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俺の妹が、最近おむつを履き始めたんだが。  作者: 冬野原もがめ
俺と妹のくだらない日々。
19/29

海水浴 上

 俺の妹、叶宮蓮子かのみやれんこはネトゲ廃人残念系女子高生だ。

 そしてその友人、奈良須可凜ならすのかりんは演劇への情熱を変な方向にこじらせている。

 これはそんな二人と俺にまつわる、限りなくくだらなくて爽やかなエピソードのひとつである。



 ◇



 夏ということで、海に来た。

 家から電車で40分ほどの、まあ平凡などこにでもある海水浴場。

 俺と、夏休みにできたつぶらな瞳の彼女と二人きりである。




 当然嘘だ。そんなことがあるはずもない。

 現実は非情なり。

 見栄を張ってみたがそんなことがあるはずもなく、メンツは俺と蓮子に加え奈良須、そして鈴里すずさとがくっついてきている。

 夏休みっぽいことをしたいとうるさい蓮子を鎮める(沈める、ではない)ために来たのだが、蓮子が来るならということで鈴里が加わり、俺が行くならということで奈良須が加入した次第である。



「いやー、まさか蓮子ちゃんと海に来れるなんてなぁ」

「そんな喜ぶところか?」

「お前はいつでも見れるんだろうけどよ、蓮子ちゃんの肌色が見れるんだぜ。楽しみだろうが!」

「そ、そうだな」


 まさか下半身丸出しで排尿するところを目撃しているなどとは言えず、俺は目を逸らした。

 鈴里は見た目も悪くないし、筋肉質のいい身体をしてるしでもっと別に相応しい女の子がいると思うのだが……。恋愛は本人の自由だしな、迂闊うかつなことはいうまい。


 女子二人の着替えを待っている間、手持ち無沙汰な俺は周りへと目を向ける。

 夏も真っ盛りということで、ずいぶん人が多かった。

 あまり人が多いところは好きじゃないんだけどな。

 つーかクソ暑ぃ。

 そもそも海に来て何すんだ?

 確かに友人四人で海って、夏っぽいといえばそうなのだろうけれど。

 青春っぽい雰囲気も感じるが、メンバーが微妙すぎる。


 そういえば、奈良須は当然のようにしてまたナスのコスプレをしていた。

 電車の中での視線があまりにも痛かったので、少し距離をとったのは俺が悪いわけではないだろう。

 今度は海なのでシャチのコスプレでもしてくるのだろうかと、悪い意味での期待が膨らむ。

 蓮子は……どうでもいいや。



「おっまたせー!」


 どうでもいいやつのやたらと元気な声がビーチに響く。

 鈴里よりもワンテンポ遅れて目線を向けると、そこには爽やかな青色の三角ビキニに身を包んだ蓮子がいた。長い髪を、後ろで一本に縛っている。もしアニメか何かだったら、周りに謎の煌く粒子が浮いているに違いない。

