俊敏特化
花守蜂は個体差が大きい。
レベルの高い個体は俊敏性も高く、まとわりつかれて攻撃してくるのを何度か回避する。
倒すのは簡単だが、こいつらは雑魚エネミーなのでできれば倒したくない。
森を駆けていると、足元の違和感に気づいた。
「こりゃいい」
足裏がやけに木に吸い付く。
蜘蛛系の装備にはそういう隠し補正がかかっていることがあるからそれだろう。
これなら壁や天井でも上手く動けそうだ。
そして足音が小さい。これは静音+15%の効果だな。
俺は蜂の猛攻を躱しながら、木から木へ、猿のようにアクロバティックな動きで森を駆け抜ける。
コツが掴めてきたな。
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スキルアンロック:
フォレストラン
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〈えー〉
〈簡単にスキル生えすぎだろw〉
立体機動の精度がさらに増した。
「…………」
俺は逃げながらPPについて考えていた。
失った前のアカウントのPPの割振り方は俊敏偏重で、あとは魔力、膂力、器用に均等振りだった。
だが俺は負けた。
間違っていたのだ。
俺に何が足りなかった?
体力か?
魔力か?
膂力か?
知力か?
器用か?
耐久か?
精神か?
幸運か?
俺は嗤った。
「くはっ」
違う。
足りなかったのは——更なる俊敏だ。
全てを抜き去り、置き去りにする圧倒的な速さだ。
「決めた。PPは俊敏値に極振りする」
言ってポイントを割り振ると、一気に倍になった俊敏値が加速をもたらし、花守蜂と差が開き始めた。
そしてシステムが俺の心意でも汲んだのか。
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スキルアンロック:
加速
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またしてもスキルが生えてきた。
結果、あっという間に花守蜂の群れを置き去りにした。
※
「や、やめてよ!」
ボクは掴まれた腕を振り払った。
森の中、下衆い笑みを浮かべた男プレイヤー3人組に囲まれている。
彼らは怒るでもなく、抵抗するボクの姿を楽しむかのようにへらへらしている。
「おいおい、良いじゃねえかゲームなんだから」
「ホントだよ、ノリわりいぜ」
「なあー?」
ついさっき「この辺の花守蜂が活性化してる。今動くと危ないから休憩しよう」と言い出したので、非好戦的なエネミーしかいない泉まで避難してきた。
休憩中にやけに距離が近いなと思ったていたら、ついに本性を表したようだ。
「ていうか俺ら三人に直接声をかけたって事は、お前もそのつもりだったんじゃねえの」
「俺たち結構有名だよなあ」
「悪い意味で、な! ギャハハッ」
「違うよ! ボクはただボスが倒したくて」
「そういうのいいって」
「楽しもうぜ?」
肩に手をかけられて、
「いい加減に——」
ボクは腰に装備した双剣に手を伸ばした。
「…………」
しかし獲物を引き抜くことはなかった。
いつの間にか輪の中に一人知らない男が混じっていたのだ。
脚以外は初心者装備だが、身長があり筋肉質で、顔もかなりイケている。
「よ」
何食わぬ顔で片手をあげるイケメンに、三人の男プレイヤーは目をまん丸にして驚きの声を上げた。
「いや、え?」
「いつの間に」
「だ、誰だお前?」
問いには答えず、イケメンはボクの手を取ると少しだけ粗暴な手つきで抱き寄せた。
キュンとする。
ビックリした、王子様が迎えに来たのかと思った。
「お前らも逃げろよ」
意味の分からないことを言い残して、イケメンはボクをお姫様抱っこすると颯爽と走り出す。
間違いない。
これ王子様が迎えに来たで間違いない。
最初は戸惑っていた男プレイヤー三人も状況が飲み込め始めると顔が怒りで赤くなり始めた。
「あ! 待て!てめぇ!」
「横取りはズリぃぞ!」
「いや、足はえー!」
だがスピードに差がありすぎて追いついて来れないようだ。
あっという間に見えなくなった。
後ろで絶えず聞こえたきた怒鳴り声が、少しして「うわあああああああ」という悲鳴に変わった。
「あ……」
パーティを組んでいたので、ボクの視界の左上には男プレイヤー達の名前が表示されている。
彼らの体力バーがみるみる減っていき、レッドゾーンへ突入、そして呆気なく死亡した。
体力バーにDEADの文字が浮かび名前が消える。
彼らはアカウントを失ったのだ。
遠くからブゥウウウという重たい羽音もするし、騒ぎすぎて花守蜂の群れを引き寄せてしまったのかもしれない。
暫く走る。
羽音はそれ以上追ってこなかった。
「あの……」
遠慮がちに声をかけると、イケメンは木の上から華麗に着地するとボクを地面に降ろしてくれた。
「あー……すまん、余計なお世話だったか?」
「ううん、助けてくれてありがとう」
「あいつらパーティメンバーか?」
「そうだよ。いや、そうだった、かな。まあボスを討伐するために組んだ臨時パーティだったんだけどね」
イケメンも彼らの顛末を察したようだ。
「へえ、そのボスって?」
「花守装甲蜂」
言いながら、ボクはもうパーティメンバーの事なんて忘れていた。
イケメンの顔は見てるだけで満たされる。
なんだろう、この影のある感じが凄くいい。
「へえ」
イケメンはボスエネミーの名前を聞いて、いいこと思いついた、とでも言いたげな顔で笑った。
「よかったら俺と一緒に倒しに行かないか」
「え、いいけど、二人で? 君レベルは?」
「さっきLv.6になったな」
ボクは彼が冗談を言ってるのだと思った。
「推奨Lv.23だよ。それにボスはパーティ攻略前提の強さしてるし、二人じゃ勝てっこないよ」
「なら俺を連れていってくれるだけでいい」
でも。
「頼む」
その目は真剣だった。
……かっこいい。




