攻撃力不足
〈あれえ、スキルってそんな簡単に……〉
〈もう驚かないぞ〉
〈取得スピードが異次元なんだよな〉
〈どうなってんのw〉
「ああ、いいな、この感じ」
俺は胸が熱くなるのを感じた。
短剣から返ってくる衝撃。
何かを‘’斬る‘’という非現実的な行い。
言い知れぬ高揚感が背骨を駆け上がった。
だが、手応えはほとんどない。
花守装甲蜂は防御力が高く中遠距離の攻撃を得意とするボスエネミーだ。
甲殻は異様なほど硬い。
これまで遭遇した通常エネミーなら致命傷になる一撃が、コイツにとっては擦り傷みたいなものだった。
まあ究極。
一ダメージすら貰わなければずっと死なない。
一ダメージでも叩き込み続ければいつか死ぬ。
そういうことだ。
自然に口元が吊り上がる。
「キマってんだ」
コイツの得意な中遠距離の攻撃をさせない。
そのために至近距離から離れない。
ビビったら負けだ。
考えるな。
「踊ろう」
硬直の解けた花守装甲蜂が鬱憤を晴らすように近接攻撃を繰り出してくる。
兆候がある。
予備動作を見ろ。
尻が持ち上がった。
毒針の刺突攻撃が来る。
中脚と後脚をワシャワシャさせている。
拘束攻撃が来る。
頭を少しだけ右に傾けた。
牙攻撃が来る。
見える。
見えるが低ステータスの身体が遅れる。
今の俊敏値にアジャストしろ。適応しろ。
脳が理解するより先に身体を動かせ。
〈なんで反応できる!?〉
〈目がいいのか……?〉
〈避けるのうっま〉
ゼロ距離。
普通なら反応できない距離。
それでもその尽くを回避してみせた。
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スキルアンロック:
霞回避
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ただ回避するだけじゃない。
合間合間で短剣を振るい、攻撃を加えていく。
甲殻の継ぎ目。
関節部。
柔らかそうな腹部。
ダメージが通る場所を探しながら斬る。
〈神業だろ〉
〈落ち着いてるなあ〉
〈プレイヤースキル高すぎ〉
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スキルアンロック:
霞返し
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視界の端に表示されたメッセージ。
それは異常だ離れ業だとシステムが評価してくれる。
〈スキルぜんぶ後から覚えてるね〉
スキル取得パターンは大別して2つある。
先に覚えるか、後に覚えるか。
後者の場合は魔力を消費しない。
スキルなしで実際に行動し、条件を満たして獲得するからだ。スキルという名が付いて効果威力が高まる、それだけ。
足場が悪く回避できない攻撃は弾く。
ガキィッ!
短剣と前脚がぶつかる。
腕が痺れる。それすら今は心地いい。
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スキルアンロック:
パリィ
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発達した前脚の攻撃は受けきれないのでいなす。
真正面から受ければ吹き飛ばされる。
だから流す。
力を逃がす。
紙一重で軌道を逸らす。
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スキルアンロック:
見切り
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〈すごすぎて笑えてきた〉
〈スキル無しのパリィって判定激シブでしょ〉
〈まじで動きが繊細っす〉
自然に間合いが分かる。
俺ならどこまで踏み込めるのか。
コイツならどこから反撃を受けるのか。
どの角度で斬れば最も深く傷を与えられるのか。
これは知識ではない。経験だった。
本来なら何年も修練を積まなければ得られない感覚。
それが一瞬で身体に刻み込まれていた。
相手の重心。
攻撃の起点。
癖。
呼吸。
全部が何となく分かる。
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スキルアンロック:
近接戦闘術
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——スキルってずるいな。
思わず呟く。
才能を買っているみたいだった。
努力を飛び越えているみたいだった。
もちろん、それだけじゃ勝てない。
敵は目の前で健在だ。
「キイイイイイイッ」
花守装甲蜂が苛立ったように鳴く。
動くだけで火煙が放出され、周辺にトラップのように蟠っている。至近距離から離れない俺を煩わしく思ったのか、花守装甲蜂が牙を2回ガチガチっと鳴らす。
爆発。
地上に回避できるところはない。
俺は咄嗟の判断で花守装甲蜂のゴツイ前脚を足場に駆け上がり空中に躍り出て回避した。
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スキルアンロック:
空中回避
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足元を爆炎が飲み込む。
間一髪だった。
重力に従い落下。
そのまま体を捻って斬りつける。
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スキルアンロック:
空中乱舞
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ザシュッ!
甲殻を裂く感触。
だが浅い。やはり浅い。
後方に着地。
距離は空いていない。
むしろ今までで一番いい位置だ。
〈おいなんだ今の人間業か?〉
〈素で体操選手みたいなことしてるやん〉
〈腕を駆け上がるとか映画の世界じゃん〉
それにしても、わかっていたことだが。
「全然攻撃が通らないな」
ダメージがない。
決定打がない。
〈レベル不足〉
〈攻撃力は流石に足りないか〉
〈動きはすごいけどこれじゃ勝てない〉
ゆっくり振り返った赤い複眼が俺を見ている。
まるで試すように。値踏みするように。
まだまだ俺に脅威を感じていないのだ。
さあどうする?