 だがしかし、愚かなり我が妹よ。

 ワイヤービキニじゃない三角ビキニは、胸元がより強調されるデザインなのだ。

 そんなものをお前が着るならば、見ただけで虚しくなるのは必然。


「はっはっはっ。蓮子、胸元がスカスカ……じゃ、ないだと!?」

「んー? なんのことかな、お兄ちゃん?」

「蓮子ちゃん、その水着似合ってんねー! めっちゃ可愛いじゃん」

「ふふっ、ありがとうございます。鈴里さん」


 蓮子は優雅な微笑みを鈴里へと向ける。

 その姿はまるで、清楚系美少女そのものだった。

 しかもスタイルまで文句なしとくれば、これはもう鈴里が惚れてしまってもそれを責めることはできないだろう。

 成長したな、蓮子。どうやら俺は妹を見くびっていたらしい。お前ってめちゃくちゃ着痩せするタイプだったんだな。



「って、んなわけあるか」


 俺は蓮子の胸元に詰めてあったパッドを叩き落とした。


「あうっ。お兄ちゃんのエッチ」

「悪いな、俺は正義感溢れる男なんだ。不正を見逃すことはできない」

「シリコン100%だから、もうそれは実質肉みたいなもんじゃないかとうちは思うわけですが」

「往生際が悪いぞ、蓮子。動かぬ証拠があるんだ、おとなしくしろ!」

「はいはい分かりましたよどうせうちはちんちくりんの貧乳女ですよ」

「いや、何もそこまでは……」


 自分でやっておいて可哀想になってきた。

 ついノリで引っぺがしてしまったが、詰め物がなくなったその姿はなんとも物悲しい。

 戦慄するぐらい中学の時から育ってなかった。


「た、多分第二次性徴期が遅れてるんじゃないか? これから育つって、大丈夫大丈夫」

「今更安い同情いらねぇぇええええ!」

「そうそう、気にすんなって蓮子ちゃん」

「ほ、本当ですか、鈴里さん?」

「あぁ、俺は全然気にしないぜ。蓮子ちゃんは蓮子ちゃんだからな。それに身体のことを気にするなんて、女の子らしいじゃん。そういうところも、可愛いと思うし」

「……鈴里さんっ!」

「蓮子ちゃん!」


 二人は熱い視線を絡ませあっていた。今にも抱き合わんばかりである。

 宗教ってこえーな。

 俺が心の中で鼻くそをほじりながらそんなことを思っていると、突然に背中をちょんちょんとつつかれる。


 振り向くと、そこには上目遣いでこちらを見つめる奈良須がいた。

 シャチとかサメのコスプレはしていない。

 ダイビングスーツにシュノーケルとか、そういうボケがあるわけでもない。



「ど、どうですか? 先輩」

「お、おぉう……」


 見つめ続ける奈良須。

 返答に窮する俺。

 困った、マジでなんにも言葉が出てこねぇ。

 女子の水着に対して気楽に感想を言えるほど、俺は器用じゃない。

 つーか普通の水着で、普通に可愛かったので予想外すぎた。


 奈良須は大きなフリルが付いてるリーフ柄のビキニ、それに同じ柄のパレオを着用していた。

 なんということだ、ちゃんと胸に膨らみがある。比較対象が例のアレだから大きく見えているだけかもしれないが。でもそうだよな、今まで着ぐるみ姿しか見てなかったからスタイルなんてわかるはずもない。


「…………はぁ」

「あれー? 今すっごい侮蔑的で屈辱的で差別的な視線と諦観に満ちたため息を感じたんだけど、うちの気の所為かなー?」

「ソウダヨ、キノセイキノセイ」

「お兄ちゃん、後でぶっ殺すね」


 俺は蓮子の宣戦布告を軽く目線だけで受け流して、再び奈良須へと視線を向ける。


 綺麗にまとめられた、ナチュラルなショートの茶髪。

 やや丸顔ながらも、女性的な魅力を感じさせる顔立ち。

 分厚く艶めかしい唇。

 中々に均整の取れたスタイルと、性格を反映するようなおとなしい色使いの水着が対比になっていて、良くビーチに映えている。


 うーむ。

 ここで素直に、賛辞の言葉が出てくればいいんだが。

 今まで散々変人奇人だと思っていた手前、恥ずかしいな。


「奈良須ちゃん、だよね?」

「ははは、はいっ! すす、鈴里、さん」

「すっげぇセクシーじゃん。電車の中でも、そっちのほう良かったんじゃない?」

「さ、さすがに、それはっ、恥ずかしいですっ!」


 いやいやいや、ナスの着ぐるみも似たようなもんだろ。露出度は段違いだが。でも電車で水着着るのもナス着るのも、変質者って意味じゃ同じだぞ。

 そしてなんというか、こういう言い方もアレだが鈴里に先を越されてしまった。

 こいつ、場慣れしてやがる。何度も言うがどうして蓮子を選んだのか、小一時間ほど問い詰めたい。中学時代の蓮子だったらまだしもなぁ。



 ともあれ言いたかったことを言われてしまった俺は、しどろもどろになりながらも改めて奈良須と向き合う。

 なんて言おうか。

 羞恥を隠しているような、それでいて何かを期待しているような目線が突き刺さる。

 やべぇな、焦る。


「…………奈良須」

「な、なんでしょうか、先輩?」

「いっ」

「い?」

「イルカとか金魚とかのコスプレじゃ、ないのか?」

「…………ぷっ」


 俺の的外れの問いかけを聞いた奈良須は、一瞬の沈黙の後でこらえきれないという風にして吹き出した。


「あははははっ! もー、何言ってるんですか先輩。海で水着を着るのは、当たり前ですよね?」


 茶目っ気たっぷりの表情で笑う奈良須。

 横で鈴里も蓮子も、そりゃそうだと言わんばかりに頷いていた。



 当たり前ってなんだ。

 常識ってなんだ?

 世界と自分のどちらが間違っているのか、そう考えつつも奈良須の割と豊かなおっぱいに目が釘付けとなっていたことを、俺は恥だとは思わない。


 そう。

 男はみな、永遠の思春期なのだから。

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