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何故かカゲキな体育祭(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編5)  作者: 月森琴美


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 ゆり子が来賓席から退場したあと、茉理はほっと肩から力を抜いた。

(しかたないのはわかってるけど、お偉いさんの接待って気疲れするなあ)

 とても中一女子の思考とは思えない心の声をあげながら、茉理は着ぐるみのまま肩をゆっくりまわす。

 横から見たらくまが肩の体操をしてるように見えるだろうが、中身の茉理は一応気を張っていたため、肩や筋がみしみしと痛む。

(うーっ、今のうちにどこかへ行っちゃおうかな)

 クラス席にでも行こうかなと思った矢先、るいの声が飛んできた。

「もうお姉様、何してるんですか。次行きますよ」

「次?」

「綱引きです」

「あ……そうだった」

 つい気を抜きすぎて忘れていたが、クラス対抗綱引きがあったのだ。

 るいは問答無用でまた茉理を準備室に飛ばし、着ぐるみを剥がす。

 クラスTシャツ姿になった彼女は、すぐに大綱のある校庭中央に瞬間移動した。

 校庭に用意された綱は2本。

 全学年クラス対抗のため、時間短縮も兼ねて二本の綱で二つの勝負を同時に行う。

 しかしそれでは一クラス余ってしまうということで、職員+OBチームというのが参加することになっていた。

 最初は一年A対BとC対D組。

 用意の合図で、全員一斉に綱を持つ。

 ピストルの合図で同時に引っ張り合った。

(うっ……きつい)

 茉理は綱の中間で一生懸命クラスメイトと引っ張る。

 綱の真ん中に赤印があって、それが各クラスの先頭に描かれた境界線を越えたら勝ちである。

 腕が軋むように痛かったが、がんばって綱を引いた結果、見事にA組は優勝した。

 横の綱ではD組が勝ち時をあげている。

(ふうっ、なんとか勝てた)

 悔しそうな目の前のB組には悪いが、茉理たちA組は思いっきり喜んだ。

 すぐに勝負は交代で、綱から横に退くと、次のクラスが入ってくる。

 1年E組は二年A組と、二年B対Cという組み合わせであった。

(最初から二年生となんて、E組は大変だな)

 指定されたように校庭に座って、茉理は帝が一番前方で綱を持って構えている姿を見る。

(E組の先頭は、あっ、遠野君)

 何故か生徒会の二人、会長と臨時書記が目の前で対峙するはめになっていた。

(うーん、帝先輩は多分後方より先頭っぽいから、クラスの皆が先頭に並ぶのを嫌がった結果だろうな)

 まがりなりにも帝と睨み合いながら綱を引くのは、流石に遠慮したいというのがクラスメイト達の本音だろう。

 それで斎に先頭というポジションが回ってきたに違いない。

(どっちもがんばれ)

 茉理は心の中でそう応援した。

 合図で同時に綱を引く。

 E組は必死にがんばっていたが、やはり上級生の方に軍配が上がり、二年A組が勝った。

(帝先輩が勝った)

 皆が拍手で沸く中、茉理も二人の健闘を称えて手を叩く。

 横の綱ではB組が勝ち残り、英司の嬉しそうな顔が見えた。

 帝はちらりと茉理を見る。

 だが何も言わず、そのまま指定された場所に行って並んだ。

(あれ? 何か言いたそうだったな、今)

 茉理は一瞬そう思う。

 だがすぐに次の勝負が始まり、そっちに意識が向かった。

 三年生の綱引きが始まったのだ。

 皆が必死に応援する中、雅人は上がる女子の歓声に手を振って答える。

 それだけでなく投げキッスまで。

(うわ……あれ、山下先輩だよね)

 思わず二年B組の列を見ると、やっぱり英司の姿は消えていた。

(きっと雅人先輩に投げキッスの特訓とかさせられたんだろうなあ)

 頑張れ、心の中で英司を応援してしまう茉理であった。

 三年生はA対B、C対D組である。

 E組は何と職員チームと対戦となった。

 結果はA組とD組、E組が勝ち残り、二回戦に進む。

 負けても爽やかな顔で雅人は校庭外のクラス席に戻っていく。

(と見せかけて、瞬間移動して本来の二年B組に戻るんだろうな。お疲れ様です、山下先輩)

 茉理はそんな事を思いながら、順番が来たので立ち上がって綱の所に行った。

 残念ながら次は負けてしまったため、彼女たちA組も校庭外のクラス席に向かう。

(少しは席に座っていられるかな)

