64話
「彼女が蘇っていたということはやはりクレアはヴァンパイア……少女を人ならざる者にした奴がこの町のどこかにいる」
「メリッサがクレアをヴァンパイアにしたという可能性は?」
尋ねると、カールソンは寝そべったまま溜息をつき答えた。
「もちろんそれも考えたよ。でもクレアは“金色の髪の妖精が首にキスをしてくれる夢を見た”と救貧院の職員に語っている。9人の被害者も金髪の女が出てくる夢を見たと口を揃えていただろ?メリッサ・カラベは赤髪だし、クレアを襲ったのは彼女じゃないと思うんだ」
赤い髪と聞いて、マクドウェルはリュシアン・アルベスクの義妹を思い出す。確か彼女も赤毛だった。
カールソンは胸ポケットから小さな手帳を取り出し、忙しない手つきでページをめくる。
「例の本から気になる部分を書き出してきたんだ。聞いて。――不老不死の魔物の最大の特徴は驚異の再生力である。上級種は重篤な外傷を負っても瞬時に修復が可能。中級種や下級種は上級種に劣るため再生が遅く、創傷に数時間、骨折や熱傷においては数日を要する」
「埋められてから傷が癒えたと、そう言いたいのか?」
不機嫌そうな声でマクドウェルが問うと、カールソンは自分の耳朶をいじりながら思案顔で答える。
「棺の中で傷が修復されて目覚めたけど、自力で外に出ることはできなかった。もたもたしているうちに例の儀式を知っている者に墓を掘り起こされて、永遠の命を断たれた……あの状態を見れば、そう考えるのが妥当じゃない?」
「だとしたら、これまで町で起こった9件の殺人事件の犯人が棺を開けたということになるな。不死を断つ儀式を知る人物がそう多くいるとは思えない」
頷いたカールソンは耳朶をひっきりなしに触りつつ頷き、低めた声で言った。
「棺の中を見て確信したよ。一連の事件の裏にはやはり……古の儀式の方法を知る人間がいる。これまでに犠牲になった9人は、その人物にヴァンパイアと断定され殺された」
眉をひそめるマクドウェルを穏やかな瞳で見つめて、彼は続ける。
「メリッサ・カラベの墓を掘り返した奴は、彼女の復活を危惧していた。つまり、クレアがヴァンパイアの少女だということを知っている。ということは……ほら、犯人の姿がおのずと浮かび上がってくるだろ?」
「もったいぶるのは君の悪い癖だぞアレックス」
苦言を一蹴するように鼻で笑った彼は、目を細めたまま言った。
「僕たちより先に棺を開けたのはおそらく、トマス神父の元に来た祈祓師だ。その人物は、永遠の命を断つ古の儀式を知っている。ヴァンパイアという存在をそいつから教えてもらったのか、すでに認知していたのかはわからないけど……クレア・オルビーがヴァンパイアである可能性を考えた神父は、彼女に噛みつかれたメリッサ・カラベが不死身の魔物として蘇ることを恐れたに違いない。祈祓師と共にカラベの棺を掘り起こし、古の儀式を施してもらった」
そこまで一息に言葉を続けたカールソンは、手帳を閉じて大きく息をついた。そしておもむろに立ち上がり、カットグラスを手に取ると、硝子ピッチャーの水をなみなみと注いで一気に飲み干した。
その行動を目で追っていたマクドウェルは溜息をつき、リカーキャビネットを指差す。
「水じゃなくて酒にしろ」
カールソンは薄く笑い、「正気だよ僕は」言って、もう一杯水を飲んだ。そして溶けた猫のように長椅子に寝そべると、再び口を開いた。
「ところで君、エトワール生理学研究所っていう組織を知っているかい?」
目を丸くしたマクドウェルはかぶりを振る。
「なんだ唐突に」
「ナサニエル・マーキスという学者が創設した民間団体さ。近年、教皇庁の考えに疑問を抱いた祈祓師が水面下でこの研究所と手を組んで、なにやらこそこそやってるらしい」
マクドウェルは怪訝な顔になる。なにか言いたそうに唇を開いたが、結局黙って先を促した。




