花守蜂
宿屋で目が覚めた。
Rimの世界はログアウト中でも肉体が残る仕様なので、ログアウト中に死ぬということが普通にある。
なので昨晩は金を払って宿屋に泊まっていたのだ。
すぐにメニューを開いて配信ボタンを押すと、ずらっと何を映して何を映さないかの項目が出てくる。
基本的にはオープンに行くので全部チェックを入れる。
例外としてユニークスキルとそれに該当するアイテムだけチェックを外した。
奥の手を晒す訳にはいかないからな。
「配信開始、と」
ちなみにカメラなんかはない。このゲーム自体が様々な配信プラットフォームと連動しているので、一人称視点をベースとして、色んなアングルから勝手に映し出してくれる。
Rimの世界でも配信に投げられたコメントはウィンドウから確認できる。俺の発言によってまだ荒れているようだが、気にせず宿屋を出て精霊国の街の凹凸のある街を歩く。
「ステータスは見えるようにしといた。ほぼアカウント作っただけだからまだLv.1、まあ有用なスキルは事前に幾つか取っておいたけど」
これでレベル、適刃不滅以外のスキル、各種パラメータ、称号、装備などは視聴者からも見れるようになったはずだ。
そして気づけばいつの間にか視聴者が5万人近くになっていた。
〈既に食いしばりがあるの意味不明なんだけどw〉
〈なんで生産職のスキルとってるの?〉
〈半日働いたってこと?w〉
「まあ色々思うことがあって」
道中、武器屋があったが素通りする。
〈装備整えないの?〉
〈金あるならつえー武器買えばいいじゃん〉
〈この店で一番強い武器買って俺TUEEEEしよ〉
「リアルマネーに頼るのも味気ないだろ。それにせっかく配信してるんだから、俺も見てくれてる人の参考になるプレイをしなくちゃな」
正確には、そうしろ、と本國さんが言っていた。
道中、冒険者組合があったがこれも素通りする。
窓越しに何やらやけに見覚えのある白金の髪が見えた気がしたが、まあ気のせいだろう。
〈あれ? どこいくの?〉
〈冒険者登録しないの?〉
コメント欄がざわざわしているが、まあ確かにまずは冒険者登録が基本だよな。
自分の実力に見合った依頼を斡旋して貰えるから、比較的安全に経験値と金を稼げる。
要するに階段式に強くなれる仕組みが出来上がっているのだ。
だが、それじゃあダメなんだよ。
「あー、今はいいかな」
適当に濁しながら外門を抜け、精霊国の街を出た。
建造物がなくなり、見渡す限り自然だけが広がっている。
ここから先はエネミーの湧く危険なエリアだ。
〈え、フィールドに出るの?〉
〈依頼受けてからの方が得だぞ〉
〈装備は? 武器すらもってなかったよね〉
「まあ見てなって」
精霊の森。
枝葉が重なり合い緑色の天蓋をつくっている。差し込む日差しと影のコントラストの中、蛍火のように揺蕩う精霊の光が幻想的だ。
「いいな、自然は。落ち着く」
森の匂いが肺の奥まで染み込んで気持ちがいい。
少し進むとブゥウンという重低音が聞こえてきた。
そいつは鈴蘭を大きくしたような花‘’白鐘花‘’から蜜を集めていた。
初エネミーとの遭遇である。
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花守蜂 Lv.2
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近づくと黒文字で名前とレベルが表示される。
バスケットボールくらいの大きさの蜜蜂だ。
〈蜂だかわいい〉
〈こいつら単体だと弱いんだけどね〉
〈仲間呼ぶからなあ。たかられたら絶対死ぬ〉
〈初心者は不用意に近づいてよくデスするらしいね〉
一般的にはそういう認識を持たれているようだ。
〈おい危ないぞ!?〉
〈近づきすぎじゃね?〉
「お前ら知らないの?」
俺は心配するコメントを意に介さず花守蜂に近づいていく。
目の前まで来ると、花守蜂もこちらに気づいたのか虫の複眼が俺をじっと捉えた。
〈死んだ〉
〈終わった〉
〈なにしてんのw〉
嘲笑、諦念。
しかし。
〈でもあれ?〉
〈なんで?〉
花守蜂は攻撃するでも仲間を呼ぶでもなく、何事もなかったかのよつな蜜集めの作業に戻った。
俺は心の平静を保ったまま、まるで果実を収穫するように、花守蜂が足に抱えていた蜜袋をもぎりとった。
「こいつらは敵意を向けなければ無害だよ」
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スキルアンロック:
無心
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花守蜂は体が軽くなったのを不思議そうにしながら飛んで行った。
〈すげえ〉
〈敵意ってなんだw〉
〈エルフがたまにやってるけどスキルだったんだ〉
〈何だこのスキル〉
〈今やった後にスキル生えなかった?〉
アイテムを確認する。
薄緑色の液体がたぷたぷと音を立てる。
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アンコモンアイテム【花守の蜜】
花守蜂が集めた白鐘花の凝縮蜜
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「これは良い調合素材になる」
ポーチにしまう。
こういうところはゲームなので念じるだけで異空間に格納できるし、もちろんアイテムの重さも感じていない。便利だ。
「他にも素材を集めながら進むぞ」
〈いくぞー!おー!〉
〈((o(。>ω<。)o))ワクワク〉
〈目的は?〉
「もちろん、レベル上げだ」