 そう思っていたのだが――。

「お姉様」

 れいが近づいてきて、茉理の手を取った。

 そして問答無用で瞬間移動させられる。

 準備室に戻ると、るいが待っていて、すぐ着ぐるみに着替えて欲しいと懇願された。

「大変なんです、お姉様。ゆり子様が」

 るいの話によると、何と着替えに行ったゆり子が理事長室の隣の来客用応接室で大騒ぎしているらしい。

「ゆり子様が着替える予定だった衣装がどこかに行ってしまったそうで、盗まれたのだと怒りまくって、皆様対応が大変みたいです。大好きなくまちゃんが行けば、ゆり子様のご機嫌も少しは和らぐかもしれません。どうかよろしくお願いします」

(うわーっ、何それ。面倒くさい)

 と思ったが、瞳をうるうるさせて着ぐるみを差し出するいの姿に嫌とは言えず、着替えて応接室に移動する。

 確かにるいの言う通り、応接室は大変な事になっていた。

「わたくしの衣装はどうなったというの、穂積。ちゃんとここに運んできたのよね」

「もちろんでございます、奥様」

 執事は頭を下げる。

「確かに応接室に運びましたし、私も確認しました。しかし」

「この部屋にないとはどういうことです。一体誰が持っていったというの」

「それは……ただいま調べております」

「この学校のセキュリティはどうなっているのかしら。泥棒が入るなんて。あの衣装は特注品で、軽量化の魔法までほどこしてある最高級の絹地で出来ている一品なのよ。売れば一体どのくらいの価値になるのか」

「恐れながら奥様、あれは多分売れないかと思います」

「どうしてよ」

「デザイン、色合い、サイズ共に奥様用に仕立て上げられたお品でございまして、多分買い手は付かないかと。あれを着たいと思う者は奥様以外にいらっしゃらないでしょう」

「はあっ、あんな素敵な衣装、誰だって着たいに決まってるわ」

「しかし蛍光ピンクとブルーとイエローにオレンジに紫。あのような人目を引く色合いの十二単を引きずって歩きたい人間はまずおりません。しかも一番上に羽織る唐衣は、蛍光ピンク地の背中に真っ赤な牡丹と金色の昇竜。まるでその……一昔前の族の皮ジャン模様と言いましょうか何と言いましょうか、とにかく十二単としてはかなり奇抜、いや斬新なデザインのため、あれを着る勇気のある御仁はそういないかと」

「何を言ってるの。あれは世界一素晴らしいわたくし自慢の着物よ。きっと億を越す値が付くに決まってるわ。あれ一着で都会に庭付き一戸建てが買えるほどの品よ」

「はあ、さようでございますか」

(なんか大変だなあ、執事さんも)

 茉理は思わず耳にしてしまった二人のやり取りに、心の中であーあとため息が出た。

(どうでもいいけど、服のセンスがない人だって事はわかったわ、ゆり子様)

 あんなはではでしいドレスじゃなくて、もう少しシンプルで大人しい歳相応の装いをすればいいのに。

 そう思いながら、茉理は近づいた。

「ああっ、くまちゃん」

 ゆり子はさっそく茉理にもたれかかる。

「聞いて頂戴。わたくしの次に着る衣装が盗まれてしまったのよ。きっとわたくしの美貌と恵まれた才能に嫉妬した誰かの嫌がらせに違いないわ。ああ、何て悲劇的な事でしょうううううっ」

 そのままくま(茉理)のお腹に顔を埋め、泣きの涙にくれる老女。

 頭だけはお色直ししたようで、今度は足首まで長そうな黒い長髪である。

(鬘は盗まれなかったんだ。でも全然似合わないな)

 衣装が無くなったため、さきほどまでと同じ金色のドレスをゆり子は着ていた。

 そのドレスにこの長く艶のある黒髪は、まったくもって似合わない。

 くまのモフモフした腕で背中を撫でてあやしながら、茉理はうーんと思った。

(なんかおばあちゃんだけど……子どもみたい)

 くまに抱きついてぐずっている様子は、どう見ても幼子のようである。

(あ、そうだ)

 茉理は横に控えていたるいに言った。

「あのさ、教室にあるわたしの鞄から取って来て欲しい物があるんだけど」

「お姉様の教室ですか」

 るいが首をかしげる。

 茉理は教室と席の場所、鞄の特徴を教えて中の物を持ってきてもらうことにした。

 瞬間移動したるいは、しばらくして怪訝そうな顔で彼女に頼まれた物を差し出す。

「お姉様、これですか」

 彼女は何故これを、という顔をしたので、茉理はちょっとね、と言って受け取った。

 それは近所のスーパーのビニール袋。

 中身はお菓子である。

(本当はるいちゃんとれいちゃん用に買ったんだけどな)

 学校にお菓子を持ってきてはいけないのだが、先生に小学生二人の面倒を見て欲しいと頼まれたため、思いついて昨日スーパーで買ったものだ。

 大体小学生って何年生かもわからなかったし、こんなに大人びた子たちだと知らなかったため、小学生=子どもという認識でいた茉理は、もしぐずったり機嫌が悪くなった時のためにお菓子を持っていくことにしたのだ。

