花の潜伏者
背中に茂みと花々を生やした、深い緑色の甲殻を持つ花蜘蛛だ。
体高は俺と同じくらい。
顔の上半分に当たる位置に一際大きな花が咲いており、所謂頭状花の部分に大きな目玉が生えている。
〈こっわ〉
〈なぜ生きてるw〉
〈初狩り蜘蛛だ!〉
〈きも〉
〈花畑の悪夢〉
〈トラウマ製造機〉
〈初めてまじまじ見た〉
〈レアエネミーだぞ!〉
コメント欄が騒いでいる。
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花の潜伏者 Lv.13
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名前が青色の文字で表記されている。
レアエネミーの証拠だ。
「さあ……どうでる?」
レアエネミーに遭遇できたのは嬉しいが、既に手は離してしまった。
次にあの速度で逃げられたら今の俊敏値ではまず追えないが。
〈俺の仇をとってくれ〉
〈こいつ逃げ足早すぎるんだよな〉
〈まだ誰も倒したことがないらしい〉
だが花の潜伏者は威嚇してくるだけで逃げようとしなかった。
鋭利な二本の牙からは蛍光色の緑に発光する禍々しい毒がポタポタと垂れて、足元を這う根を腐食させている。
あれが麻痺毒だろう。
「逃げない……? いや、逃げられないのか」
どうしても丸々としたこいつの図体からは俊敏性を想像できない。
名前からしてもそうだ、もしかしなくてもこいつ、完全な奇襲型特化型のエネミーなんだろ。
そういうのは普通に戦うと弱いんだ。
〈てかHP1じゃん〉
〈早く回復しろ!〉
〈死ぬぞ〉
花の潜伏者が攻撃を仕掛けてくる。
俺の予想は外れ、カカマキよりもなお素早い身のこなしで肉薄してきた。
少し反応が遅れたがなんとか転がって回避する。
こいつ、単に俺がLv.1だから逃げなかっただけか。
心臓がバクバクいってるぞ。
だが澄まして言う。
「意外に動きが速いな」
足のカサカサした動きがゴキブリ並みだ。
続いて袈裟に繰り出される脚爪の攻撃をよく見て避ける。
立て続けの噛み砕き攻撃も上手くいなしつつ、軽いステップで足を入れ替えて、踏ん張る、お返しとばかりに花の潜伏者の脚の節を狙って蹴りを放った。
前方向にのみ曲がるようにできている脚の蝶番が、逆方向に反るような角度で俺の蹴りが入り、軋む。
「ギシャッ!?」
ステゴロとは言え、多少なりともダメージは入ったか?
さらに追撃をかけようとしたら、くん——と急稼働してまた引き摺られるように高速移動する。
だが俺はその軌跡を見て確信を得た。
「ああ、なるほど、わかったぞ」
こいつはスパイダーマンよろしく糸を飛ばせないんだ。
その代わり糸を巻き取る力に特化している。
「予め足元に糸を張っておき、その場から移動、潜伏して、奇襲に失敗したら糸を巻き上げて高速離脱する。高い擬態能力に、低レベルの相手しか狙わない習性……そりゃ倒されないわけだ」
〈そういうこと!?〉
〈おもろい生体〉
〈命綱つけてハイドとかセコいな〉
〈駆逐しろ〉
種さえ解ればあとは簡単だ。
高速移動できるのは奴が通った軌跡だけ。
それなら単純にどう動いたかを覚えておけばいい。
俺は記憶力には自信がある。
「俺を舐めて逃げなかったことを後悔させてやる」
足は肩幅に開き、重心は50/50で自然体を維持する。
半身で左足は前、右足は後ろ。
拳は頬の横で握り、オーソドックスな構えをとった。
スッと、頭が冷える。
集中。戦闘に没入するんだ。
その時システムが通知を告げる。
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スキルアンロック:
格闘術
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〈めっちゃ様になってる〉
〈経験者?〉
〈何か習ってたの?〉
「いいや? 格闘家の動きを見て覚えた」
コメントはつい見てしまう魔力があるな。
〈どういうことw〉
〈天才かな?w〉
糸の使い方からしてその場に留まりたく無いのだろう花の潜伏者からまた仕掛けてくる。
ジグザグに詰めてくるのは糸の軌跡を複雑化させるためか。
「シャアッ」
花の潜伏者も速いが、スキルを覚えたことで俺の動きはより洗練されていた。
大顎の噛みつき攻撃を紙一重で躱すと、カウンターで肘、花の潜伏者の顔面に一撃を入れる。
その時、スキルのエフェクトが光った。
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スキルアンロック:
エルボーストライク
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システムアシストにより威力が増大した事で、花の潜伏者の牙が一本折れた。
麻痺毒の飛沫が上がる。
「ぎシャアッ!?」
怯んだ隙にコンビネーションで五発の連撃を打ち込み、花の潜伏者が苦し紛れに脚を振り回したのを見切ると、重心がかかってそうな軸足の節に渾身の蹴りを食らわせる。
これもスキルエフェクトが出て、花の潜伏者の脚が可動域に逆らうように千切れ飛んだ。
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スキルアンロック:
スナップカーフ
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続いて胸を狙った二連撃の刺突をステップで半身になって躱し、その勢いのまま顔面に裏拳をぶち込む。
これも当然のようにスキルエフェクトが光ってもう一本の牙も折れた。
花の潜伏者の悲鳴が上がる。
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スキルを獲得しました
バックフィスト
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〈え、ええ……?〉
〈何を見せられてんの?〉
〈つっっっっよ〉
〈スキルってこんなポンポン生えるもんだっけ〉
俺は攻撃の手を緩めない。




