森の中で
町からしばらく歩いたけれど、景色が変わる事は無かった。つまり、私はずーっと町を囲んでいる森の中を歩いていた。
最初こそ調子は良かったけれどだんだん足も体も疲れて、限界に近づいてきている。
もう長い事、家と大学と町のそれほど長くない距離を行き来するだけの生活をしていたので自分がいかに貧弱かを思い知らされた。
町を出てからどのぐらいたっただろう?
日が昇る気配はしないのでまだ数時間も経っていないのだろうか。今夜はいつもに比べて時空が歪んでるのでは、って思うぐらい長く感じた。
図書館の片隅で埃を被った私の歴史書を読むであろう将来の読者とファン諸君の事を考えるとすごく心が痛かったが、流石にこんな夜道を彷徨う中でとても本の続きを書こうなんていう気にはなれない。
今の私が置かれている状況ははっきり言って超危険だ。
夜道を無防備に歩くなんて街でも危ないのに、か弱い乙女が森の中に伸びる夜道を一人で歩くなんて、どうぞ襲ってくださいと言いながら歩くに等しい。
そういう訳で、ろくに戦闘なんてできない貧弱な学生である私はできるだけ早く安全な場所を見つけないといけない。
別に集落でなくてもいいから、せめて簡易結界を張って野営できるような感じのいい平原を見つけたい……が、そんな場所がぽんぽんあれば宿場町なんて要らない訳で、カンテラの明かりを頼りに歩く道の脇に並ぶのは木に林に森に。
森の中で結界を張ると木々の隙間が邪魔をして結界の穴になるので全然安全じゃないし、そんなところで野営するぐらいなら歩いた方がまだマシだ。
夜闇の道には私の足音と虫の涼音だけが響く。
ふと私は、この道を全く知らないという事に気が付いた。
私はあの港町から出たことが無いので、そこから伸びるこの道がどこへ続くか知らないし、その先に何が有るのかも知らない。そう考えれば人と言うのは存外無知な存在なのかもしれない――なんて、この月明りの無い夜は私の心をすっかり感傷的にしていた。
それからしばらく歩くと、やっと森の出口へとたどり着いた。
疲れ果てていた私はやっと木の生えていないのっぱらを見つけると、ふらふらとそこに吸い込まれるよう道から外れ、何も考えずにそこに寝転ぶ。
「あ”あ”~つかれたぁ~もうむり、うごけない」
私はそんな風に声にならない声を出した後、簡易結界を張るのを忘れたまま草と土の香りに包まれて夢の中に落ちていった。




