表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FATUM  作者: 紙仲てとら
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/119

103話

 彼はいちど言葉を切り目を伏せた。ややあって、小さく息をつき唇を開く。

「君の魂は私が知る限り3回この世に転生している。その3回とも、私はファヴィラの力を借り君を探し出した。そして……深く愛し合い、傷つけ合った」

 エミリアは茫然と立ち尽くしている。リュシアンは彼女の肩に触れ長椅子に座るよう促すと、ドレスを手に取り抱きしめるようにして、自分も腰を下ろした。

 そして静かに、過去を語り始める。

「私たちが初めて恋に落ち結ばれたのは900年以上前。旺歴549年、君はドラド大公国ウィンズレッド州を統治していたウィンズレッド伯アルベルト・チェンバレンの娘として初めてこの世に生を享けた。名はマリアンヌ・ヴィタ・ミュリアス・チェンバレン。私は彼女と婚姻し、幸せに暮らしていた……」

 しかし、その日々も長くは続かなかった。悪逆の徒がもたらした惨劇が、ある女を凶行に走らせたのだ。

 ――女の名は、ジーナ・ガラ。

 まだリュシアンがマリアンヌと出会う前、アルベスク家の使用人として住み込みで働くようになったジーナは、リュシアンに密かな恋慕を寄せていた。

 彼女は初めこそリュシアンの姿を一目見られるだけで満足していたが、次第に欲深くなり、純粋だった恋心を少しずつ歪めていく。ベッドの下に隠れ話を盗み聞きしたり、寝室に面した壁に穴を開けて彼のプライベートを覗き見たりと、その行動は徐々にエスカレートしていった。

 リュシアンの愛用品を盗んだことが明るみに出てまもなくジーナは解雇される。自分の周囲で起こる不可思議な現象から解放されたリュシアンは、波風立たぬ穏やかな日々を送った。そんな中、初めて彼の心を射止めた人物がいた。それがマリアンヌである。

 彼女はその美貌もさることながら、おおらかで聡明だった。家柄も申し分なく、皆が彼らを祝福した。

 やがてふたりは婚姻し夫婦となる。リュシアンは父ヨハネスから領地として譲り受けたドラド大公国ロンドール州コルラドに屋敷を建て、結婚生活をスタートさせた。

 一方ジーナはリュシアンに対する未練を断ち切れず苦しんでいた。彼が他の女の夫になっても、その想いは熱を増すばかりであった。ジーナはマリアンヌを激しく憎み、いつしか殺してやりたいとまで思うようになった。

 しかしながらマリアンヌには容易に近づけない。屋敷の警備は厳重で、彼女が外出するときにはいつもリュシアンが傍についている。

 恨みつらみを募らせたジーナは夜毎マリアンヌに死の呪いをかけた。幼い頃から黒魔術や呪術に興味があり独学で知識を習得していた彼女は、その方法に詳しかった。

 死の冷たい手が、若く美しいマリアンヌの命をさらう日を信じて大人しくしていたが、とある事件を発端にジーナの暴走が始まる。

 リュシアンとの子どもを身籠ったマリアンヌが騒がしい都市部にあるコルラドの屋敷を離れ、静かな田舎町ルデロアに建てた別宅に移り住んだ矢先――その惨劇は起こった。

 なんと、リュシアンが凶刃に倒れたのだ。犯人はシェダール・メイジーという下級貴族の男で、ドラド大公国の宰相として名声を欲しいままにするアルベスク家の当主ヨハネス・アルベスクに嫉妬心と恨みを抱き、生き地獄を味わわせてやろうと、彼の愛息であるリュシアンを狙ったのである。

 彼が殺されたと知ったジーナは怒り狂った。その烈火のごとき憤怒は彼女の理性を焼き尽くすには十分だった。

 ジーナは国外に逃亡しようとしていたシェダール・メイジーを掴まえ八つ裂きにし、心臓と目玉と舌を抜き取った。その後すぐリュシアンが眠るロンドール州ルデロアに戻った彼女は、忌まわしの森ラウマダハリにひとり足を踏み入れた。

 そして毒沼に囲まれ枯れ果てた木々の間に祭壇をあつらえると、アルベスク家の使用人だったころに集めたリュシアンの髪と爪、シェダールの臓器、鴉の血、牡鹿の骨、子宮に毒草を詰めた雌鹿の死骸などの供物を捧げ、禁忌とされている儀式を執り行った。

 それはラウマダハリの森の奥深くに棲まう魔女アルル・ニガから教えてもらったものだった。死者の霊魂を呼び醒まし、肉体を蘇らせることができるという禁断の儀式だ。

 旺歴576年12月3日、深夜。

 ジーナ・ガラによって墓が掘り返され、土にまみれた棺の蓋が開かれる。中に横たわっていたリュシアンは、彼女の呼び掛けによって目を覚ました。

 この日より、死の眠りから蘇ったリュシアン・アルベスクの新たな旅路が始まったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