初期スポーン
Rimにキャラメイクやプロローグ、チュートリアルといったものは存在しない。
異世界転移を謳うだけあり、前置きもなくいきなり異世界に放り出されて、後は何をやるのも自由。
全てがプレイヤーに委ねられているのだ。
初期スポーン地点は完全ランダム。
比較的安全な街中で湧けばラッキー、街の外で湧くこともざらにあるし、なんなら盗賊団のアジトやエネミーの群れの中に湧くこともある。
俺はというと。
目を開けると白い天井が見える。
街中、それも屋内だ。
体勢は仰向け。
背中からはふかふかな感触と隣からは人肌のような温もりが伝わってくる。
「んんん……むにゃむにゃ……」
声がするので横を見ると、肩がくっつきそうなほど近くで誰かが寝ていた。
白金色の髪、造形の整った顔、それに耳が長い。
エルフの女だ。
ような、ではなく。
これは寸分違わず人肌の温もりだった。
「…………」
思わずつきそうになった溜息を我慢する。
馬鹿げている、馬鹿げているが、確かに俺はエルフの女のベッドの中に初期スポーンしたようだ。
それも同じ布団に寝かしつけられる形でだ。
まあ、落ち着け。
過去には城の玉座に初期スポーンして秒で不敬罪で捕まり開始五分も経たずに王の前で斬首刑に処されたプレイヤーの話を聞いたことがある。
それに比べたらイージーモードだろう?
そっと家を出よう。
そーっとだ。
静かに布団を捲り上げて——
「ううん……?」
エルフの女が起きた。
俺は普通に舌打ちする。
こいつ一般NPCじゃないな。
気配察知に優れてやがる。
新緑の瞳が俺を捉え、理解と共に徐々に開かれていく。
もう無理だ、開き直るしかない。
「おはよう、落ち着いて聞いてくれ」
「……おは、え、あ、えっ?」
「俺は異世界人だ。初期スポーン地点が」
「だれ、えっ!? きゃああああああああああ!?」
まあ、無理か。
「お」
そこからは早業だった。
ガシ、と胸ぐらを掴まれて。
エルフの女は軽々と片手で俺を持ち上げる。
「まて」
振りほどけない。力が強い。
このエルフの女、かなり高レベルだ。
「落ちつ」
「出ていけーッ!」
これ、死——
「ぐっ」
ステータスにものを言わせた万力で思いっきり投げ飛ばされた俺は、ガラス窓を勢いのまま突き破った。
庭の木を叩き折り、何度か地面をバウンドしてから堅牢な柵をひしゃげさせてようやく止まった。
「…………生きてるな」
俺はかなり驚いた。
スキルもないLv.1、貧弱な初期ステータスの身だ。
普通に死んだと思ったのだが、視界の左上に表示されたHPバーはよく見たら左端に1mmだけ赤色が残っている。
明らかにHPが全損する攻撃を食らってなおHPが1だけ残る。
つまり食いしばったのか? なぜだ?
「ステータスオープン」
小声でつぶやく。
すると半透明のウィンドウが目の前にポップする。
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【ステータス】
烏我 科戸
Lv:1
体力:1/20
魔力:20/20
筋力:5
知力:5
器用:5
敏捷:5
耐久:5
精神:5
幸運:5
【スキル】
敵刃不滅
【称号】
なし
【装備】
武器:なし
頭:なし
胴:なし
腕:なし
腰:なし
足:なし
装飾:なし
装飾:なし
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「…………馬鹿な」
俺は動揺を隠せなかった。
「何で最初からスキルを持ってるんだ?」
Rimではどれだけ運動が出来るやつも出来ないやつも初期ステータスは皆同じ。体力と魔力は20だし他パラメータは5、そしてスキルはなし。死ぬ度にアカウント作成に一万円かかるのもあって、スタートラインは平等な仕様のはずだ。
例外は——
「いや、まさかな……」
眉唾ものだが、聞いたことがある。
死後に偉業を達成した場合や死際に何か核心を掴んだ場合など、特殊条件を満たしていると再作成したアカウントでスキルを生まれ持っていることがあると。
まさか俺が、という驚きと同時に。
でも前のアカウントであれだけやらかしたしな、という変な納得感もすぐに出てきた。
スキルの文字をなぞって詳細を確認してみる。
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ミシックスキル【敵刃不滅】※ユニーク
己が斃れるは正々堂々の敵刃のみ
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「この効果……しかもミシックのユニークスキルか」
何となく心当たりはあった。間違いないだろう。
ランクはコモン、アンコモン、レア、エピック、レジェンダリー、ミシック、イモータルの順で高くなる……らしい。というのも、公式が言ってるだけ手をイモータルランクのスキルやアイテムはまだ発見されていない。
そして通常スキルが決まった条件を満たせば誰でも取得できる再現性のあるスキルだとしたら、ユニークスキルは同じことをしても取得できるとは限らない唯一無二の再現性のないスキルだ。
「おいおい、おもしろくなってきたな。このスキルの効果、これどこまで適用されるんだ?」
動揺はなりを潜め、既に俺の頭の中ではこのスキルをどう生かすか?を考え始めていた。効果の書き方が妙に包括的で検証が必要ではあるだろうが、パッと思いつくだけでも罠、アイテム、不意打ち、スキル反動、状態異常と色々な使い道がありそうだ。
「生きてるか!? すまない、気が動転してしまって」
没入しかけた思考を遮ったのはエルフの女だった。
壊れた窓枠から飛び降りでこちらに駆けてくる。
「いや、しかし、きっ、貴様! 何者なのだ!」
「悪かった。言っただろう、俺は異世界人だ。初期スポーンがあんたの家のベッドの中だったんだよ」
「な、なるほど? 確かに異世界人は無から前触れもなく生まれると聞くが……いやいやいや、それにしてもだ!」
エルフの女は顔を真っ赤にして言う。
「子供ができたらどう責任をとるつもりなにょだ!」




