第五話 三人と呪いの悪夢
#第五話 三人と呪いの悪夢
エイル様と街から帰ってから、念のため前子爵ご夫妻に事の顛末を話した。
「エイル、偉いぞ。でも過信しないようにな」
「エイル、偉いわ。今度ご褒美あげるわね」
ごほうび?骨とか?
ディナーではエイル様の勇姿を再度物語風に語り、お土産のカップを三人に買った事を報告した。
前子爵夫人は三人分ある事をとても嬉しそうにされる。
「あの、差し支えなければですが、三人になったのはいつ頃からでしょうか?」
「ああ、まだルークが子供の時からだから、十年は前かな?」
前子爵は思い出すようにおっしゃる。
「もしかして、それぞれ成長なさっている?」
「そうみたいね。最初にエイルが出て来た時はどうしようかと思ったわ。何しろ四歳児くらいになっちゃうから」
赤ん坊にまで戻らなくて良かった。とか思ってる場合じゃない。
これ、絶対にレイナード・オルブライト伯爵のせいじゃない!
「もしかして、事の元凶はレイナード・オルブライト伯爵なのでは?」
「ああ、さすがクロエ嬢、聡明ですな。儂らも長年調べた結果そう結論付けた事をほんの二、三日でたどり着くとは」
おっと!そう来たか。
「レイナード伯爵に言って魔法使いに解呪させればいいのでは?」
「そう。分かっている」
「クロエちゃんは誰か一人を選ぶとしたら、誰がいい?」
まあ、普通はルーク様だけど、この場にいるエイル様を持ち上げても悪くないわよね。
「例えば、今日のエイル様はとても格好良かったです」
「解呪したらもうエイルとは会えないの」
「困った事が起こらない限りはこのままでもいいと思ってるのだ」
そうでした。解呪とは誰かを選ぶのではなく、二人を消滅させる事なのだ。十年も一緒に暮らして来たのに。
「でも、私の父も商談で困っています」
「まあ、それはオルブライト家の問題だから。儂らはゆっくりでも問題ない」
そうでした。言われて言い返す事が出来ない。何より、私も二人がいなくなるのは寂しい。
「とりあえず、問題は先送りにしておきます。その代わりもっとステキな解決策がないかも探してみます」
その言葉にお二人はとても嬉しそうに微笑まれた。本当にルーク様もレオン様もエイル様も均等に愛されているのだ。
私は、連絡帳にレオン様とルーク様への引き継ぎ事項を書いた。
もしどうなったとしても、今だけは三人均等に扱ってあげたい。
エイル様のカップはディナーの後でお渡しして、ルーク様とレオン様の分は私の枕元に置いておいた。手渡ししたい。
私は夢の中にいた。
何故か分からないけど夢とすぐに分かった。
その証拠にゲストルームで寝ているはずなのに、天蓋の付いた豪華なベッドに脚を伸ばして座っている。
「クロエ」
ルーク様がお呼びになる。
「どうしたんですか?」
「待ちきれなくて出て来たんだよ」
どこから?
ルーク様は私の隣に腰掛けられる。布団が沈み、ルーク様に引き寄せられる。
なんか、手が回されて抱き寄せられてる気がするんですけど!!
「あの、ルーク様、ちょっと気が早いですよ。私まだルーク様の事よく知らないし」
「ずっと見ていた。レオンの時も、エイルの時も。悔しくてたまらない。このままあいつらのものになるなら、今すぐ私のものにしたい」
なるほど、表に出てきてない時はちゃんと裏から見てるのね。あのノートは他の人に見せるパフォーマンスか。ってそんな事気にしてる場合じゃない!
ルーク様はそのまま顔を近付けてくる。ヤバい!
後ろに倒れて逃げようとするけれど、もちろんベッドに寝ただけで状況は絶望的。
上に覆い被さられ、もう覚悟を決めた。お母さま、こんなよく分からない人を夫として紹介する親不孝をお許しください。
目を閉じた。ま、ルーク様イケメンだしね。ただ三日に一度しか会えないだけ。イケメン、イケメン。
「ばいーーーーんっ」
なに?なになに?
