俺ができる最善手・1/2
◆◇◆◇◆
『私は何も』
『黙れ!獣人風情が!』
『穢らわしい混血め』
「退け!邪魔だ!退け!」
玉座の傍らに倒れ伏す王様の顔色は蒼白を通り越し、まるで蝋人形のように生気を失っており、猶予はそれ程ない様に見られた
「王様!」
『おい貴様!何を』
一頭ガタイのいいだけのデクに肩を掴まれた。試飲すらしなかったのは誰だ。なんで俺が必死になってんだ。俺に向けられる訳のわからない期待などが今、積み重なり続けた結果。接近を拒むデクの腕を振り払い、怒りのまま俺は吠えた
「外野は黙ってろよ」
『…っ』
どいつもこいつも馬鹿みたいにひとりに警戒しやがって、そんなんだったら唯一の出口を見張ってろ、クソが
『お退きなさい貴方達』
『スゥ様?ですが』
『その者を呼んだのは私です』
冷静さを欠いていた俺の目の前にスゥ嬢がやってきた。何を話しているんだ
『ショウタ、お願い』
名前を呼ばれた。それだけは分かった。目に浮かべられている涙を見た時、俺の感情は凪になった
◆
「王様、王様!聞こえていますか?」
王様は視線の定まらない様子で俺を見ていた。口は動かせているものの声になっていない様子。意識は朦朧、意識の有無は僅かに震えている瞼頼りだがいつ閉じてもおかしくない状況に俺はできることを考える
「(吐かせるべきか、いや先ず解毒薬を…)」
様々な選択肢が駆け巡る。毒性の判明していない状況での早急な処置はかえって毒を全身に拡散させ、状態を悪化させる可能性もある
一先ず解毒薬を服用させる。幾分か顔色は良くなったものの如何せん悪化の一途を辿っている状況に変わりなかった。解毒薬はそもそもが体内の解毒を補助する中和薬だ。毒の回復は本人頼りでしかない
「(脈が早い、身体が熱い)」
王様の体調は悪くなっていく、しかし、その毒性は【毒殺】と言うよりは【拷問】の類の様に感じられた。手持ちの解毒薬でどうにか時間稼ぎをする
「(一か八か吐かせるべきか?嘔吐薬ならある
回復薬は使えないし)」
刻一刻と差し迫っているであろう王様の死を回避するべく近くにあったワインボトルの中身で『専攻調合』の準備を始める。これの毒性が判明すれば逐一それを中和できる『特効調合』ができるが、毒そのものの解析が必須。その前段階の解析準備に入る
「(解毒薬の方が先に切れる…)」
しかし、素人目に見ても王様への解毒薬の投与頻度と比較してギリギリ間に合わないことが勘で理解していた
◆
「…(クソ)」
毒の解析はようやく沈殿が始まった辺り───内容の透析に漸く入った。その時点で手持ちの解毒薬が半分を切った。ギリギリどころではない、間に合わない
「(ヤバいやばいヤバイ)」
王様の体調が良くなる兆しが感じられず、手持ちの解毒薬を半分使い切ってもこの体たらく、自然治癒によるこの毒からの回復は見込めないことが分かった
「早く!早く!頼む」
透析、その後に調合。手間取らなければ間に合う。いや間に合わせてみせる
「(だから頼む、早く終わってくれ)」
◆
解毒薬が残り僅かになり、ワインの内容物が層分けされていく、余裕はないが間に合わない程ではない、そう思っていた
「(…は?)」
ワインの内容物からは『毒物』が『アルコール分』しか検出されない様子が俺の調合道具から確認できた
「(急性アルコール中毒?アレルギー反応?
いや、それなら解毒薬で事足りる
本人がそれを失念する?可能性はある
アルコールならスゥ嬢の父上の弟気味だ
下戸なら家族が知っている筈…)」
分析後のワイン───唯一の手掛かりを失い、手の中の王様に『最後の解毒薬』を咥えさせた。それの意味するところは『間に合わず、手の施しようがない』だった
「ふざけんなよ」
俺のミスで国一つ滅ぶとか、何だよそれ。クソが…どこで間違えた?何か見落としたか?このまま膝の上で王様を見殺しにしろと?
「(冗談じゃねぇ
手違いで異なる世界に強制移住から
この仕打ちってマジかよ)」
解毒薬の残りが半分に差し迫っていた




