15
旗取り合戦はA組が敗北のため、残る4クラスの壮絶な死闘となった。
A組の赤い旗は、C組の黒い犬のような魔獣が口にくわえて自軍に運ぼうとしている。
しかし途中でいきなり邪魔が入った。
犬に向かって猿のような魔獣が数対飛びかかっていく。
(どこのクラスの魔獣なの?)
茉理は屋上から固唾を呑んで見守った。
猿に襲われ、犬の魔獣はうっかり口にくわえていた旗を落として敵に噛み付こうとする。
そこをもう一匹の猿に赤い旗を奪われた。
(うわーっ、すごく上手だ)
これはいわゆる作戦勝ちだろう。
「くそっ、取られた」
犬の魔獣の償還者が悔しそうに顔を歪めている。
猿たちは互いに旗を守りあいながら緑の陣地に入っていく。
大きな氷の竜のてっぺんに登った猿達は、意気揚々と旗を直樹に渡した。
彼の黒眼鏡が得意そうにきらりと光る。
「ご苦労」
猿たちは労いの言葉をもらい、キャッキャッと跳ねながら下に下りていく。
旗を見事一つ奪ったので、ここでも校庭から大きな拍手が出た。
猿の償還者も竜の下で得意そうにガッツポーズをしている。
と思ったら、いきなり猿達に縄がかけられた。
「キキッキキッ」
もがいて縄を振りほどこうとするが、太い縄はぎゅうぎゅうと猿たちを締め付け、最後にはぐっと縮まった。
「ギャーッ」
断末魔の悲鳴を上げて、猿の魔獣たちは体を縄に真っ二つにされて霧散する。
(あっ、やられちゃった)
茉理はちょっと見るのは苦しかったが、猿達の最後を目にした。
償還魔獣はやられるとその場から次元の狭間へ消えうせる。
そして体力が回復するまで再償還出来ないと、以前魔法の知識を斎に教えてもらったとき説明された。
完全に死んで二度と償還出来ないほどのダメージを追う場合もあるという。
(大丈夫だよね)
茉理は胸に下がった白い石を握り締めながら、猿達が死んでない事を願った。
生きているかに思える縄の魔獣は、次々と他の魔獣たちを締め付け、千切っては消滅させていく。
(すごい締め付け力だ)
一見見た目はただの縄なのに、縦横無尽に絡み付いて絶対に離さない。
D組で防衛を担っている魔獣たちは、次々と倒されていった。
最後に縄は氷の竜に巻きつく。
締め付けて砕こうとしたその時。
「ふむ」
直樹は余裕の顔で指をパチンと弾いた。
竜は突然首を下に動かし、口から白い冷気を吐く。
自身に巻きついていた縄に向かって放たれた冷気は、すべての物を凍りつかせる絶対零度の攻撃。
縄は瞬時にバリバリに凍りつき、パリンと音を立てて砕け散った。
「うわあっ」
と同時に、B組の方から叫び声が上がる。
縄の償還者が己の魔力を出しつくして限界を迎え、倒れたのだ。
償還した魔獣がもう再償還出来ないほどのダメージで倒された場合、間接的に償還者に衝撃が伝わる。
どうやら先程の凍結攻撃で、あの縄魔獣は完全消滅したらしい。
B組は倒れた生徒の回復を始めた。
治癒魔法の使える生徒が、償還者たる生徒に癒しを与える。
一瞬で魔獣を瞬殺した直樹の凄さに、校庭は騒然となった。
「すごい威力」
「流石クリスティ第三の分家代表だ」
「やはり違いますな、直樹様は」
賞賛と畏怖。
双方入り混じった評価の声が、あちこちでささやかれる。
生徒が倒れたからといっても戦闘は終わらない。
B組の陣地に、E組の魔獣が襲いかかった。
とてつもなく大きな牛の魔獣が償還され、B組が作った迷路のような陣地の路地を突進していく。
「来たぞ」
社の周りにいる防衛役の生徒たちは呪を唱え、路地のあちこちに大きな落とし穴を作った。
「ズモモモーッ」
大きな巨体の牛の片足が、突然出来た穴に落ちる。
「かかったぞ」
牛に向かって今度は網のような防御結界が投げられ、更に網の目から電撃が走る。
牛は黒こげになって霧散した。
しかし牛が倒れる瞬間、何かが牛の背中から飛び出す。
小さなねずみの魔獣だ。
それは目にも留まらぬ速さで迷路の壁を走りぬけ、社の中に入り込む。
「くそっ、入られた」
「旗を取られるな」
防御役たちは一斉に社の中に駆け込む。
「ジューッ」
なんと旗の周りに設置された淡く光を放つ魔方陣に、ねずみはかかってもだえていた。
魔方陣は眩い光を放つと、ねずみをゆっくりと魔方陣の中に吸い込んでいく。
「チュチューッ」
鋭い叫び声と共に、ねずみの魔獣は魔方陣中央に吸い込まれて消えた。
「やった」
「流石六花の結界は違うな」
皆口々に旗を守りきった女生徒を褒め称える。
社の中で、長い黒髪を背中まで伸ばした少女が静かに微笑んでいた。
その雰囲気はまるで神に仕える巫女のようだ。
正直黄色いTシャツがあまり似合わない。巫女装束の方がぴったり来るような美少女である。
一方E組の方では牛の償還者が衝撃で気絶し、回復魔法を受けていた。
(直接攻撃はないといっても、とても危険な合戦ね)
茉理は倒れていく生徒達を見ながら、そう感じる。
魔法で競い合うのだから、やはりそうなってしまうのだろう。
B組は社の中で旗を守りきったと喜んでいたが、そういう時ほど隙が生じるものである。
実は彼らが外で牛に気を取られていた間に、社の中に一羽の鳥が入り込んでいたのだ。
ツバメに似たその鳥は社の天井に潜み、そっと機会をうかがう。
防衛役の生徒たちが社の外を守りに出ていき、六花すみれ一人になった時、鳥はさっと空中から飛来して旗の黄色い布をくちばしに咥えて飛び上がった。
「あっ」
気付いて旗を掴もうとすみれは手を伸ばしたが一瞬遅く、ツバメ魔獣は旗を咥えて社から飛び出し、天高く舞い上がる。
「おい」
「嘘だろ」
「は、旗が……」
戦闘することもなく、悠々とツバメは空中を飛んでC組の陣地に入る。
お城の最上階テラスに立っている金髪の貴公子に旗を渡すと、ツバメはテラスの手すりに止まって主からお褒めの言葉をもらった。
「よくやった。ありがとう、シュエ」
ピチュピチュと鳥は嬉しそうに答える。
雅人(中身は英司)はそっと指でツバメの背中を撫でると、パチンと指を鳴らしてツバメをまた次元の狭間へ戻す。
そして手に持った黄色い旗を高く掲げた。
「B組の旗が」
「C組が取ったぞ」
B組の敗北が決定し、校庭から拍手が送られる。
六花すみれは涙を滲ませながらクラスメイトの女子たちと抱き合って互いを慰労し、社と迷路を消した。
旗取り合戦 B組、敗北。
――残り 3組。




