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社交界の最中に起きた最悪

◆◇◆◇◆


 大広間。この日の祝賀会の為に設けられた王城の一室。広々とした空間に玉座が最奥にて鎮座する造りをしている


「(玉座とその傍らにある小さな机、ワイングラス

 カバーのついた円机が無数に配置されている)」


 スゥ嬢の警戒では今夜、この場で一悶着ありかねないとのこと───ともなれば疑えば疑うほどにここに訪れた人が怪しく見える不思議


 特別に武器や道具の持ち込みを許された一方でそんな万が一が起きた時、真っ先に疑われるのは俺たちで俺は肉盾にしかなれないこと、それも薄く頼りないこと間違いなしの薄壁───精々が人の波を押し留められる程度だろう


「(怖え、魔法装備じゃないのがめっちゃ怖い)」


 自分の耐久の無さを自覚し、道具で補強していたのでいざそれを没収された時の不安ときたら筆舌に尽くし難い程の恐怖が俺に震えをもたらせる



『案外と静まっているのでござるな』

「そうですね」


 祝賀会の時間が差し迫ると付き人を連れたお偉いさんがやってき始めた。その身なりはあからさまに貴族と分かるものから、一見すれば大人しめな造形のものまで幅広く、皆一様に華やかに着飾っており、ランウェイとなっていた



 人が揃えば必然的に騒めきを生み出した。聞くところによれば王様への賛辞を語る者もいればその若さと傲慢さに否定的な言葉が飛び交っていた


 そんな折、王様が部屋の中へと入ってくるとその騒めきも一瞬で鎮まり返った。王様はそのまま玉座に腰掛けた



 運ばれてくる料理には市場では見慣れない食材も含まれており、この祝賀会を借りての御披露目の意味も兼ねているのだと思った


「今回開拓した流通網からの輸入品の御披露目

 それが"主役"なのでしょう」

『各国のお偉いさんが来てるわね…』


 リンゼさんの不在に一抹の不安を覚えつつ見張りを続ける。今この場を離れるのは得策ではないと思ったが、こうなるならレイムさんに頼み事をしておけばよかった


「リンゼさんが居てくれたら

 少し無茶できるんだけど…」


 ないものねだりをしても仕方ないか



 程なくして王様が玉座に座すると円卓の並ぶ大広間。各テーブルに配置された食事類が代わる代わる配膳されていく、そのどれもが絶品で、宮廷料理というものだろうか。王様の好みが輪郭だけでも掴めそうな程に完成された皿の数々だった


 玉座に座っている王様も一口大のそれを口にするのが確認できた


『少し量が…』

『これ味が薄いんじゃない』

「…」


 人の料理の好みって大変だな



 少し口の中が寂しくなった頃、扉の先から人や亜人の方々が"ゾロゾロ"と会場に入ってきた。その手にはからのワイングラスと酒瓶が握られており試飲会の雰囲気に早変わりした


 そんな中、王に近づいて行く女性。亜人の女性に見覚えがあり、ふと視線が固まった。長い金髪、そこから大きな耳が頭頂部より生えており、その先端に差し掛かる程に黒の毛が目立つ特徴的な毛並み、それとは対照的に尻尾の先端は徐々に白くなる見た目をしている


「(あの人…)」

『あの方、ひょっとしてアルマ殿の…』

『何よ、知り合い?』


「オリガさんと言って以前王都に訪れた時に少し」

『知り合ったのでござる』


 仕事で、と言っていたのはこう言うことだったのか



『お集まりの皆さん』


 王様がワイングラスを持ち上げ、オリガさんが開栓、注ぎ始めた。俺たちの方にもワインが注がれ始めた。薄黄金色と言った様子のワイン、鼻を近づければ仄かに甘い香りと花に似た奥深い匂いがしていた


「ブドウじゃないワインだ」


 酒場に置いてある赤や白のワインとは別種のものを感じた


『甘い香りでござるな』

『いい匂い』


 ここの法律がどうかは知らないもののスゥ嬢もワイングラスを持ち上げているところを見るに問題はないのだろう


 王様が挨拶を終える。内容はミスミド王国との和平並びに交易路の開拓を大々的に祝うための宣言をするものだった


『───この平和を永遠(とわ)に』

「…」



 周りの御仁に合わせ立ち上がり、ワイングラスを掲げて、皆に合わせて口をつける。甘い香りと少しのエグ味、それが過ぎた瞬間に訪れる甘味の強さといったら、俺も一本買おうかな


『ッグ!』

『王様?』


 そんなことを考えていると感性が上がる中、俺の耳に届いた嗚咽により少し回っていた酔いが一瞬で吹き飛び、背中に冷たいものが垂れてきたのを感じた


 視線を上げた時。そこにあったのは心臓の辺りを押さえて苦しむ王様と狼狽するオリガさんだった


『この獣人め!』

『奴をひっ捕らえろ!』


 会場に悲鳴と混乱、激昂が入り乱れる予兆が始まった。惚ける暇はない


「九重さん!エルゼさん!」

『分かってるでござる』

『行くわよ』


 俺は袋を担ぎ、走り出した

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