花守装甲蜂
コメント欄が心配してくれる。
〈ほんとにやるの!?〉
〈むりむり〉
〈死んだわこれw〉
「大丈夫大丈夫、こいつとは戦ったことあるから」
あの時はLv.10前半くらいだったか?
その時に比べて今のレベルは約半分しかないが、まあそこは経験と知識と戦闘勘て何とかする。何とかなるだろ。
「まあみてなって」
俺は花守装甲蜂に向かって歩みを進めながら、シャリン、と澄んだ音を立てて腰の鞘から短剣を抜き放つ。
〈あれ? 短剣なんて持ってたっけ?〉
〈いつのまに手に入れたの〉
〈盗んでて草〉
ナンパ男が持っていたサブウェポンを拝借しておいた。
街で買える初期装備レベルの安い短剣。
だがこれで十分だ。
俺は短剣を徐に自身の腹に突き刺した。
「まずは自傷ダメージでHPを削って、と」
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パッシブトリガー:
食いしばり
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HPがレッドゾーンに突入し端で一ミリだけ残る。
必須スキル【食いしばり】の効果でHP1だけ耐えたのだ。
〈ファ!?〉
〈いやいやいやおかしいって〉
〈なんでなんw〉
〈異常者がここにいます〉
腹から引き抜いた短剣を見る。
ゲームだからな。血は付いていない。
だが、
「ん~? なんか気持ち悪いな」
短剣を持つ手に微かな違和感があった。
それはかつて保持していたスキルの喪失によるものだろう。
いやだな。キモイ。
この状態でボスと戦いたくない。
「どうにかなれ」
短剣を軽く振る。風を切る音は小さい。柄を握り直し、手首だけで数度回転させる。重心は柄寄りで、思った以上に扱いやすい。突きから薙ぎ払いへ移る動作も淀みなく繋がった。
短剣を逆手に持ち替えた。刃の重みを指先で量るように何度か弄ぶ。抜刀から一歩踏み込み、仮想敵の首筋を狙う軌道を空中になぞった。
考えていない。
身体が勝手に最適な動きを選んでいた。
そしてカチッと何かが嵌り込む感じがした。
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スキルアンロック:
短剣術
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「これでよし」
短剣術は熟練度補正と近接命中率に効果がある。
〈ファ!?〉
〈どういうこと〉
〈あの素振りしただけです……〉
コメント欄が騒ぎ立てているが、俺が大きく動いたことで花守装甲蜂もこちらを認識したようだ。
黒い複眼と目が合う。
彼我の距離二十五メートルほどの位置まで来た。
「悪いが集中する、あんまりコメントみれない」
俺はそこで足を止めて短剣を構える。
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スキルアクティベート:
捕食者の構え
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名前がボス特有の赤文字で表示された。
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花守装甲蜂 Lv.23
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全身は鮮やかな黄金色の外殻に覆われ、花弁のように重なった装甲となっており、節ごとに黒い帯模様が走っている。陽光を浴びるたび、まるで金属鎧のような光沢を放っていた。
最も目を引くのは前脚だ。胴体の前にぶら下がる二本の巨大な捕獲肢は、ゴツゴツのガントレットのような形状をしていてかなり重厚感がある。
頭部は三角形に近く、大きな黒色の複眼は宝石のような輝きを持ちながらも、生き物特有の不気味さがあった。
背中には半透明の翅が二対。翼膜には細かな葉脈のような筋が走り、高速で震えるたびに大きな羽音を響かせる。
腹部は太く頑丈で、黒と黄色の縞模様が警告色として際立っている。先端には短く太い毒針が覗いていた。
「キィィイイイ」
花守装甲蜂が高い鳴き声をあげて翅を激しく羽ばたかせると、周囲にばふんと放出された粘度の高い火煙が津波のように押し寄せる。
「いきなりか」
俺は構えを解いて、移動スキルを使う。
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スキルアクティベート:
加速
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同時にもう1つ。
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スキルアクティベート:
身体強化
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迷わず前進を選び、火煙の中へ突っ込んだ。
花守装甲蜂がガチガチッと二度牙を鳴らす。
火花が散り、火煙に引火して、大爆発が起こる。
轟音。
要するにあの翅から放出される火煙が爆薬なのだ。
しかも足元に群生する焔花の蕾が誘爆し無作為に爆発範囲が拡大するおまけ付き。
かなり厄介な花守装甲蜂の大技だ。
〈突っ込んだー!?〉
〈絶対死んだーッ!〉
〈無謀すぎ!!〉
熱風が頬を焼いた。
あまりの衝撃に耳なりがする。
俺のHPは1から変わっていない。
〈いや……生きてる!〉
〈ノーダメージ!どうやって!?〉
広範囲に影響を与える大技には大抵穴がある。
勢いよく放出された火煙は、すぐに淀み、蟠る。火煙のないところ、濃度が薄いところは爆発しない。俺はそこ狙って回避していた。足元に誘爆しそうな焔花の蕾があったが蹴飛ばしておいた。
だが範囲内においてこの技は何度も避け切れるものではない。相手の得意な攻撃範囲で戦ったらダメだ。
爆発後の黒煙から抜け出した俺は、煙の尾を引きながら花守装甲蜂に斬りかかる。
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スキルアンロック:
ダッシュピアース
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——ギィイイイン
火花が散る。
硬い感触が腕を震わせた。
ダメだな。
普通に斬るだけじゃ装甲のような外殻に弾かれる。
構える時間が短かったとは言え、強化しても数値で言うところの一しかダメージを与えられていない。
「硬いな」
だが花守装甲蜂は大技後の硬直で動けない。
ここはチャンスだ。
畳み掛ける。
スキルエフェクトが光って、意志を持つように連鎖した。
袈裟斬り。
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スキルアンロック:
ダガースラッシュ
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刺突の連続攻撃。
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スキルアンロック:
クイックラッシュ
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斬り上げと斬り下ろし。
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スキルアンロック:
ダブルレンデル
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水平斬り。
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スキルアンロック:
スラスト
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威力の上がった斬撃が次々と無防備な花守装甲蜂にクリーンヒットする。




