路銀稼ぎ、廃墟の騎士
◆◇◆◇◆
王都までの道のりの2日前予定地点にて『首なし騎士の討伐』を受けた───廃墟の内、前線で盾を構え、隙を作るいつもの戦法をしながらそれに対峙する。体躯の差なんていつも通りなため受け流しを自然と身につけて尚、腕に痺れを受けるくらいには威力が洒落になっていない大剣の一振りを地面目掛けて逸らす
「『九重』さん!」
『承知!』
それでも振り抜けた剣に追撃の盾による肉薄を行い大剣を僅かな秒数でもその場に繋ぎ止め隙を作る。九重さんはその隙に鎖骨の辺りにふた太刀を叩き込んだ
『手応えありでござるが』
「(効いてるのか、これ?)」
しかし、陰に溶け込む黒さをした鎧を着た大剣使いへの有効打とはならなかった
巨大な体躯のその力強さは言わずもがな、それを支える両足は大地を歪ませ離さず、大剣を振るう両腕はいいとして、そもそも生物の肝心の弱点が既に首の先に存在していないのだ
「アレでなんで俺たちが見えてる動きができるんだよ」
『不気味でござる』
『光よ穿て、輝く聖槍、シャイニングジャベリン』
不意に聞こえた声に振り返ると首なし大剣使いにリンゼさんが杖の先を向けていた。その先端から眩い光を放つ槍が真っ直ぐに飛んでいき、左肩を貫いて吸い込まれていった。腕が力無く垂れたところを見るに
『有効打はリンゼ殿の光の魔法でござるな』
「ですかね『足止め再開』」
『承知』
大剣使いの一撃の威力は変わらないものの片腕の機能が先の槍により無効化されているのか回避できる余裕が生まれていた
大剣の可動域もそれに合わせて狭くなり、九重さんの攻撃が苛烈さを帯びてきた。傷口から人間のように血液が飛び散る代わりに黒い霧状のものが漂っていた
「(闇属性?黒いローブの時と同じ)」
俺はそれにやや見覚えがあった。スゥ嬢を襲ったあの黒フードの操っていた闇魔法。それに非常に酷似していた
攻撃の合間からもう一節、ガントレットが大剣使いの脇腹を拳で抉り、続け様にグリーブ越しの鋭い回し蹴りが脇腹を深々と抉り取った
『お待たせ、っと!』
「っぶな」
『おわとと』
大剣使いが一瞬よろめいたかと思えば、足捌きにより加速へと変わった大剣の一撃が周囲に放たれた。首めがけ横に薙ぐ一撃に全然3人とも回避を選択した
『下手に攻撃するのは止めるでござる!』
『何よ!』
「『2人』とも『喧嘩』は『後で』」
『炎よ来たれ、煉獄の火球、ファイアボール』
余裕が生まれたからと油断するのはよくない。そんな中でもリンゼさんの魔法が大剣使いに炸裂するも光魔法と比べて効果は今ひとつの様だった
「『リンゼ』さん『光魔法』を『優先』」
『は、はい』
『しぶといでござる』
『持久戦になったら不味いわよ?』
リンゼさんの才能頼りなのが歯痒いもののできることは足止めばかり、物理的な攻撃が効いている素振りを一切感じない
「(俺の方は左腕の痺れが良くなってきたけど)」
確かに持久戦は好ましくない。恐らく相手は無尽蔵のスタミナを持っている。人の背丈を悠に超える大剣を何度も苦なく振り回しているのがその証拠だろう
両の腕すら飾りとでも言いたげな立ち回りが面倒くさい、向こうと違って、こちらはあの大剣を一度でもまともに喰らったなら、その部位が吹き飛ぶだろう
リンゼさんは光魔法を扱える程度で得意としていない、火属性や氷属性の詠唱速度が目に見えて長いのはそういうことだが、使えるそれが今の有効打なら
「『リンゼ』さん、『放つ時』は『合図』を」
『え?わ、わかりました!』
九重さんとエルゼさんが動き出す。しかし、足並みがやや不揃いだが
『エルゼ殿、邪魔でござる』
『九重こそ!』
口でこそ喧嘩はするものの違いの攻撃が被る瞬間は大雑把にでも2人して避けているため、根から仲が悪いわけではないことが分かる
「(俺も準備するか)」
俺は布切れ───訳あり商品の素材を麻袋から取り出し、『接着剤』で雑に貼り付けていく、効果は【保有しない属性への脆弱性獲得】
『フジノミヤさん!準備完了しました』
「『色』の『違うところ』を『狙って』下さい」
リンゼさんがうなづいた
「『退避』」
『光よ穿て、輝く聖槍、シャイニングジャベリン』
勢いよく飛び出した槍は退避するエルゼさん、九重さんを通り抜け大剣使いの心臓の周辺を広々と抉り炸裂した
「(…)」
胸中に大きく開いた穴から黒い霧が溢れ出し、大剣使いは膝をついた。それでも剣を握りしめたまま、完全に倒れ伏すことなく風に散っていき、やがて動くことをやめた
