空高く飛んでみた
アリサとルリとシオンはクレアエ聖教国のある大陸のドラゴンの巣へと来ていた。
戦争を止めるのが先ではないかというアリサの疑問に、ルリとシオンは首を横に振る。
「好きで殺し合っているんだ急いで止める必要もないだろう?」
一般の平民が住む街がまだ被害に遭っていない事が一番の理由らしい。
実際アリサが聖都に滞在中も戦争が始まったと騒がれてはいたが、目に見える実害は何もなくどこか遠くの世界の話のようだった。
「これからあの聖都を壊滅させるのです。被災した者たちの救済を先に考えなくてはいけません」
「壊滅させるの! あの聖都を?」
「宗教活動自体を潰すと決めたのですから少なくともあの神殿は壊します」
アリサはあの厳格な雰囲気のある大きな神殿と、それに合わせた街並みがすべて瓦礫となるのを想像し身震いをした。
「神殿だけではないぞ。すべての教会も壊すつもりだ」
「そこまでしなくても・・・。それに建物は再利用する事も考えられますし」
「だからそれが甘いと言っているんだ!」
シオンはルリの話の途中で強い語調を被せルリを黙らせる。
「そんな中途半端な事で本当にあの宗教を潰せると? 復活できる理由を残し信者に希望を与えるな。やるなら徹底的にだ」
「そうでしたね。心に決めたつもりでいたのですが・・・」
「眷属やオッカムに被災者に対する救済の準備は頼んだ。奴らがこの大陸に到着するのに合わせ実行するんだ。その前に我らで先にできる事を終わらせるぞ」
「分かりました」
(それが復興資金調達って事ですね)
どのみち自分では口も手も出せないのだとアリサは素直に納得し、シオンに大人しく従っていた。
アリサの今のジョブは竜騎士だ。ドラゴン討伐には有利だろうと考えていたが、それは思った以上だった。
ズサッ!!
空を飛ぶドラゴンだろうが地上を素早く走り回るドラゴンだろうが山のように大きなドラゴンだろうが、上空高く飛び上がり急降下する勢いを乗せた急所突き攻撃が気持ちいいほどに炸裂した。
「やるじゃないかアリサ」
「ええ、本当に」
「ホント自分でもびっくりだよ」
以前ルリとシオンが羽目を外してドラゴン討伐していた時は手も足も出せず、ただひたすらドロップ品を拾い集めていただけだった。
あの時を思い出すとアリサ自身も感慨深いものがあった。
「ではサクサクと終わらせてしまうぞ」
今はドロップ品は自動回収されるのでその分戦闘に集中できる。
アリサはシオンに頷き返すと上空高く飛び上がる。今回はルリとシオンに混ざり戦闘に加われるのが嬉しくて仕方なかった。
そしてそれがルリの助けになるのだと思えば尚更だった。
ヒュゥーーーーー・・・。ズサッ!!
ヒュゥーーーーー・・・。ズサ! ズサッ!!
アリサは的確にドラゴンの急所を狙った竜騎士のジャンプ攻撃を繰り返す。
アリサはあの時ルリとシオンが羽目を外しているように見えた気持ちが理解できるようだった。
世界最強とされるドラゴンを一撃で討伐できる自分の実力をはかれ少し興奮気味だった。
そしてすっかり数少なくなったドラゴンの姿に気づきアリサは顔を青くする。
「ヤバい。このままじゃ絶滅しちゃうじゃん」
「そう簡単に絶滅しないから大丈夫よ」
アリサはどこかで聞いた台詞を聞きホッと胸を撫で下ろすのだった。