第一話 三人との出会い
#第一話 三人との出会い
昔々あるところに魔女がおりました。
魔女は大金を貰ってある子爵を不幸にする呪いを掛けました。
「いっけなーい、遅刻遅刻ー!」
今日から一週間続く夜会だというのにドレスと髪型とアクセサリーと靴と持っていくハンドバッグが全く決まらないの!
コンコン!
「クロエ、入るわよ」
ガチャ!
「まるで自分の部屋みたいに!それよりミラ、助けて。何も決まってないの!」
「あー、いつもの状態ね。任せて。これとこれとこれとこれ」
ものの数秒でワンセット用意してくれた。
「髪はふんわりとして上品な感じにね」
侍女にもそう指示を出す。ミラは悩む事がない。
しかも長年の付き合いから、私があれこれ悩むよりもミラに任せておけば大丈夫!
そういうミラの方こそいつもと代わり映えしない。
「ミラはいつもと同じ感じね」
「そうよ、クロエは日替わりで色んなイメージを見せる。私は同じ感じで印象付ける。ちょっと王子様になってみてよ」
ミラと私は時々自分達のイメージを確認するように役になりきってみる。
「ああ、ミラ嬢はいつもその青いドレスで見つけやすい」
「これは皆に見せる用のドレスです。他のドレスは王子様だけにお見せしたいのです」
トクン
「ミラ嬢!」
ミラを抱きしめた。きゃー、この娘は男を惑わす小悪魔よ。
お父さまとお母さまは既に会場に行ってらして、夜会の前に色々商談をなさるのだとか。
ミラと一緒に馬車に乗り会場に向かう。
「近々伯爵様が代替わりなさるそうで、子爵家も替わる所が結構あるみたいね」
聞きかじりの知識をミラに言うと、ミラは既に承知していて、大物を釣ろうと画策してる。
「伯爵様とお知り合いになる絶好の機会よ。他はどうでもいいの。分かった?」
「う、うん」
ミラの気迫に押されてしまう。
伯爵様かあ、きっともうステキな婚約者がいらっしゃると思うなあ。
会場は既に人がいっぱいで、ミラは私を置いて伯爵様を探しに行ってしまった。
私はお父さまとお母さまを探して会場を歩いた。
色々な方がご挨拶にいらっしゃるので、立ってるだけで知り合いになれるからだ。
所がお父さまとお母さまがどこにいるか分からないので結局会場をうろつく事になってしまった。
(あれ?これ迷子?)
ステキな男性と出会う事を目的とした場でそのスタートラインに立てない所が私だ。
テーブルを囲む人をかき分け、少し壁際に避難しようとしたら後ろを見ない男性にぶつかった。
「痛ったあ!」
向こうはビクともしないのに、顔をぶつけたせいでその場でうずくまりたくなる。
けれど、その大きな障害物は私を掴まえてうずくまる事が出来ない。かろうじて手で顔を覆う。
「すまない、大丈夫か?」
ん?これ、抱きしめられてる?
そうっと見上げる。深い澄んだ藍色の青い髪。まつ毛も同じ色で鼻筋が通って薄い唇。
それが見下ろしてた。
きゃーーーーーーっイケメンよ!
「クロエ!」
声のする方向を見るとテーブルの向かいにミラがいて、私と男性を微笑ましげに見ている。
「ルーク、いつまで抱いてるつもりだ?」
ミラの隣の男性がそう言う。
「レイナード様、これは抱いているわけではなく支えているだけです」
あれ?もしかしてレイナード・オルブライト伯爵?
ミラの素早さに関心しながらさすがにいつまでも抱きつくわけにいかずルーク様から離れた。
「すみません、ぶつかっておきながら助けていただき。私はクロエ・オルダン子爵令嬢でございます」
「こちらこそ、周りをよく見ず下がり申し訳ない。ルーク・ルヴァン子爵です」
「ところでクロエ嬢はどこへ行こうとしたのだ?」
レイナード様が言う。
「顔を売ろうとオルダン子爵夫妻の横に立っているつもりだと思いますわ。オルブライト伯爵」
さすがミラ、私の魂胆もお見通しだ。てかやっぱり伯爵だったのね。重ね重ねすごい。
「ならばここにいるが良い、私に顔見せに来る貴族は幾らでもいる」
ありがたやー。
私は同じテーブルに混ぜてもらう事にした。クロエがいるので心強い。伯爵様もルヴァン子爵とも気さくに話せる。
そして伯爵様の言葉通り、会話を遮るように新しく子爵になる方が次々とご挨拶にいらっしゃる。
ご挨拶に来られる方が花を一輪持って来てくださる。
一輪、気が利かない方ばかり。私とミラを見比べて渡す方を決めてる。
ミラ、私、ミラ、私、私、ミラ、ミラ、私、私、私、私、私。
花が増える毎に何故かルヴァン子爵の機嫌が悪くなる気がする。
きっと伯爵様の隣のミラに渡さない気が利かない人たちに怒ってらっしゃるのだわ。
「ルーク、クロエ嬢はお前のものではないぞ。花を渡されるのが嫌なら後ろに隠しておけ」
「レイナード様、それではまるで私がクロエ嬢に気があるみたいじゃないですか」
「一目惚れというやつか。それとも魔女の呪いか。はっはっはっ」
ルヴァン子爵は何も言い返せず、その代わりに私の後ろに立たれ、花を差し出す貴族に威嚇していた。
夜も更けてくると、まだ小娘の私たちは帰宅の時間だ。
伯爵様とルヴァン子爵に今夜はそろそろ帰ると告げる。
「是非また会いたいものだ。我は多忙という事になっており、最終日しか来られないがな」
伯爵様は多忙ではないらしい。
「では私が心休めるひと時をご一緒しましょう」
ミラ、恐ろしい娘。しれっと伯爵を誘う。
「クロエ嬢は次はいつ来られるのか?」
子爵は気を利かせてそう聞いてくださる。
「お父さまとお母さまに毎日はダメと言われているので、明後日です」
私が正直に言うと子爵はなにか思案されている風だった。
翌々日
再び夜会へ馬車を走らせる。
今回はミラは来なかったけど既に伯爵様と何かあったりして。きゃー。
今日のコーディネートは少し大人しめのしっかりした雰囲気の格好。
伯爵様のそばにいる時に色々声を掛けて戴いたけれど、結局オマケだから何度か挨拶を交わさないと覚えてもらえないに決まっている。
会場に着くと今回は予めお父さまとお母さまがいらっしゃる場所を確認しておいたのでまっすぐに向かう。
ドスッ!!
