第二話 三人からの手紙
#第二話 三人からの手紙
執事から受け取った三通の手紙を机の上並べてみた。夜会で出会った方達はほとんどレイナード伯爵への挨拶がてら私にも挨拶をして来た方達。
て事はこの三通は一目惚れ?
とにかく、確かめないと。
机の上から手紙を拾って裏返す。
差出人はルーク・ルヴァン子爵。
あ、ミラとレイナード伯爵と四人で会ったあの方?
手紙を開く。
親愛なるクロエ
夜会での交流、とても楽しかった。
貴女の事をもっと知りたい、そして私の事ももっと知って欲しい。
またお会いしたい。
ルーク・ルヴァン
まあ、まあまあ。
一日お会いしただけだもの。その後は結局お会いする事も叶わず、思い出して保険に出した?
さ、次。次は……あのワンコ!
親愛なるクロエ姉さま
僕、姉さまと一緒にいられて楽しかったよ。
またお会いしたいなー。
エイル・ルヴァン
分かる。あの懐き方、警戒心ゼロの仔犬だものね。けれど、どうしてかしら。お二人ともルヴァン子爵家の子息なのね。
とりあえず次。
最後の一通も恐れていた事が起きた。
親愛なるクロエ様
一目惚れというものは物語の中だけの都合のよい作り話かと思っていたのですが、この身に起こるとは思ってもみませんでした。
名前は知っていても、その姿を直接見た時にピンと来たのです。
貴女しかいない。
私と結婚してください。
レオン・ルヴァン
夜会で出会ったお三人方はいずれもルヴァン子爵家のご子息だった。
なんという偶然でしょう。これはミラに話さないと、思っているとミラがやって来た。
部屋のドアがノックされる。
「ミラ様がお越しです」
「入って」
私の方も変な事になったけれど、ミラの方も気になる。いきなり伯爵様と仲良くなるなんて。
「クロエ、聞いてよ」
その目が潤んでいる。だから言ったのに。伯爵なんて既に婚約者がいるって。あれ?言ってなかったっけ?
「どうしたの?」
「レイナード様には婚約者がいるんですって。しかも正妃の他にも何人もの妃候補がいらっしゃるって。二人の時間を楽しむ間柄なら歓迎だ、とおっしゃられて」
「つまり遊ぶ相手が欲しいって事ね。男なんてそんなものよ。諦めてちゃんとした相手を探しなさいよ」
ミラは切り替えが早い。私の胸に顔を埋めてないていたかと思ったのに、既に顔をあげて両手に拳を握り空中の見えない伯爵を殴り付けている。
「しばらくはこりごりよ。とこででクロエの方はどうなったの?」
私は手紙をミラに渡した。差出人を見て驚き、中身を見て呆れたような顔をした。
「私の方もダメだったけど、クロエの方もダメね」
ん?ダメってなんでだろう?少なくともミラよりもマシよ?
「どういう事?」
「ルヴァン子爵には呪いが掛かってるんだって。伯爵がそう言ってた」
ミラの言い方。もう尊敬すべき、敬愛すべき相手ではなくなったからって、「言ってた」はない。
「どんな呪い?」
「さあ、よく分からないけれど、レイナード伯爵は子供の頃からルーク・ルヴァン子爵子息と仲がよくて、お遊びで魔女に何かお願いしたらしいの」
「え?魔女に?しかも魔女はそれを実行したの?」
「みたいね。だからやめといた方がいいわよ」
さらりととても失礼な事を言う。ルーク様本人が聞いたら怒るし悲しむよ。
「そっかー、じゃあパスかなあ。ルーク様はちょっと格好良かったけど三人兄弟なのも賑やかすぎるわよね」
「え、そうなの?気に入ったのなら返事しちゃいなさいよ。手紙のやりとりで気に入るかもしれないじゃない」
ミラに前向きに説得され、私は三人に返事を出した。ルーク様合格、レオン様不合格、エイルお座り!とは書けずマーブル色に混ぜた返事にした。
何故か私はお父さまと一緒に馬車に乗っていた。
夜会での商談があるという話、実はお相手はルヴァン子爵の事でした。
「お父さま、内緒にしてたわけではないのですが、実はルヴァン子爵から手紙を頂いてしまいました。それと、弟様だと思われるお二人方からも」
「何!?何故早く言わん」
「それは、お父さまがどこへ行くとも言わずに馬車に乗せるからですわ」
「……それはすまない。まあ何だ、商談を見て気に入れば色よい返事をすればいい、わはは」
お父さまは適当だ。適当なお父さまを見て育ったから私は真面目に育ったのだろうか?
