借物
ページに適当な文字や図形を書いたり、インクを垂らしたりしてみたが、やはりこの破られたページと赤い本はリンクしているようだった。
と、そんなことを言っている場合ではない。私はすごくピンチだ。
大学倒壊事件から一夜が経ったが、瓦礫撤去の目途は立たず。失踪した教授と学長、あと辺境伯様もまだ見つかっていないらしい。
辺境伯様に関しては領地がてんやわんやしているが、私に直接的な関係はない。
でも、私の拠り所でもあった教授と学長の二人を同時に失ったのはかなりヤバい。しかも、今私はお金が一文も無いので、明日生きていけるかも怪しい状況だった。
そんな状況の中、とにかくお金を算出するために資料として買った本を二束三文を承知で売りに行った。
しかし、事情を知った店長はなんと本を原価で買うと言ってくれたので、お言葉に甘えて原価で売却してもらった。私はあの人のおかげで何とか首の皮一枚繋がったのだ。
売ったついでに「ページの内容をコピーする本」について尋ねてみることにした。
「……って感じの本に心当たりが有ったりしませんか?」
「うーん。私は本屋だから魔術の類には詳しくはないけど、流石にそんな本があったら耳に入っているはずだから」
当然の回答だ。
やはり、私が今持っているあの赤い表紙の本は何かすごい力を秘めているに違いない。
本当の事を言えば売ってしまいたい。きっとかなりの額で売れることだろう。そうすれば、明日のご飯に困らなくていいし、家だって手放さなくていい。大学にだって普通に通えて、天文学が学べる。
「……」
でも、流石に売る事は出来なかった。
見ず知らずの私を拾って、学生にしてくれて、さらにお金まで貸してくれて。
そんな恩人である教授との最後の繋がりともいえる本を売れるわけがない。
私は本を売って、家を売って、例の本と勉強道具を残し、とにかく持っている物を片っ端から売り払った。
そういうわけで、私は絶賛ホームレスだ。
まぁ、あの家は教授からの借金で買ったものだし、家に有った物も大体そんな感じなので、教授が居なくなった結果借金を返済をしなくてもよくなった、と考えれば……。
ダメだ。
私は町の中にある噴水に腰を掛けて、一人空を眺める。
知り合いは居なくなった。
大学も教授の部屋も無くなった。
家も無くなった。
持ち物は衣服と短剣、筆や本などの勉強道具と少量のお金。
私は何もかも失った。
いいや、最初から何も持ってはいなかったのだろう。所詮全部借り物に過ぎなかった。
……私が得たと思っていた居場所さえも、借り物だったのだろうか。
その夜、一人ぼっちになった私はそっと町を出た。
さようなら、大学。さようなら、学長。さようなら、教授。
どこに行くか決めていない。これからどうするかも決めていない。
でもとりあえず、道に沿って歩く事にした。
それぐらいしか、できなかったから。




