騎士団詰所
精霊国に戻ってきた。
騎士団の詰所でエルフの騎士団員に囲まれている。
もっとも尋問と言うよりは見世物に近かった。
好奇心。興味。野次馬根性。
そういうのがありありと伝わってくる。
〈なにこの空間〉
〈美人だらけだ羨ましい〉
〈そのポジ代わってもろて〉
〈フランちゃんと何かあったの?〉
〈フランちゃんに認知されてて羨ましい〉
エルフは女が権力や支配的地位を持つ社会構造だからか、騎士団員も女が大半を占めていた。
「それでLv.6の貴様が推奨Lv.23のボスを、しかも戦いの中で進化した異常個体を、それも単独で——討伐したと?」
俺の前に座るフランリッテ……ではなく。
後ろに控える短髪の女が話しかけてきた。
「俄には信じ難いが……」
このボーイッシュな人が副団長らしい。
周囲の騎士たちもうんうんと頷いていた。
〈まあ信じられないよね〉
〈観ててもまだ信じられないしな〉
〈別に証明する必要もないけどね〉
「嘘じゃねえ。証拠もある。証人もいる」
横を向く。
「なあユーナ?」
「う、うん。かっこよかった——じゃなくて、すごかったよ!」
ユーナ。空気を読んでくれ。
顔を赤らめるんじゃない。
騎士たちがザワついているだろう。
フランリッテが静かな声で言った。
「それでいい感じになって、押し倒してしまったと?」
「だから誤解だって言ってるだろ。なあユーナ?」
「う、うん。烏我くんは悪くないよ」
よし。
誤解を解いてくれ。
「ボクが先に触っちゃったのがイケなかったんだ」
ユーナ。空気を読んでくれ。
顔を赤らめるんじゃない。
騎士たちの視線が痛いだろう。
何もやましい事はないのに「ほう……」フランリッテの機嫌が悪くなる一方じゃないか。眉間からピキピキ音がしてるぞ。
「なるほどな……」
「おい、違うぞフランリッテ。急に腕を掴まれたから、つい癖で無力化してしまっただけだ」
「ふーんなるほどな……」
「納得してないだろ」
「しているぞ?」
絶対してない。
〈フランちゃんと知り合いなの?〉
〈自然な呼び捨てにキュンとした〉
〈フランちゃん何か……拗ねてね……?〉
〈まさか……〉
というか何でコイツはそこまで俺に肩入れするんだ。
ただ同じベットで寝た——と聞くとアウトっぽいが、初期スポーンの事故でたまたま居合わせただけだと言うのに。
騎士団員がひそひそ話しているのが聞こえる。
「なにこれどんな修羅場?」
「団長、完全に嫉妬してない……?」
「してるよね」
「してるな」
「かわいい」
声がでかいぞ。
隠す気ないだろ。
「おい! 聞こえているぞ!」
フランリッテが一喝すると騎士たちは目を逸らす。
その後も質疑応答は続いた。
ボス戦の詳細。進化個体の特徴。討伐の流れ。取得アイテム。一通り説明を終えた頃には、副団長も納得したらしい。
「……信じ難い話だが事実なのだな」
「だからそう言ってるだろ」
「末恐ろしい新人だ」
感心したように呟く副団長。
異常個体の情報は騎士団の中で共有されるらしい。
律儀に許可を求めてきたのでOKしておいた。
「他の女と寝ようとしていた訳ではないのだな」
騎士団長様の誤解も解けたしな。
ここの寝るは本当の寝るだと思って使ってそうだが。
最後にフランリッテが咳払いをした。
「では今回の件はこれで終わりとする」
ようやく解放か。
そう思った瞬間。
「その……」
フランリッテが急にしおらしくなった。
視線が泳ぐ。
指先をもじもじさせる。
「私と連絡先を交換してくれたら許す……」
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フレンド申請が届きました
フランリッテ・エル・ヴァルティア
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〈えええええええええ!?〉
〈認知どころか申請まで!?〉
〈断れ〉
〈これもう完全にさ……〉
RimではNPCも普通にゲーム的な機能を使う。
何もプレイヤーの特権ではない。
この世界ではそれが当たり前なのだ。
フレンド登録さえしておけば電話もチャットもできる。
「……わかったよ」
断るのもあとが怖いので承諾しておいた。
「それで、その、この前の件なのだが……」
フランリッテが耳まで真っ赤にしながら切り出してきた。
どう考えても一緒に寝た(初期スポーンの)話だろう。
コメントの荒れ具合を見るに伏せておきたいのだが。
「おいフランリッテ、こんな大勢の前で話すのか?」
「そ、それもそうだな」
「逃げないから。また後で話そう。チャットしてくれ」
「わかったぞ」
騎士団員からヒソヒソされている。
「やっぱり団長の男なんだよ」
「この前から様子がおかしかったもんね」
「今日だってわざわざ詰所に連行するような案件じゃ——」
フランリッテが顔を赤くして叫ぶ。
「う、うるさいぞ!」
俺の配信のコメント欄も過激さが増す。
〈ねえまって。何今の意味深な会話?〉
〈あの騎士団長様とどういう関係なんだ?〉
〈フランたんと何があったんだよ〉
〈フランたんと関わるな〉
〈許さない〉
めんどくさい事になってきたぞ。




