第三話 三人の呪い
#第三話 三人の呪い
何故か私はお父さまと一緒に馬車に乗っていた。
呪いの館は嫌だと言ったのに、商談に有利になるからといつの間にか乗せられた。
何しろ呪われたルーク様、レオン様、エイル様の三人共が私に手紙を出して来たのだ。これを利用しない手はない、とお父さまはおっしゃる。
ルヴァン邸に着くと、今日はルーク様と執事だけしかいない。
いや、そもそも子爵自ら出迎えに出て来るってどういう事かしら?
ま、呪いのせいで打ち合わせが翌日に順延になったのだから仕方ないか。
「初めまして、ルーク・ルヴァンです」
「バーナード・オルダン子爵です。こちらは娘のクロエです」
雑な紹介だった。まあ、ルーク様とは既にお会いしているからいいけれど。無言で微笑みスカートを摘んでそっと膝を曲げた。
商談は色々と難しい用語が飛び交い、私には理解出来なかった。正確には理解する気もなかった。
お父さまもルーク様も私の事など全く気にする様子もなかったので、いっそ来なければ良かったと後悔した。
地図をあちこち指し示したり、表の数字の差を二本の指で表現したり、とにかく二人は仲良く議論を続け、そうして終わらなかった。
「明日はオルダン家の宿題を持って来ますので、続きはその時に」
お父さまはルーク様の悲しそうな顔を見て困った顔をされた。
「そうか、呪いとは厄介なものですな。所で、呪いはどうすれば解けるんですかな?」
お父さまに言われてルーク様が顎に手を当てて考えるふりをされる。考えても分かる問題じゃないしね。
「分かりません」
ルーク様はさっぱり、という風に両手を左右に広げられた。お手上げとか匙を投げるとかそんな風なジェスチャーだ。
「呪いと言えば美女の口づけか?クロエ、ちょっと試してみなさい」
何でもない事を試すかのような口ぶりで恐ろしくなる。
「ななな何言ってるんですかお父さま、乙女の純潔を!」
「だってお前、それで商談が進むならいいだろう」
いや、私の気持ちはどうなるのよ!!
「ダメです!」
「そうか」
お父さまは悲しい顔をされる。
ルーク様も悲しい顔をされる。
私だけが頬を膨らませて怒っていた。
翌日、ルヴァン邸に到着すると、レオン様が立ってらっしゃる。
「お父さま、レオン様です」
「せめて記憶が共有されていればなあ」
お父さまは気にされる所を間違っている。
「初めまして、バーナード・オルダンです」
なんか受け入れて挨拶を交わされるところも嫌だ。
「レオン・ルヴァンです。クロエ嬢を連れて来て頂けるとは、求婚を受け入れて頂けるという事ですかな?」
「昨日の宿題を持参した次第です。とにかくここではなんですから、家の中に入れてください」
お父さま、図々しい。けれどレオン様の強引な申し出をスルーするにはその強引さが頼もしい。
「たしか、ルーク様とは連絡ノートで大事な事をやりとりされているとか、見せていただきたいのですが」
お父さまは妙な所で鋭い。
「しばしお待ちを」
言ってレオン様は席を外された。
「呪いって大変ですね」
「ああ、どうにかして元に戻って欲しい。なあクロエ、一度だけでいいので試してみてくれんか?」
「嫌です」
「ルーク様でもレオン様でもエイル様でもいい。気に入った一人と」
ガチャッ
ドアが開く。
なんか、聞かれた?
「これは失礼。聞いてはまずいお話がつい聞こえてしまいました。三人で悩むなら是非私レオンをお選びください」
レオン様は私の前に片膝を付け、手を胸の前にして上半身を折られる。
「ちちち、違います」
「あ、連絡ノートを持っていただけました?テーブルに広げて一緒に見てもよいですかな?」
お父さまの言葉にレオン様は椅子に座り直し、ノートを広げた。
「クロエが会いに来てくれた。嬉しい。オルダン子爵の気分を害さない事」
なにこれ?
「これは、どういう事ですかな?」
お父さまは困惑して、レオン様に尋ねられたけれど、多分分かっている。三日待てば再び自分の番だから、わざわざ連絡しないのだ。
ひったくるようにして前の頁をめくる。
「ちーちゃんが来てくれた。嬉しい。また会えるといいな」
お父さまの顔に決心の表情が浮かんだ。
「さて、私はまた日を改めます。クロエを置いていきますので、どうかよろしくお願いします」
「お父さま、何言ってるの!」
「もう、呪いを解くしか方法がないんだよ。しばらくお世話になりなさい。それで気に入れば解呪の儀式を試してみればいい」
「嫌です!!」
「頼む。今こんな事いうのは卑怯かも知れんが、この商談を早く進めないと我がオルダン家の存続も危うい。それなのに予定の三倍も時間が掛かってしまうと間に合わない」
お父さまはずるい。子爵家の存亡を娘に託すなんて。
「呪いを解く手掛かりを探してみる」
お父さまはそう言って馬車に乗り走り去ってしまった。
レオン様は庭園にお茶を用意してくださり、少し頭を冷やす事にした。
そもそもいつから呪われてるの?皆にはちゃんと見えるのかしら?
だってルーク様はスラっとしてるのに、レオン様は鍛えられた感じ、エイル様は幼いし耳もしっぽも見える。
執事がお茶のお代わりを持って来た時に聞いてみた。
「ねえ、ルーク様とレオン様って見た目も違うわよね?」
「ええ、そうですな。呪いの力とは恐ろしいですな」
まあ、恐ろしいような、そうでもないような。ただ不便なだけって気もするけれど。
「エイル様には、その、耳とかしっぽは見える?」
「いいえ、そのようなものは見えません」
じゃあ、じゃあ耳としっぽは私の願望なの!?
「でもでも、エイル様は私より二、三才若く見えますよね?」
「ええ、そのように見えます。若い弟様がお好みですか?」
あれ?ちょっと勘違いされてる?
「いえ、呪いの原因を調べようと思って」
「なるほど、ではレオン様をお連れします」
この執事もさっきから少しずつ質問の回答がずれてると思ってたけど、ちょっと呪いに掛かってるんじゃないの!?
「クロ、何か用かな?」
ん?クロ?何か勝手に愛称が出来てる?
「いえ、呪いの色々を調べてるんですけれど、それよりそのクロ、というのはなんですか?」
「クロエだからクロだ。いいだろう?」
やっぱり勝手に愛称が出来てる。ストレートなのはいいけど、少々強引。
「よくありません。レオン様とはまだ二回しかお会いしていません」
「仕方ない。ではクロエ嬢、何か用かな?」
あ、言えばきちんと引き下がるのね。ならそんなに積極的な距離の詰め方しなくてもいいのに。
「気になっている事があるのです。日替わりでコロコロ入れ替わるのなら、ルーク様以外はお仕事はどうされてるんですか?」
「ああ、ルークは文官として伯爵家を支えている。私は武官として伯爵家を支えている。エイルは子供の世話と見た目を利用して交渉の場の盛り上げ役を仰せ使ってる」
「え?三人とも普通に働いてるって事ですか?」
びっくりした。
てっきり三日に一度しか働かないものだと。
ここで大事な事を思い出した。
ミラがちゃんと言ってたじゃない。
レイナード・オルブライト伯爵は子供の頃からルーク・ルヴァン子爵と仲が良くて、何故だか呪いを掛けたって。
「原因はレイナード様よ!」




