佳境
当然HPがレッドゾーンに突入した。
花攻獣性蜂が血を払うように腕を振る。
投げ捨てられた俺は、このまま地面に衝突すれば死ぬ。
「くっ」
目まぐるしく変わる視界の中で。
自分が今どこを向いているのか?
どんな体勢なのか?
瞬時に把握し、空中で強引に体を捻る。
両足で着地。
膝を折り、勢いを殺しながら滑り込む。
ノーダメージ。だが凄いパワーだ。
だが焦げた土をえぐりながら十メートル近く後退させられた。
間髪入れず追撃の構えをとった花攻獣性蜂だったが、
「攻撃が通るようになったな」
不思議そうに自身の脇腹を見た。
「ギィ?」
そこからは出血のエフェクトが立ち上っている。
俺も腹を貫かれたと同時に反撃していたのだ。
短剣は深々と刺さった。装甲蜂だった時が嘘のように柔い。
俺の手には肉を裂く感触が確かにあった。
だが、
「その代わり馬鹿げた速度と攻撃力だ」
これまではレベル差があれど極ぶりした俊敏値だけは適正レベル並だった。だから避けられた。立ち回ってこれた。
だが今のやつは違う。
攻撃はもちろん速度でも俺を上回っている。
言うなれば俺の完全な上位互換だ。
「ギィイイイイイイッ」
花攻獣性蜂が猛る。
背中の翅が激しく唸りをあげた。
HPはもう回復する暇がない。
する気もない。
次の瞬間には花攻獣性蜂が消える。
否。速すぎて見えないだけだ。
視界の端で土が弾け飛ぶ。
地面が抉れる。
肌を刺すような殺気。
右。
来る。
身体が反応するより先に、脳が死を理解した。
避けられない。
間に合わない。
それでも目だけは奴を追う。
一度見たのだ。
もうわかる。
直線だ。
速いだけだ。
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スキルアクティベート:
霞回避
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刺突が鼻先を掠める。
鼓動が跳ねる。
避けた。
「ギギッ——!」
なお終わらない。
致命のラッシュが来る。
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スキルアクティベート:
霞歩法
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右。
左。
上。
下。
爪。
牙。
脚。
翅。
暴風のような連撃が俺を呑み込む。
だが。
当たらない。
俺はそこにいる。
確かにいるはずなのに。
まるで霞を斬っているように。
花攻獣性蜂の攻撃だけが空を切る。
ああ——
だんだん——
慣れてきたな——?
力はいらない。手首のひねりで短剣を操り。
破壊の権化たる黒爪の力を華麗に受け流す。
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スキルアンロック:
見切り穿ち
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コンボで返す突き技がダメージを与える。
血のエフェクトが散る。
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クリティカル
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花攻獣性蜂の胴体にぽっかりと穴が空いた。
困惑する花攻獣性蜂。
前傾姿勢で溜めをつくる。後脚の筋肉が肥大化した。
来る。
渾身の一撃が。
消える。
必殺の突進だからこそ、軌道は鋭く、真っ直ぐに。
「ギッ——!」
視界の中央に奴の爪が迫る。
世界がゆっくりになる。
俺は短剣を逆手に握り直し。
半歩だけ踏み込んだ。
逃げるのではない。
迎え撃つために。
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スキルアクティベート:
パリィ
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——ガィイイイインッ!
甲高い金属音が、戦場に炸裂した。
花攻獣性蜂の複眼が驚愕に見開かれる。
俺の短剣が、その渾身の一撃を正面から弾き返していた。
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クリティカル
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巨体が僅かによろめく。
その一瞬。
殺れる。
その確信があった。
そして、
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スキルアンロック:
火事場力
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きた。
俺が求めていたスキル。
ついでにもう一個。
奴に一撃を与えるための最適解も。
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スキルアンロック:
デッドアングル
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パリィ後にしか使えない、死角へ高速で回り込むスキル。
次に見失うのは奴の方だ。
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スキルアクティベート:
ダブルレンデル
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死角からの追撃の二振で花攻獣性蜂の左前脚と左中脚が飛んだ。
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クリティカル
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「ギィッ!?」
ここにきて爆発的な火力の上昇。
花攻獣性蜂が動揺して大きく距離をとる。
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レジェンダリースキル【火事場力】
残りHPが少ないほど攻撃力が上昇する
HP30%で攻撃力1.5倍
HP15%で攻撃力2倍
HP1%で攻撃力3倍
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俺の知る限り、このスキル以上の上昇倍率は存在しない。
最もリスクが高く、最もリターンが大きいスキルだ。
「終わらせよう」
言って、構えた。
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スキルアクティベート:
捕食者の構え
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俺を見て恐怖でも抱いたのか、花攻獣性蜂が一歩、下がった。
「逃げるのか?」
無意識だったのか、俺の言葉にハッと我に返った花攻獣性蜂は、苛立ちのままに激しく翅を震わせる。
「ギィイイイイイイイイイイイ」
翅から火煙が噴き出した。
これまでで最もドス黒い煙だ。
それは羽ばたきと共に渦を描き、その巨体を包み込んでいく。
パンッ。
煙の中で小さな爆発が生じた。
パンッ。
パンッ。
パンッ。
連続する破裂音。
小規模な爆発が花攻獣性蜂自身を傷付ける。
それは自害ではない。
殺意に濡れた目を見たらわかる。
ここにきて必殺の一撃を繰り出そうとしている。
「なんだそれ」
俺は思わず笑う。
明らかにやばそうな技が来る。
見切れるか?受け切れるか?わからない。
花攻獣性蜂の纏う爆発のヴェールはだんだん大きく、早く、激しくなる。
一際大きな爆発。
「ガァッ!!!!」
凄まじい轟音。
衝撃波。
次の瞬間には視界から消えていた。
音が遅れて追いかけてくる。
だが。
見える。
爆発によって加速し。
爆発によって推進し。
爆発によって破壊する。
爆発を纏った飛翔爆撃。
その速度はさらに数段ギアが上がっている。
花攻獣性蜂が流星のように突っ込んできた。
俺は逃げなかった。
恐怖が湧いてこない。
むしろ高揚していた。
身体が軽い。
頭が冴える。
世界が鮮明に見える。
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スキルアンロック:
致命返し
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受けて立つ。




