄まじく、動きも小回りが利くため劣勢になって、どんどん致命傷を負い、次元の狭間へ消滅していった。

 今度はD組の償還者たちが次々と倒れていき、回復役が必死に駆け回る。

 氷竜の吐息を人形軍団に浴びせたが、驚いた事にどの人形も凍らなかった。

「アルミニウムで出来た人形のようですね」

 るいがまったく変化のない兵隊たちを見て、驚きの声を上げる。

「藤昇様、侮れませんわ。しっかり直樹様への対策を立ててきましたわね。流石です」

「対策?」

「直樹様は水魔法――水や氷などを操る魔術師です。当然償還される魔獣や魔法もその系列のものになりますから、影響力の低い素材を用いる事で凍結破壊を避けることが可能です。アルミニウムやステンレスといった金属は低温や冷凍などに強いですから、それで創りあげた人形ならば氷の吐息を受けても早々に壊れることはありません」

「なるほど」

 茉理は納得した。

「一身一対ですわね。この勝負、どうなるか結果が予想できませんわ」

 興奮気味にるいが言う。

(どうなっちゃうんだろう)

 茉理は胸に下げた白石を握り締め、激しい闘志をぶつけ合う二人の魔術師を見つめた。

 旗取り合戦 D対E。

 まだまだ勝負はこれからである。

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