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睨み合い それも敵の見えない

◆◇◆◇◆


『ッグ』

「…!?」


『ふぅ』

「何だ、ゲップか…」


 苦しそうな声に飛び起きたものの大事ない様子にホッと胸を撫で下ろす。俺は寝かされていたであろうソファーから身体を起こし、惚ける頭で記憶を探る


 ここは王様の寝室だ。そのまま拘束されたのだろう。何分、いや、何時間寝ていたのであろうか。聞こえる穏やかな寝息ばかりが安堵の材料になる。今度は失敗しなかった様だ


 それにしてもなんて部屋だ。でかい窓、広い部屋、豪奢な天蓋付きベッドや家具の数々───そのどれもが清潔に保たれている


「(清掃担当の人がMVPだな)」


 首が痛い、寝違えたかな



 程なくして、周りに何人か集まっていた。全員、横たわる王様を安堵の面持ちで眺めている


 ベッドにすがりつき、横たわる王の手を握りしめる少女。その傍らで涙をこらえて椅子に座る女性、鎮痛な面持ちで佇む灰色のローブを着た老人、黄金の錫杖を持っている目を伏せる翡翠色の髪をした女性、怒りに肩を震わせる軍服をまとった俺を静止したデクも居た


『兄上の容態は』

『今はゆっくりとお休みになられています』


 そのとき、かすれるような声で王様が口を開いた


『アル…』

『兄上!』


『ミスミド…王国との同盟は?』

『今は、こう着状態だ』


 同盟の話が少しばかり雲行きの怪しい物になっている様だ。無理もない王様がワインを飲んだ直後に体調を崩したのだから


『ならば、急ぎ無事を…』

『陛下、安静に…』


 灰色のローブを着た老人が王様の手を取り、脈を測ったり、眼を覗き込んだりしている。あいつが医者か。なるほど


「白々しいな」


 何故あの場にいなかったのか問い詰めてやらないと、そんな敵意を向けてしまい、ソファーに腰掛ける俺に皆の視線が集まる


『アル…アルフレッド。あの者は』

『我が娘の恩人フジノミヤ殿です』


『何故拘束しておる』

『兄上にナイフを突き立てました

 恩人といえどそれは見過ごせません』


『そこの者、近づいてまいれ』

「…(俺?)」


 俺は王様に近づく


『正直に答えよ。此度の毒殺は

 お主が企てたものか?』


 えっと、計画、毒、相手を指す言葉


「…誓ってその様なことは」


 慎重に言葉を解いていく、失敗すれば首が飛びかねない雰囲気だ。毒殺の犯人か?ってことだろう。な訳ないが真偽が定かではない今、溜飲を下げる最も単純な方法は俺への処分だろう


 我慢するしかないか、弁解の余地はない。この場における俺の発言力は王様ありきのものだ。彼が死刑といえば死刑になるアリの様な存在だ。祈るしかない


 そんなことを考えていると王様の視線が俺から外れた


「?」

『では何故ナイフを突き立てた』


 ナイフ、刺す、疑問の投げ掛け


「毒を盛られたのは確かなので

 それを取り除くのに

 あの手段の他にありませんでした」


 他にもあるにはあった。吐き出させる方法もあったものの症状から見て吐き出しが不完全に終わる危険性があった。もし吐き出すのに失敗すれば被害の拡大は免れなかった


 そんなことを考えていると再び王様の視線が俺から外れた。さっきから何だろうか


『此度の件は不問とする』

「(ヤバいな、習ってない言葉が多くなってる)」


 スマホを大広間に残してしまっている。王様の発言の断片的な内容しか分からず困惑していると突然背中を叩かれた


『よくぞ陛下を救ってくれた』


 デクが俺を叩いていた


「え?何何々」

『将軍、そのへんで

 しかし、興味深いですわね』


 え?何?どういうこと


『兄上、それで

 ミスミド王国の大使についてですが…』

『大使がどうした?』


『兄上暗殺の首謀者としてバルサ伯爵に

 拘束されております。いかがいたしましょう?』

『馬鹿な!ミスミドが私を殺してなんの得がある! これは私を邪魔に思う別の者の犯行だ!』


 えぇ、何いきなり"バッチバチ"じゃん公爵何したの


『しかし事実、大使から贈られたワインを飲んで

 陛下はお倒れになられた。その現場を多くの者が

 見ております。その容疑が消えない限りは』

『ううむ』


 何だろう?凄く気になるけど、小さくて聞き取れない


『どんな毒が使われたのか、それさえ

 分からなかったのです。獣人が使う

 特殊な毒かもしれません

 まずはそれを調べませんと…』


 医者の老人が何か言ったが亜人と毒について話しているのだろうか


『とりあえず大使に会おう

 呼んできてくれ、レオン将軍』

『はっ』


 デクが足早に部屋を出て行った。いや、困ったな。皆んな大丈夫かな…


『あの…』


 おずおずと声がかけられた。渦中の中での蚊帳の外とはこれ如何に、なんて馬鹿なことを考えていると黄金の錫杖を持った女性が声を掛けてきた


 年の頃は12、3くらいだろうか。白く柔らかみのあるドレスを着て、頭には銀の髪飾りを乗せている。金髪と大きな瞳───この場にいて金髪、王様か公爵の子だろうか


 自暴自棄になりかけている思考を続けるも声をかけられた後に彼女は何を話すわけでもなく、俺を眺めるばかりだった


「…?」

『…』


 静寂の中、無意識のうちに彼女の顔を見返していた。左右で瞳の色が違うことに気がついた右が碧、左が翠。宝石の様な見た目の一対が俺を映していた


『お父様を助けていただき

 ありがとうございました』


 深々と頭を下げられた


「えっと、ありがとう?」


 不味い、スマホを回収しなければ発言力がない、誤魔化すように俺は笑顔を浮かべた。誰かに頼んで光る箱を回収して貰わなければ


「…あの、何でしょうか?」


 俺の方を見つめ続けている彼女、何か質問をされたのだろうか。俺は何もできず、ただ見つめ返す


 そうして彼女は小さく口を開いた


『年下はお嫌いですか?』

「…」


 年齢、下、嫌いの疑問投げ掛け?質問の意図が分からない。困惑していると扉が開かれ、デクとそれに続いて、亜人の女性が入室してきた


『オリガ・ストランド、参りましてございます』



 ひと呼吸をおいてリンゼさんが部屋に入ってきた。その手には炭と水の入ったボトルを持っていた


『フジノミヤさん…』

「リンゼさん、ありがとう…」


 リンゼさんに頼んで良かった。と考えていると思いっきり抱きつかれた。炭や水のボトルは机に置かれており、一連の動作の速さはエルゼさんを凌駕していた


「リンゼさん?」

『良かった…本当に良かった』

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