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小瓶

 私は今日も大学に足を運び、今は長い廊下を通って教授の部屋に向かっている。


 部屋へと向かう今日の足取りは重い。何せ、私は教授にお金を借りなければならないから。

 教授は私の取って所謂恩人と言う奴なのだが、どうも怪しいというか、そもそも無担保無金利でお金を貸してくれる事だって、もしかしたら何か裏があるのかもしれない。


 そんな訳でできればあまり借金を増やしたくはないのだが、どうしても資料が欲しくなって、今朝ついつい新しい本を買ってしまった。

 どんな本かと言えば「かの神」と「人類創造」についての本。


 歴史書を書くに当たって始めの始めの部分だ。そう言いつつ、実際に執筆をした際に初めに書いた部分はこの大陸と国々についてだったが。

 ともかく、続きを書くにあたってどうしても必要だったので入手したのだが、おかげで私の懐は黒パン一個を買えないぐらいにスッカスカ。お金を借りないと明日まで生きていけるかも怪しい。


 そういう訳で私は教授の部屋の前に来ると、出来るだけ神妙な面持ちを作り、ドアをノックした。


 が、特に反応なし。


 教授が部屋の中に居る時は返事をしてくれるので、今は外出中なのだろうか。仕方がないので「こんにちは~」と一応挨拶をしつつ、部屋の中に入った。

 教授は史学者なのだが、部屋の中はよく分からないヘンテコな道具と本や書類だらけで、ここに大釜でも置いておけば錬金術師の工房と大差無くなるぐらいに荒れ放題だ――実際に錬金術師の工房になど行ったことは無いのだが。


 私は教授の部屋に入るとさっそく長椅子に鞄を置いて、部屋の中を漁ることにした。

 これだけ聞くとなんだか不法行為を働いている様に聞こえるかもしれないが、別にそういうわけではなく、単にこの積みあがった物の山から資料になりそうな物品を探す作業で、教授には予め許可はとっているので、全然やましい行為ではない。


 何かいい資料はないだろうかと、紙の山をかき分けて探すが、出てくるのは読めない文字で書かれた書類や真っ黒な謎の液体が入った小瓶などなど、どれも大して役に立たなそうなガラクタばかりだ。私はこんな場所に瓶が有っては転んでしまって危ない、と思い小瓶を拾い上げると教授の机に置いた。


 しかし、なんだろうか、この小瓶の中身は。私はなんだかその黒さに引き込まれるような魅力を感じて、机に置いたばかりだった小瓶を再度手に取って、じーっと観察してみる。

 瓶の中身はインクの様に真っ黒だけど、ドロッとしている。ラベルには相変わらず読めない謎の言葉が書かれている。

 そもそもなんで史学者の部屋にこんな物があるんだろう。こういうのは錬金術師の領分ではないのだろうか。


 もしかしたら、教授は何か怪しい組織に所属している黒魔術師なのかもしれない! なんて、冗談めかしく考えながら、黒い小瓶を眺めていると足音がしてドアが開いた。


「もう来ていたのか」


「教授の事を待ってたんですよ」


「ん? なんだ、その小瓶は」


 教授がドアの前からスタスタとそのローブを揺らしながら歩いてくると、例の小瓶を私の手から奪い去った。


「おい、これはどこにあったんだ」


 突然教授は私の事を責めるような強い口調で言うので、私の頭は混乱する。


「み、見つけたんですよ、その資料の山の中から」


 教授はこちらを何故か睨みつけているが、私はやましい事などしていないし、ましてその小瓶が何なのかすら分からないのだから、ただ言い訳をするようにここに落ちてたんです、と言うしかなかった。

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