◆
『片付いたわね』
『疲れたでござる〜』
「『お疲れ』様です」
エルゼさんが安堵を洩らし、九重さんは肩で息をしながら地べたに寝そべった。今回の功労者は姉妹だな
「『一角』狼は『どうし』ましたか?」
『20位倒したら群れが離れていったわ』
「なるほど、『ありがとう』ございます」
これは要報告事項かな。生息域が被っていたことは由々しき事態だ。もしかしたら何かの前兆やも知れない
◆
『よかった』
「『お疲れ』様です」
リンゼさんも安堵を口にした。俺と九重さんが緑カードになり報酬がいいからということで今回の依頼を受けたものの属性相性に左右される形になった
見通しがやや甘かったものの討伐できて何よりだ
◆
休んで貰っている間に廃墟の探索を行う。依頼書から、この廃墟は旧王都だったそうだ。当時の王はこの土地から現在の王都の位置に移動したのか
それで1000年近く王都が変わることなく存在しているというのは当時の王の手腕あってのことだろう。感服の意がため息となって漏れ出る
「(王都の建物と造りは変わらないか)」
当時はどうだったかわからない。蔦が蔓延り、草は伸び放題、崩れて見る影もない城壁、町の大雑把な造りを感じられる石畳と建物の基礎の配置
「(そしてここが)」
王都の造りそのままなのであれば目の前にある大きな廃墟は旧王城だろうか。戦闘の余波で上がった土煙や廃墟特有の臭いが鼻につく、大きく開いた城の壁は経年劣化によるものだろうか
「昔の王都も栄えていたのかな…」
辺りを見渡しても崩れた外壁、民家、城、大きな穴の空いた城壁ばかりだ。それでも振り返れば美しい眺め見晴らしのいい丘の上であることを思い出させる…あれ?
◆
『王の隠し財宝とかあったら
面白いんでしょうけどね』
『いや、それはないでござろう
国を滅ぼされたならともかく
ただ遷都しただけなのでござるから
宝など全て持っていってござるよ』
『わかってるわよ、言ってみただけ』
『フジノミヤさんは?』
『『え?』』
ここの壁、変だな。劣化だとしても崩れ方が独特すぎる。そういう建材かも知れないが俺にはどうも【何か強い力が加わった壊れ方】に見える
「(それが旧王都を放棄した理由?)」
素人目にみてこの場所を王都の中継地点に沿える事もできた様に見えた。ここから王都までの道のりに町や村がないのは些か不自然に見えて仕方がない───歴史や地理をサボっていたツケがここにきて響いてくるとは思わなんだ
『どうしたのよフジノミヤ』
「『エルゼ』さん、『ここ』」
尋ねてくるエルゼさんに壁の崩れ具合を見てもらった
『確かに、何かぶつかった見た目だけど
王都を放棄した後かもよ?これができたの』
「『ですね』」
杞憂だったか
『でっ、でも、フジノミヤさん
1000年も放棄されていたのに石材は残って
ここだけ崩れるのは、変じゃないですか?』
「(不味い早口で聞き取れなかった)」
まだ聞き取れない箇所があるな
『さっきの道具みたいに何か使えるものは
ないですか!』
俺は猫型ロボットではないんだが、確かに何か使えるものはないだろうか…あ、ひとつあったな
『何かあるんですか!』
『またいつものじゃないの?リンゼ早口だったし』
『そ!そんな事ないもん』
『地図』から『ストリートビュー』に飛び『年代別』の『視界』を再現、と…これは
「マジか」
『何かあったでござるか?』
『何々?』
『何かあったんですか?』
俺のスマホが映し出した『1000年前の旧王都』の視界は火の手が上がり、建物が崩れる真っ最中だった
「これは…」
『戦争でござるか?』
『でも王都の人間以外いなさそうです』
『皆さん、この方』
そこには大柄な男性騎士の姿があった。大剣を振り、敵に対して勇猛果敢に突撃している様子のそれは『首なし大剣使い』の体格に酷似していた
「『弔いま』しょう」
『拙者も』
『アタシも』
『私も』
彼の形見を一つづつ取り、急拵えながらに死装束を編み込む、この世界の弔い方が分からないものの、彼に誉ある死を送りたい。彼の手から剣を受け取る
小手の内側、皮の部分のすり減りが生前とこれまでの歴戦を物語っていた
◆
『炎よ爆ぜよ、紅蓮の爆発、エクスプロージョン』
リンゼさんがそう呟く、地面に熱が籠り始め、火の粉を吐き出し、天まで上がる火の柱を上げた。上がる火柱は彼への手向けとしたい、死して尚王都を守り続けた彼への報いとして