ルヴァン子爵邸に着くと、出迎えは退位した前子爵夫妻と執事、それと仔犬(のような男の子)だった。
「わざわざご足労頂き感謝致します」
前子爵が口を開く。
「あ、チーちゃん」
「エイル様ごきげんよう。チーではございませんわ?」
「ああ、この方が弟君かな?さて、ルヴァン子爵はいずこですかな?」
「大変申し訳ないのですが現在不在でして。理由は中に入ってどうぞ」
仔犬はもう私をすっかり気に入ってしまい、腕に絡み付いている。
ルヴァン子爵邸のゲストサロンに招かれ、お茶が整うまで前子爵は目を瞑って何か考え事をしているようだった。
「クロエ、c, h, l, o, eですのよ」
仔犬に諭すように言う。
「c, h, i, e、ちーちゃん」
最初の二文字しか合っていない。なのにお父さまは気に入ったらしくにこにこしている。
「ちーちゃんか。これはいいな」
何が?と言いたいのを我慢するまでもなくお茶が揃った。
「さて、早速ですがルヴァン子爵はわが息子ルークに継承済です」
「ルーク様ですね。夜会では相手のいない私に気を使って頂きありがとうございます」
いない人に向かってお礼を言うのも変かと思ったけれど、まあいい。
「この子はエイル、と呼んでいますが、ルークです」
ん?どういう事?
「ん?どういう事ですかな?」
親子だから反応が同じなんじゃない。普通はこの反応しかない。
「それともう一人、レオンと名乗る者もいるはずです」
「そう言えば、ルーク様、エイル様、レオン様それぞれにお会いした事があります」
「それは話が早い」
いや、早くないってば。
「我がルヴァン家は呪われております」
ん?ミラに聞いた話?
「悪い魔法使いに呪いを掛けられ、三人が交代で現れるようになってしまいました」
お父さまは口をあんぐりと開けたまま何も言えずにいるので代わりに私が尋ねる。
「中身はどうなのでしょう?」
「中身も三人おります。それぞれ記憶は共有していないので、今は日々連絡用のノートに大事な事を書いているありさまです」
三人って事は三日に一日しか自分じゃないのか。自分の知らない所で色々進むのは怖い。
「え、でも子爵としての公務はどうなさってるんですか?」
「色々と調整をしていますし、レイナード様はご存知ですので、融通を利かせていただいております」
ミラの話だと、レイナード伯爵が魔法使いに頼んだとか言ってたけど。
「それで、ルーク様の出番はいつですかな?」
!!!
お父さま、もう受け入れちゃったの?
「ああ、ルーク、レオン、エイルの順番で出て来ますので明日になります」
「なるほど、では明日改めてお窺いします。クロエ、お前は泊めていただきなさい」
ん?何故?
「実は御三方からそれぞれ手紙を頂いたようなんですよ。さすがにいきなり嫁にやるわけにはいきませんが、話し合うにもそばにいた方が何かと便利だろう」
お父さま、ちょっとおかしい!
「いえ、私枕が替わると寝られないものですから、本日のところは」
危なく恐ろしい呪いの館に閉じ込められるところだったけれど、私は帰宅に着く馬車に乗った。