(何かあったら、お菓子で機嫌が直るかもしれないし)

 ということで用意した物だが、二人にはまったく必要なさそうだ。

 だが果たして、子どものような仕草でくまにくっついているお婆ちゃんに効くだろうか。

 彼女はごそごそ袋の中身を漁る。

 特売品のかりんとう1+1、ポテチに三角コーンスナック、ミニチョコとガム、それから……。

(うーん、とりあえずこれにするか)

 茉理はミルクキャラメルの小箱を選んだ。

 そしてゆり子に差し出す。

「あの、良かったらこれ食べませんか。甘いの食べたら元気が出るかもしれませんよ」

 そのあとはっと気づく。これはもしかしてお菓子の選択間違えたか。

(おばあちゃんだもんね。歯は大丈夫かな)

 総入れ歯だったりしたらどうしようと、一瞬あせる。

 茉理の内心のあせりをよそに、ゆり子は茉理の出したキャラメルに目を輝かせた。

「あらあら、まあまあ、これをわたくしに。なんて優しいくまちゃんなんでしょう」

 ありがとう、と満面の笑顔(少々怖かった)で抱きつかれ、茉理はうっと一瞬ひるんだが我慢した。

(一か八かだったけど、何か気に入ってもらえたみたい)

「あのキャラメル食べにくかったら、ポテチとか他のもありますけど」

 ビニール袋を見せると、ゆり子は更にご機嫌になった。

「あらあ、これ全部お菓子なの? 見たことないのばっかりね」

「あー、まあ普通のスーパーに売ってる物です」

 茉理は金持ちってこれだからなあと思いながら、袋をゆり子に渡す。

「全部下さるの? まあ嬉しい。素敵なプレゼントありがとう」

(いや、そんなに喜ばれても。わたしのおこずかいで買えるぐらいの安いお菓子だし)

 普段もっと高級品を食べてるだろうに、このぐらいで喜ばれて逆に居たたまれない。

(値段知ったら怒りそうだなあ。こんな安物食べられるわけないでしょうって)

 逆に庶民階級の物をあまり知らなさそうで、良かったのかもしれない。

「穂積、お茶にしてちょうだい。このお菓子をセッティングして」

 執事はビニール袋を受け取って中身を確認し、顔をしかめた。

(やばい。この人は安物だって知ってそう)

 茉理は何を言われるかひやひやする。

 かりんとうなんて特売のシール貼ってたりするし、ミニチョコやガムはあきらかに子ども向けの包装紙に包まれていた。

 しかし彼の懸念は、そちらではなかったらしい。

「奥様、あと少しで昼食のお時間でございます。お茶は午後の方がよろしいかと。今召し上がりますと、豪華幕の内特製重箱三段セット『松』をご堪能いただくのに支障が出ます」

「……しかたないわね」

 しぶしぶゆり子はお茶とお菓子をあきらめた。

 しかし茉理は昼食のお弁当の方が気になってしまう。

(来賓のお弁当って重箱三段なんだ。凄い。おせち料理みたいじゃない)

 生徒のお弁当も豪華だと聞いてはいるが、流石に重箱三段ではないだろう。

「失礼します」

 ノックの音と同時に、香坂先生が汗だくになって一抱えもの箱と共に応接室に入ってきた。

「ゆり子理事、衣装が見つかりました」

「なんですって」

「どうも運ぶ部屋を間違えていたようで、隣の理事長室の奥にありました。理事長は今朝からずっと校庭ですし、理事長室は鍵をかけてあったので、まさかそことは思わず探すのが遅くなりました。申し訳ありません」

「まったく何という不手際でしょう。まあ、いいわ。今回は見逃してあげます。寛大なわたくしに感謝なさい」

「は、ありがとうございます」

 深々と頭を下げて、香坂先生は箱を置いて応接室を出て行く。

 ゆり子は先程までの悲劇的な態度とは打ってかわった様子で、くま(茉理)から離れた。

「わたくしは着替えます。穂積、着付け係を呼びなさい」

「はい」

「くまちゃん、先に行ってお席で待っていてちょうだい。美しく可憐なわたくしを見せてあげるから」

 茉理はほっとして立ち上がる。

(良かった。機嫌は直ったみたい)

 何よりゆり子から離れられるのが嬉しかった。

「お姉様、お早く」

 るいに急かされて、廊下に出る。

「あーっ、やっと終わったあ」

 茉理は腕をぐうっと伸ばした。

「まだ終わってませんわ、お姉様」

 るいは容赦なく茉理を現実に引き戻す。

「次は一年生女子のダンスです」

 もう皆さん、入場門にいますよ、と言われて、茉理は内心うめきながら、るいに手を引かれて準備室に移動するのだった。

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