旧王都の地下にあったもの
◆◇◆◇◆
『すみません、派手過ぎました』
涙を拭いながらリンゼさんが俺たちに振り返った
「彼もきっと成仏できたと思います」
『武人たるもの華々しく散るもまた誉でござる』
『リンゼなりに考えたんでしょ、文句はないわ』
死体を残せば疫病の原因になる。彼の遺族や子孫に遺品ばかりは返さなければ、それが彼へのせめてもの報いだと思った
『…』
「『リンゼ』さん?」
『はい、なんでしょうか』
無理している。そう感じた。それでも今声を掛けるべきか迷った───彼女の心根が優しい故に『トドメ』その行いが齎す精神的な負荷が俺にはまだ分からずにいる。軽率に踏み込めば深く抉るかも知れない
「いえ、なんでもないです」
『変なフジノミヤさん』
「(弱いな俺…)」
◆
「ん?」
『何よフジノミヤ』
『お?鉄門でござるか?』
俺の視線の先には両扉が目に入った。こんなところにあったっけと思いつつ、視線を戻すとエルゼさんと九重さんがそこには居らず、視線を扉に戻してみれば開け放たれた扉だけがあった
「ちょちょちょ、なんばしよんか!」
『ここまで行ったらとことんでしょ』
『でござる』
扉の先、出迎えの景色は地下へと続く石の階段だけがぽっかりと口を開けていた。2人はそこを嬉々として下ろうとしていた
こういう時だけ意気投合せんでよろしい。てか、この扉の材質なんだ?鉄にしては持ちが良すぎる。錆もなければ傷すらない、それに何だこの吸い付くような質感───不気味だ
◆
『真っ暗でござる』
『リンゼ、ライトを…ってリンゼ?』
『え?あ、うん。光…』
「『リンゼ』さん、『ここ』は『任せて』下さい」
『で、でも』
「『かなり魔力』を『使っていた』ので」
『…分かりました』
俺は松明に火をつけてエルゼさんに手渡した。石の階段は人が踏んだ形跡すらなく、踏みしめても滑ったりすることはなかった
地下を進み続け、やがて階段は緩やかな角度で螺旋を描き、どこまでも地下へと伸び続けていた。歩いているうちに地上に帰れるのか不安が押し寄せるが問題はないだろう
やがて長い階段の終わった先に、広い石造りの通路が現れ、松明の光ばかりが真っ直ぐ延びるその先の闇を薄ぼんやりと照らしていた
何があるのか全く見えないがこの世界において魂やら幽霊やらがいたところで驚くことはできないだろう
『な、なんか…気味悪いわね…幽霊でも出そう…』
『なっ…なにを言ってるんでござるかエルゼ殿!
まさか、ゆっ、幽霊など出るわけない
でござるよ!…ね?』
◆
何やかんやありまして、現在先頭にて松明を持たされているフジノミヤです。その後ろにリンゼさん、九重さんとエルゼさんは最後尾争いを繰り広げている
進むたび、だんだんと通路の天井が高くなっていき、やがて大きな広間へと到着した
「なんだこれ…?」
そこにあったのは正面の壁いっぱいに描かれた、何かの文字らしき物だった。高さ4、5メートル、長さ10メートル位の壁一面に、びっしりと何段にも続いて書かれていた
『リンゼ、なんて書いてあるか読める?』
『いえ…まったくわかりません
古代魔法言語…とかでもなさそうです』
目の前の壁を茫然と眺めるだけというのも"つまらない"この手のものは保存状態が良いうちに写すのが吉ながら生憎とそのような道具は現在持ち合わせていないので写真に収めていくことにした
「写真撮りまぁす」
『なんでござる!?』
「(しまった、写真伝わらないじゃん)」
突然の閃光に九重さんたちが肩を弾ませた。驚かせてしまったこと「謝罪をしつつ、手の中のスマホを見せるとみんな安堵のため息をついた
『これがシャシンというものでござるか』
『光る箱、無属性魔法を詰めた魔法道具みたいね』
『凄いです。こんなに小さな魔法道具なのに』
◆
それぞれに松明を渡し、広間を探索する。壁画以外に特に目ぼしいものはないだろう
『ねぇ!ちょっと?』
エルゼさんが突然声を上げた。広間の右壁側、その壁の前にいた彼女は壁の一部を注意深く観察していた
『ここ、何か埋まってるわ』
目線の高さに茶色っぽく透明な菱形の石がひとつ、埋め込まれていた。手のひらに収まる程度の大きさ、宝石の様なものだった───それは簡単に取れエルゼさんは慣れた様子でリンゼさんに手渡した
『これは…魔石ですね。土属性の魔石です
おそらく魔力を流すとなにかの仕掛けが
起動するのでしょう』
「『罠』の『類い』の『可能性』が『あり』ますね」
『その可能性もないとは言えませんけど
こんな見え透いた罠とか、普通ありえません』
『でもこの中に適性を持つものはいないでござる』
『無駄足だったわね』
魔石を元の場所に戻し、俺たちは地下を後にした。今度は土の適性がある人でも連れてくるべきだな




