本
なぜか教授に怒られた私は、結局お金を借りることができないままにしょぼくれながら帰路についた。
その日の食事に関してはお昼ご飯を我慢し、夜も井戸で汲んだ水をお腹一杯になるまで飲むことで我慢したけど、すごくつらかった。
特にやる事も無くなった私は空腹とぐーぐーと鳴る腹の音に悩まされながらも執筆を進めた。
そして、翌日。
今日は是が非でもお金を借りないといけない、さもなくば死ぬ。
私は意気込みながら大学に向かった。
何やら大学の入り口周辺には人だかりができていた。その中には近くに住む市民や、農民、ローブを着た教授陣や学生など様々な人間が皆一応に同じ方向を向いていた。
一体みんなが何を見ているのか私も気になって、人混みをかき分けてその先に何があるのかを確認しようとした。
そして、
「は?」
私はただ唖然として、それ以外言葉が出てこなかった。
何せ、大学の建物が倒壊していたのだから。
大学の建物はまるで原型をとどめておらず、それはもはや石の塊と言った方が近いだろう。
庭があった場所には瓦礫が積みあがっていて、そこから教授の部屋に伸びていた長い廊下がどこにあったのかすら分からない有様。
何が起こったか想像もつかないが、私はとにかく瓦礫と瓦礫の間を渡り教授の部屋があった場所へ向かった。でも予想通りと言うか、そこに有ったのは瓦礫だけで、もはや部屋の体を成していない。
ここで何が起こったのか知りたかったし、教授の安否も確認したかったが私は大学内に知り合いなど居なかった。
そもそも、大学に入れるは金持ちかすごく頭が良かったり、何かしらの才能に長けていたりする人だけで、そういった才能がある訳でもなく入学金を払わずに在籍している生徒など私ぐらい。そもそも教授自体、大学内では変人扱いされていたので、そんな変人教授が連れてきた謎の学生である私に対して、他の生徒や教授陣が向ける視線はとても冷たかった。
私にとって教授を除く数少ない理解者と言えばココの学長ぐらいだろうか。学長は教授とは親密な間柄だったようで、ほぼ裏口入学に等しい私の在籍が認められたのはひとえに学長のおかげだ。
しかしながら、瓦礫の積みあがった大学内でも人混みの中でも教授同様、学長の姿は見当たらない。
仕方ないので何があったかを聞く相手もいないままに私は教授の部屋の瓦礫をどけて、そこに教授が埋まっていないだろうか? と探す事にした。
積みあがった瓦礫の山をせっせとどけようとするが、私はハッキリ言ってペンより重い物など持ちたくない性分で、しかも空腹状態なのでなかなか体に力が入らず、瓦礫一つどけるのにも物凄い時間が掛かって、やっと一つ移動させ終わった事にはもう疲れ果て私は瓦礫の上に座り込んだ。
「はぁ、どうしてこんな事に……」
私はふと、瓦礫と瓦礫の間に挟まっている赤い表紙の本を見つけた。
それはまさしく教授が歴史書を書け、といって投げ渡した本でそういえば私は破いたページ数枚を受け取っただけで本自体は受け取っていなかったことを思い出す。
でも、その本は明らかにおかしかった。
なぜなら、引っ張り出したその本の表紙には「異世界人類史」と書かれていたから。
私はその名前を確かに今書いている歴史書の名前に決めたが、その事を誰にも話してはいない。本当は昨日教授に話すつもりだったのだが、話すよりも前に追い出されてしまっていたのだ。
何かが背筋をなぞる様な寒気に襲われた私はそっと、赤い表紙を捲ってみる。
私はそこに書かれている文字に目を丸くした。なにせ、その本の1ページ目には私が書いた文字が書かれているのだ。
焦るように鞄の中をガサゴソと漁り、中から私が書いたページを取り出す。
「あ、ある……。なのに、どうして……」
破られたページに書かれている内容と本に書かれている内容は全く同じもので、本には私が一昨日書いた「大陸と国について」と昨日書いた「天地創造について」までが書かれていた。
間違いない。これは私の字だし、一字一句同じものだ。
この本には何か特殊な魔術や魔法の類がかけられているのだろうか。
特殊な力を持った本はこの世にごまんと存在しているが、こんな物は少なくとも私は聞いたことがないし、そもそもこんな代物を作り出す魔法があるならば今現在、学術書や娯楽小説などで普及している写本に変わる大大大発明だ。
「一体、何なの……」
突如として降り注いだ疑問の嵐。
その一つにすら理解が追い付かない私は空をぼうっと眺めて、答えが降ってきてくれないだろうか、と願う事しかできなかった。