私は後ろから暴漢に襲われて倒れた。
「きゃーっ!」
どこかの令嬢が叫ぶ。護衛が駆け付け、賊を取り押さえる。ゆっくりと顔を上げると私より幼い男の子だった。
落ち着いた新緑の髪に光の加減でエメラルドグリーンにも見える茶色とグリーンの瞳、それに犬のような耳。あ、しっぽ振ってる。
・・・。
「クロエ!」
犬に名前で呼ばれる筋合いはない。
立ち上がり服の汚れを払う。
「お知り合いですか?」
護衛が私に言う。
ん?まず、耳としっぽを優先しなさいよ。
「知りません」
「きゅーん」
どうしたどうした?飼い主と間違えてるのか?
「今、お姉ちゃんとおっしゃいましたが?」
きゅーん、だったでしょ。あれ?皆には普通の人間に見えるの?
私は耳を掴んで引っ張りあげた。犬は嬉しそうにパタパタとしっぽを振る。
「やはり、お知り合いですか?公衆の面前で異性の髪を触るなど他人ではあり得ませんからね」
なるほど、他の人には普通の人間に見えるのか。これが魔法ってやつか。
「お名前は?」
「エイル!」
やっぱり知らない。どうしたものか考えたが、別室に連れて行き閉じ込めておく事にした。
「ここはたくさんの人の迷惑になるから、向こうにいきましょうね」
私の周りをぐるぐる周りながら付いて来る。
「わーい」
「お静かにね」
「わーい、わーい」
全く聞いていない。
バカ犬。
別室に移動し、一度ソファに腰掛けた。当たり前のようにすぐ隣にピタリと寄り添って座り、すんすんと匂いを嗅ぎだす。
この距離感、結構怖くない?まだ幼いとはいえ、変態よ。ヘンタイ!
「ところで、あなたのフルネームは?」
「エイル!お姉ちゃん好き!」
家名を聞いたのだけど。
「そう、エイルね。おうちの人はどうしたの?」
「じいやと来た!」
「じいやはどうしたの?」
「じいやは疲れて休憩してるよ?」
そりゃあそうだろう。このテンションで来られたら年寄りにはつらい。
私はじいやが迎えに来るまで、このバカ犬、もとい子犬と戯れた。
子犬はじいやに連れていかれる時、さびしそうに『きゅーん』と鳴いた。
更に翌々日
本当は碌な出会いがないからやめておこうかと思ったのだけど折角ミラが今日の分もコーディネイトしてくれたので行く事にした。
少し子供っぽく見える服。ミラ曰く、庇護欲を掻き立てられるようにだって。
「ミラ、伯爵様とはどうなったの?」
「ふふふ、知りたい?」
「知りたーい」
「子供にはまだ早いわ」
「!!!」
もう、そんな、ミラが、駆け足で大人になって行く。きゃー!
ミラは相変わらず会場に着くと伯爵様の元へ行ってしまうし私はお父さまとお母さまのところへ向かう。
「オルダン子爵のご令嬢」
目の前に一人の男性が立っていた。もちろん知り合いではない。
赤黒くウエーブがかった髪。フロックコートの下に覗くベストが少し盛り上がっている。軍人の方かしら?
「はい、そうですけど、どなた、ですか?」
「申し遅れました、俺、私はレオン・ルヴァン子爵、です」
「どこかでお会いしました?」
「いえ、初めてです、けれどあなたのお話は伺っております。是非お会いしたいと思っていました」
「それは光栄な事ですわ」
近くのテーブルを陣取ってレオン様と話をしていると何人もの貴族が訪れて私にご挨拶をされる。
伯爵様のそばにいた女として認識されているみたい。
期待以上の効果だ。伯爵様、ミラ、ありがとう。
そして今日はテーブルに女性は一人だけなので皆が一輪ずつ花をくれる。
そろそろ帰る時間になり、ルヴァン子爵にお伝えすると今までいただいた花をまとめて花束にしてくれた。
「今宵の記念に。色々な男が貴女に花を捧げて来たが、私の想いはこれくらい大きい」
いやあ、初めて会ったお方にこんなに想われるとは、多分この方は誰かとお間違いなのだろう。
ありがたく頂戴する事にした。
昔々あるところに魔女がおりました。
魔女は子爵を不幸にする恐ろしい呪いを掛けました。