目を開けると、ルーク様が白目を剥いて突っ伏していた。
「ちーちゃん、大丈夫?」
エイル様がフライパンを持って息荒く頬を膨らませている。
ルーク様をどかせようと頑張るけれど重い!
「だい、じょうぶじゃない!」
ジタバタもがいてると不意に重たさがなくなった。どこから現れたのかレオン様がルーク様を持ち上げてくれる。
「クロ、大丈夫か?」
「レオン様ありがとうございます、助かりました」
「全く、ルークのやつ。抜け駆けしないと約束したのに」
そんな約束が。それより気になる事が。
「もしかして、夢の中では三人とも自由に動けるんですか?」
「ああ、夢の中でならな。だからクロの事を起きてる時も寝ている時も愛する事が出来る」
ななな、なんて事を恥ずかしげもなく。
「あ、そっちは三日に一度しか出てこないけど、私は毎日起きてる時も寝てる時もじゃないですか!死んじゃうんでやめてください!」
あれ?気にするべきはそこだっけ?
「むう、そう言われると仕方ない。でもいつでも呼んでくれていいぞ」
呪いの悪夢はこうして回避された。
翌朝ルーク様が挨拶をされたのだけど、私は頬を膨らませてそっぽを向いた。
「なんだ、喧嘩でもしたのか?」
前子爵がおっしゃる。
「夢の中でルーク様に酷い事をされたんです」
「まあまあクロエちゃん、何をされたの?」
しまった。つい本当だけど誤解を産む表現になった。
「いえ、何でもありません。ルーク様、反省してくださいね!」
何だかルーク様もエイル様のように伏せ耳が見える気がする。
朝食を済ませてゆっくりしているとお父さまがやって来た。取引の話だ。
「お久しぶりですヴェルナー殿。早速ですが解呪ですが糸口さえ見つけられません。ほうぼうを当たったのですが」
「いえ、お気になさらずに。それより取引の方を」
「クロエ、解呪の儀式は試して見たか?」
「知りません!」
「おいおいどうした?」
「ルーク様にお聞きください」
「・・・もしかして、クロエの気持ちを無視して無理やりしようとした?」
「いや、すみません。何も出来ないのがもどかしくて、奪われると思い」
「さすがに相手の事を考えられないようではクロエも拒否しますよ。反省してください」
「本当に、面目ない」
「解呪まで一歩後退ですな、はっはっはっ」
もう、お父さまは楽しんでる。
お父さまとルーク様は私をだしにして和やかな雰囲気で打ち合わせが始まり、その内私の事などいないかのように議論に夢中になってしまったのでその場を去った。
庭園でお茶を飲みながらお三方の事を考える。呪いが解かれた時、やはり前子爵夫妻は息子を二人同時に失った気持ちになってしまわれる。
それに、武官として重用されているレオン様がいなくなりバタバタとするのだろう。
やっぱり答えが出せないまま邸に入る。
そう言えばルーク様にはまだお土産を渡してなかったと思い、部屋に戻り箱から出した。
折角だからとキッキンに向かいこのカップでお茶をお出しするようにお願いした。
ゲストサロンに入ると、ルーク様とお父さまはまだあれこれ話されている。
「お二方とも、そんなに根詰めないで少し休憩なさったらどうです?そろそろお茶が来ますわ」
ちょうどよいタイミングで執事がノックして入って来る。
ルーク様はご自分の前に置かれたカップを一目見て理解したらしい。
「ああ、これは昨日買って来てくれたカップ、クロエありがとう」
「ん?解呪が出来たという事ですかな?」
お父さまは昨日、という言葉に反応される。
「いいえお父さま、私はまだそんな事していません」
「ならどうして?」
「夢の中なら少しお話が出来るので」
「でかした!ではクロエ、夢の中で話を聞いておいてくれ」
打ち合わせが終わるとお父さまは当たり前のように私を置いて帰ってしまった。




