ギフトボックス
〈ガチャタイムきちゃ!〉
〈レアモンスターのギフトボックスは期待できる〉
〈紫だからエピック相当しかでないもんな〉
ギフトボックスを開いた瞬間、淡い光がふわりと溢れ出した。箱の中には緩衝材も包装紙もない。箱は輪郭が解けて光に溶けて、一つの球体が静かに空中に浮かんだ。
掌に収まるほどの大きさの硝子のオーブだ。
「スキルオーブか! 当たりだな」
スキルオーブは三秒間空中に浮かんだ後、重力に従って落下してくる。それを掴み、樹冠から梯子のように差し込む光に透かしてみると、気泡もなく透き通った球体の奥で、紫色の光が妖しく渦を巻いている。
それは単なる装飾品ではない。
見た者にそう確信させる、不思議な存在感を放っていた。
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エピックアイテム【‘’捕食者の構え‘’のスキルオーブ】
使用するとスキル【捕食者の構え】を習得できる
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強調されている捕食者の構えの文字を選択する。
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エピックスキル【捕食者の構え】
構えた時間に比例して次の攻撃スキルの威力上昇。
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俺は思わず唸った。
構え。構えか。
「これは……」
一見、俊敏特化で高速戦闘を得意とし戦闘中は足を止めない俺には死にスキルのように感じるが、しかし敵のダウンや罠で隙さえ作れれば、必殺に成りうる強力なスキルだ。
「けっこういいスキルが出たんじゃないか」
〈これチャージ最大30秒で火力3倍になるスキルだ〉
〈パーティアタッカー用のスキルだね〉
〈ソロだと使えません〉
割と知られたスキルのようだな。
コメント欄を見ていると色んな意見があり、滝のように流れ落ちるこの文字の一つ一つが1視聴者、1人の人間なんだなと再認識した。
オーブを使用すると光となって俺の体に吸い込まれた。
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スキルアンロック:
捕食者の構え
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「ブギョー」
エネミーの断末魔が響き、死骸が光に溶けて消える。
はやいな、ユーナが戦い終わったようだ。
ん? 何だか理由は分からないが泣いているぞ。
「や、やっぱり見てくれてもないよね……」
がっくし、と口で言ってる。
結構あざとい女だ。
俺は隣を歩くユーナに視線を向けた。
「そういえばレベルを聞いても?」
「うん! 28だよ」
ユーナは自信満々に答える。やっぱり近森のボスを狩るために安全マージンをとったらそれくらいのレベル帯になるよな。であればこれくらいの通常エネミーでは梃子摺らないか。
「ボスのところにはまだつかないのか?」
「あと少しだよっ」
フルダイブ型のゲームの凄いところはリアルと遜色なく五感が働くことだ。歩いていると甘ったるい匂いが漂い始めた。
花蜜のような香り。だが心地よいというより濃密すぎる。鼻腔にまとわりつき、気温も上昇しているからだろうか?吸い込むたびに肺が熱を帯びるような錯覚を覚える。
道中、樹根に生える茸を採取した。
夜には篝火のようにぼんやり発光する森の光源だ。
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コモンアイテム【火精茸】
精霊の森の火精域に生える茸
食べると耐久が下がるが筋力が上がる
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森を吹き抜けていた風はいつの間にか途絶え、空気そのものがじっとりと熱を抱えている。足元には焔花の赤い花弁が落ち始めていた。それを拾い上げると、指先に微かな熱が伝わる。
「もうすぐだよ」
ユーナの言葉の直後、視界が開けた。
そして到着したのは広大な焔花の群生地だった。
一面を埋め尽くす赤と橙色の花々。花弁は炎の舌のように揺らめき、風もないのにゆらゆらと蠢いている。群生地全体が巨大な焚き火になったかのような景色だ。
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コモンアイテム【焔花】
精霊の森の火精域に咲く花
蕾は誘爆するため取り扱いに注意
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焔花の中心部では淡い火の粉が絶えず発生しており、夜ならさぞ幻想的だっただろう。だが実際に立ってみると美しさより危険さが先に来る。近づくだけで肌がじりじりと炙られ、焔花に触れれば本当に火傷しそうな熱量があった。
歩くたびに靴が花を掠めればパチパチと火花が散る。見渡せば周囲の木々も普通ではない。幹は黒く焦げ、枝の先端は炭化しながらも不気味に生き続けている。まるでこの一帯だけ常に炎の支配下にあるかのようだった。
そして群生地の中心。
バリバリバリ、と。
ヘリコプターを連想させる重低音が響いた。
火の粉を巻き上げながら空中に浮遊していたのは、馬鹿げた大きさの蜂だった。
ユーナが小声で言う。
「ほら、あれが——」
俺はユーナの赤髪に手を置く。
「ありがとう。危ないからここでじっとしてな」
「へ?」
何故か顔を赤くしたユーナを置いて、俺は花守装甲蜂に向かって歩き出した。
……かっこいい。
なんか聞こえた気がしたが、気のせいだろう。




