花攻獣性蜂
突然、花守装甲蜂が動きを止めた。
「なんだ?」
首裏がピリピリした。
パッシブでスキルが働いてる証拠だ。
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パッシブトリガー:
危機感知
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野生の勘で何かを感じ取ったのか、号令の効果が切れたのか、あれだけいた花守蜂が一目散に逃げ出していく。
〈なんだ?〉
〈不穏な空気!〉
〈なんか……へん……〉
警戒度を高めた俺は、ここにきて初めて距離を空けた。
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スキルアクティベート:
調合
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まだ時間がありそうだ。
材料は花守の密×薬草。
調合を開始する。
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調合成功:
体力回復薬
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一発で成功してくれてよかった。
不穏な空気の中、すぐにアンプルの首を折って中身を呷る。
ずっと1だったHPがみるみる回復していき満タンになった。
「何かが来るな」
これは直感だが。
アイツは俺を倒すために進化しようとしている。
そしてその牙は俺の首に届きうる。
辺りに漂っていた火煙が動き出し指向性をもって渦を巻く。
火煙は花守装甲蜂からも吹き出ており、密度を増すと天へ昇り、空気そのものを引き裂きながら巨大な炎の竜巻へと変貌していた。
焔花の群生地が燃える。
逃げ遅れた花守蜂が炎へ呑まれていく。
広い。
範囲が広すぎる。
そして。
轟音。
世界が白く染まった。
「ッ——!」
爆風が全身を叩く。
骨が軋み、皮膚が裂け、視界が揺れる。
HPが凄まじい勢いで削り取られていく。
「…………」
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パッシブトリガー:
食いしばり
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HPは再び1に。
回復しておいてよかった。
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パッシブトリガー:
適刃不滅
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いや……ユニークスキルがなければ死んでいた?
つまりさっきの炎の竜巻はスリップダメージも伴っていた訳だ。スリップダメージは無効化出来ることが実践で証明された。なんとも綱渡りで命懸けなユニークスキルの検証だ。
〈何この技〉
〈生きてる!?〉
〈なんかおかしいよ!〉
初見にして回避不可の超広範囲攻撃。
Rimが鬼畜難易度、死にゲーといわれるだけある。
「おいおい……俺じゃなかったら死んでたぞ」
今のうちにもう一度回復薬を調合し飲んでおく。
防御の術を持たない俺が頼れるのは食いしばりだけだ。
焦げ臭い。
見渡せば、焼けこげた地面が爆発の規模を物語っていた。
風が吹き、爆発の余韻として燻っていた煙が晴れる。
〈なんかいる〉
〈ボス……なのか……?〉
〈こわい〉
やつはそこに立っていた。
「…………脱皮でもしたか?」
思わず漏れた声。
だが、それは脱皮なんて生易しい変化じゃなかった。
それは確かに蜂だった。
だが同時に獣でもあった。
全長は三メートル近く、二足歩行をしている。
守ることに特化していた重厚装甲は崩れ落ち、全体的に柔軟性が高まり身軽になった印象を受ける。
黄金色の体毛に覆われた上半身は熊を思わせるほど逞しく、盛り上がった胸部からは圧倒的な筋力と野生が感じられた。
六本の脚は人型のように靭やかに発達しており、膝から指先にかけて黒曜石を削り出したかのような漆黒の外骨格に覆われており、関節ごとに鋭い棘が突き出している。
頭部は蜂というより肉食獣に近い。
黒い外殻に覆われた顔面。二本の長い触角。
そして獲物を噛み砕くためだけに存在する巨大な顎。
顎の内側には鋸のような牙が幾重にも並び、涎を滴らせ、開閉するたびに不快な軋み音を響かせた。
何より目だろう。
今までどこか知性的で守護者のようだった複眼が。
真紅に染まり、獲物を殺すためだけの色を宿していた。
猛獣の凶暴性。
昆虫の嫌悪感。
植物の神秘性。
境界が曖昧に、その全てを混ぜ合わせた存在。
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花攻獣性蜂 Lv.23
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破壊の化身が産声を上げる。
「ギィイイイイイイイイイイイッ!!」
「くっ」
濁音混じりの咆哮は衝撃波を伴うほどだった。
〈異常個体!?〉
〈ボスが進化した!〉
〈すげえ! 初めて見たぞ!〉
その背で羽が震える。
ブゥン!
たった一度。
羽音が鳴っただけで、大気が震えた。
花攻獣性蜂の脚元からヒビが走った。
いや違う。
地面が抉れたのだ。
見えなかった。
踏み込んだ動作すら。
気付いた時には、奴は目の前にいた。
「——なっ!?」
防御を捨てた代償。
その代わりに手に入れた圧倒的な速度。
ザシュッ——
凶悪に発達した黒爪がいとも簡単に俺の胸を貫く。
〈え〉
〈あ〉
〈死——〉
かつての身重な装甲蜂はもういない。
花を守る盾は砕けた。俺が砕いてしまった。
今ここにいるのは。
敵を殺すためだけに特化した一体の獣だった。




