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都内のタワーマンションの二十八階が俺の家だ。
半年くらい前にまとまった大金が手に入ったので購入したのだ。
ここで母と二人で暮らしている。
父は俺が小さい頃に蒸発したらしく顔も知らない。
ミラを始めとする家政婦アンドロイド三体がテキパキと家事をこなす。次から次に運ばれてくる料理を食べていると、向かいに座る母が話しかけてくる。
「今日の診察はどうだったの?」
「別に。いつも通りだったよ」
「そう」
会話はあまり弾まない。
カチャカチャと食器が擦れる音が響く。
しばらく沈黙した後、俺は口を開いた。
「……プロゲーミングチームに入ることにした」
「え」
「勧誘されたんだよ、よく分かんないオジサンにさ」
「じゃ、じゃあまたRimを始めるの!?」
ガタッと椅子が揺れて音を立てる。
やけに過剰な反応をして母が身を乗り出してきた。
「そうだけど……なに? 落ち着いてよ」
「う、ううん。ごめんね」
「お金の心配でもしてんの?」
「そんなこと……ないわけじゃないけど」
母は気まずそうに言う。
「まあ、この生活ができてるのは、貴方がゲームで稼いだおかげだものね。なのにゲームを辞めちゃって、少し心配だったというか、なんというか」
高校卒業後、無職な息子を憂ているのとはまた違うものがありそうだ。
「母さんもさ、働けとは言わないけど、俺もこんなだし、いい加減さ、誰かと再婚でも考えたら?」
そう言うと、母が「あ」と零した。
「そうなの。丁度話をしようと思ってたのよ。実はね、プロポーズされてね、結婚を考えてる人がいるの」
そんな風には見えなかったから意外だった。
「へえ、そうなんだ。良かったじゃん」
「向こうも1人娘さんがいるらしくて。やっぱり顔合わせがいるでしょ? 今度会食をする予定だから、科戸も一緒に来てくれる?」
「ふーん、わかった」
スマホが鳴る。
本國さんからLINEが来た。
本國:早速ですが明日、入社手続きのため科戸くんの家に訪問させてもらいますね。親御さんにも同席してほしいのですが、都合はよろしいですか?
烏我:OKです
本國:良かったです。一緒に配信機材もお持ちしますね
烏我:配信?
本國:はい、弊社所属のストリーマーはもちろんですが、プロゲーマーも基本的にはYouTubeで配信することで収益をあげてもらうことになります
烏我:へえ
本國:告知準備は既に整ってますので、初配信は早速ですが明後日を予定していますよ
烏我:先にアカウント作っておいても? 配信するならなおさら、半年ぶりなので少し感覚を慣らしておきたくて
本國:できたらLv.1のままでお願いしますね
烏我:わかりました
食後、自分の部屋に戻った。
よく言えば統一感のある、悪く言えば個性のない、黒多めのモダン調にまとめられたレイアウトだ。そして無駄に広い。
ベッドに腰かけ、枕横に置いてあったヘッドギアを手に取る。この媒体にAIが生み出したAIだけが知る神秘が詰まっている……らしいが、その真実を知るのもまたAIのみだ。
脳をコンピュータと接続する。
害はないのか?デメリットはないのか?
最初は恐れた人々も誘惑には勝てなかった。
「また戻ってくるとはな」
半年間遠ざかっていた訳だが、今でも鮮明に、昨日の事のように思い出せる。高校卒業後、ゲームの発売当初から最前線を走り抜けた日々。
そこで得たもの、失ったもの、何もかもを。
「……らしくないな」
頭を振って雑念を振り払う。
ヘッドギアを頭に装着してベッドに横になった。
目の前にウィンドウが浮かぶ。
ホーム画面だ。
ここで遊びたいゲームを選択する。
数あるAIが制作し運営するフルダイブ型のゲームの中で最も人気を博しているゲームが“リアル・インテグラル・マキナ”——略してRimである。
ジャンルはMMORPG。
このゲームの売りはこうだ。
‘’異世界転移体験‘’
現実と錯覚するような超高精度なシュミレーション世界を生み出し、そこには限りなく人間に近い存在として成立するNPCが思い思いに生きている。
ユーザーはヘッドギアを使ってこのシュミレーション世界にアクセスできる。前置きなしにランダムポップするのも相まって、もはやゲームというより、異世界転移と言っても過言ではない。
‘’死んだら即死終了でアカウント削除‘’
まずこのゲームは死にゲーだ。正確には死ぬことを前提に作られた、死が学習のための情報として扱われるようなゲームでは無いが、それくらいの難易度を誇るためユーザーからはそう認識されている。
それなのに一度死んだらニューゲームの鬼畜ゲー。
更に言うとアカウント作成には都度一万円がかかる。
‘’ゲーム世界の価値を現実世界に不可欠な形で統合‘’
今では珍しくもないが、RMT、リアル・マーケティング・トレードが公式で認められているゲームであり、ゲーム内の通貨・アイテムを現実の金で売買するPlay-to-Earn(P2E) が可能となっている。
AIが台頭してきた近代、多くの仕事が消えた結果、ゲームで金を稼ぐ“ゲーマー”は立派な職業になっていた。
「行こう」
脳とコンピュータが接続し、意識が遠のいていく。
俺は半年ぶりにRimの世界にログインした。




